スマホアプリが乳がん患者の再発に対する恐怖の軽減に有望

乳がんサバイバーが抱える再発に対する恐怖(fear of cancer recurrence;FCR)を軽減する手段としてスマートフォンのアプリケーション(以下、スマホアプリ)が有望である可能性が、名古屋市立大学大学院精神・認知・行動医学分野教授の明智龍男氏らによる研究で示され、その詳細が「Journal of Clinical Oncology」2023年2月10日号に掲載された1

明智氏らは、患者が来院することなく遠隔で臨床試験に参加できる分散型臨床試験を実施し、患者が自分で認知行動療法を実施できるスマホアプリの有効性を検討した。試験参加者は、手術後1年以上が経過した、再発のない20〜49歳の乳がん患者447人で、このうちの223人を通常の治療に加え、「解決アプリ」および「元気アプリ」の2種類のスマホアプリを使用する群(介入群)に、残る224人を通常の治療のみを受ける群(対照群)にランダムに割り付けた。解決アプリは、日常生活問題の解決策の選択法を習得するアプリで、9セッションで構成されている。元気アプリは、喜びや達成感のある活動を実行してそれを評価するもので、6セッションで構成されている。両アプリとも1セッション完了に要する時間は10分程度である。

主要評価項目は、日本語版再発についての心配尺度(Japanese version of the Concerns about Recurrence scale;CARS-J)で評価したFCRとした。副次評価項目は、Fear of Cancer Recurrence Inventory short form(FCRI-SF)で評価したFCR、Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)で評価した不安と抑うつ、Short-form Supportive Care Needs Survey(SCNS-SF34)で評価した心理的ケアの必要性、日本語版外傷後成長尺度(Japanese version of the Posttraumatic Growth Inventory;PTGI-J)で評価した精神的な外傷を受けた後の成長、および介入に対する満足度(0〜100で評価)とした。主要評価項目と副次評価項目については、ベースライン、介入から8週、24週などの時点のデータを使用し、非構造化共分散とロバスト標準誤差を用いた一般化線型モデルにより、ベースラインのCARS-Jスコア、どちらの治療法か、時間、および治療と時間の交互作用を固定効果として分析した。また効果量(Cohen’s d)も算出した。

データの得られた444人を対象に検討した結果、8週の時点で、介入群では対照群に比べてCARS-Jで評価したFCRが有意に改善していた〔差−1.39、95%信頼区間(CI)−1.93〜−0.85、P<0.001、Cohen’s d=0.32〕。同様に、8週の時点で、FCRI-SFで評価したFCR(同–1.65、−2.41〜−0.89、P<0.001、Cohen’s d=0.25)、HADSで評価した抑うつ(同−0.49、−0.98〜0、P<0.05、Cohen’s d=0.19)、SCNS-SF34で評価した心理的ケアの必要性(同−1.49、−2.67〜−0.32、P<0.05、Cohen’s d=0.16)についても有意な改善が認められた。さらに、介入群において、CARS-JのFCR、FCRI-SFのFCR、SCNS-SF34の心理的ケアの必要性につき、8週と24週とを比較したところ、いずれも有意差は認められなかったことから、この間、効果は持続していると判断された。加えて、HADSの抑うつについては、24週では8週よりさらに改善していた(差−0.32、95%CI −0.62〜−0.03、P=0.03)。

著者らは、「乳がんサバイバーの数は非常に多いにもかかわらず、心理療法を提供できる療法士の数は限られていることから、これらのスマホアプリをベースにした心理療法は、がんサバイバーのFCRを軽減するための有望な方法となり得るのではないか」と述べている。(編集協力HealthDay)

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参考文献

  1. Akechi T, et al. Journal of Clinical Oncology 2023 February 10;41(5):1069-1078.