自殺防止に特化した治療アプリが自殺リスクの高い成人の自殺行動を効果的に抑制
提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン
自殺防止に特化した認知行動療法(CBT)を提供するスマートフォン(以下、スマホ)のアプリは、自殺リスクの高い成人における初回自殺未遂までの時間には影響しないものの、自殺念慮の減少とその維持に役立ち、また、自殺未遂歴のある者では再発予防と臨床的改善に有効であることが、「JAMA Network Open」に2025年8月8日掲載された研究で明らかにされた1。
米オハイオ州立大学医学部のCraig J. Bryanらは、2022年4月から2024年4月の間に自殺リスクのため入院した18歳以上の患者339人(平均年齢27.9歳、女性66.1%、原疾患は大うつ病性障害や不安症など)を対象に、自殺防止特化型のCBTを提供するスマホアプリを用いた介入により自殺行動を減らすことができるか検討した。対象者に、まず自殺リスク評価、支持的傾聴、危機対応リソース、臨床医による評価、安全に過ごすための対策、外来への紹介などから成る通常の治療(TAU)を行った。次に、デジタル治療アプリによる介入を受ける群(治療群、168人)または対照アプリによる介入を受ける群(対照群、171人)にランダムに割り付けた。
デジタル治療アプリは、自殺防止特化型のCBTに基づく12セッションの教育モジュール(各10〜15分)で構成されていた。対照アプリも12セッションで構成されており、その内容は、TAUで通常提供されるようなものであった。全ての対象者は、入院中に第1回のセッションを受け、その後のセッションは退院後に自分のペースで実施可能だった。
対象者を、ベースラインから4、8、12、24、52、78、104週目にリモート面接により追跡調査した。主要評価項目は、追跡期間中の初回自殺未遂までの日数、副次評価項目は、自殺念慮の変化(ベースラインから24週まで、Scale for Suicide Ideation〔SSI〕で評価)、臨床医による改善度(Clinical Global Impression for Severity of Suicidality〔CGI-SS〕で評価)などであった。
1回以上の追跡調査を受けた266人を対象に最初の自殺未遂までの時間を評価したところ、治療群と対照群の間に有意な差は認められなかった(ログランク検定:χ21 =3.6、P=0.06、ハザード比〔HR〕2.01、95%信頼区間〔CI〕0.96-4.19、Cox比例ハザードモデル:HR 1.94、95%CI 0.92-4.08、P=0.08)。しかし、自殺未遂歴を有する170人に限れば、治療群で対照群に比べて自殺未遂の再発率が58.3%有意に低いことが示された(ゼロ過剰負の二項分布〔ZINB〕モデル、0.70回対1.68回/人年、調整率比〔RR〕0.42、95%CI 0.18-0.95、P=0.04)。これら自殺未遂歴のある者では、完了したモジュール数が1つ増えるごとに自殺未遂の再発率は14.0%低下した(調整RR 0.86、95%CI 0.76–0.98、P=0.02)。
CGI-SSスコアによる評価で臨床的改善を達成した割合は、治療群で95.8%、対照群で89.2%であり、両群間に有意な差はなかったが(ロジスティック回帰、オッズ比2.84、95%CI 0.80-13.29、P=0.11)、自殺未遂歴のある者においては、差は有意であった(97.9%対87.5%、OR 7.59、95%CI 1.14-153.62、P=0.04)。
さらに、SSIスコアのベースラインから24週までの経過を、混合効果モデルで評価したところ、群×追跡調査時点の相互作用は有意であり(調整F3,206=2.9、P=0.04)、治療群では24週目まで持続的に自殺念慮が減少したのに対し、対照群では12週目まで自殺念慮が減少したものの、12週から24週までは増加に転じた。
Bryanは、「自殺防止に特化した治療は、自殺念慮や衝動の軽減に非常に効果的だが、退院してからこのような治療を行ってくれる人はなかなか見つからない。自殺防止特化型の治療アプリを使えば、このことは解決できると思われる」と述べている。
なお、数名の著者が、この研究に資金提供したOui Therapeutics社との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(HealthDay News 2025年8月14日)
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