未就学児のうつ病への介入は長期に渡り有益な効果をもたらす
提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン
未就学児のうつ病に対し、親子相互交流療法-感情発達版(PCIT-ED)を施すと、その効果は数年に及び、かつ向精神薬や入院などの精神科医療サービスの利用の減少にも関与していることが「Journal of the American Academy of Child & Adolescent Psychiatry」に2025年6月26日掲載された論文で明らかにされた1。
未就学児における大うつ病性障害(preschool-onset major depressive disorder;PO-MDD)に対するPCIT-EDの効果は、短期間は続くことが判明しているが、長期的な効果は不明である。米ボストン大学医学部のMei Elansaryらは、その治療終了から4年後における効果や、4年後の時点で寛解している児において精神科医療サービスの利用と向精神薬の処方が減少したかを検証した。対象は、2014〜2018年の3〜6歳時(平均5.21歳、標準偏差〔SD〕1.02歳)にPCIT-EDに関する臨床試験に参加し、計20回の治療セッションを15回以上受け、治療完了から平均4.20(SD 0.94)年後の8〜12歳時(平均10.2歳、SD 0.97歳、男子68.6%)に追跡調査を受けた105人である。
治療前、治療後、約4年後(思春期前)の3時点で多数の項目の評価を行った上、思春期前において寛解となっていることを予測する因子を治療前と治療後の項目から抽出した。寛解の定義は、MDDまたはMDD-NOSの診断が該当せず、かつMDDの中核症状スコアが治療前から50%以上減少している場合とした。評価項目は、児のMDDの中核症状スコア、児の行動のチェックリスト(CBCL)のスコアで評価した外在化障害(注意欠如・多動症、反抗挑発症〔ODD〕、素行症など)、内在化障害(全般性不安症、強迫症など)、友人関係、睡眠、児の機能(社会性・学業など)、児の治療歴、親子の対立(parent-child conflict tactics scaleで評価)、児の訴えに対する親の態度(慰めるなどの情動焦点対応、問題解決に向けた問題焦点対応、矮小化する対応、罰する対応など6種類)などだった。
思春期前の時点で寛解していた児は60人(57.1%)と多数を占め、非寛解児は45人だった。治療後のMDDの中核症状スコアの平均は寛解児で1.00と、非寛解児の2.98より低く、ロジスティック回帰分析の結果、オッズ比(OR)0.47、95%信頼区間(CI) 0.34–0.65 (P<0.0001)と有意差を認めた。治療前から治療後へのMDDの中核症状スコアの低下幅の平均も寛解児では-4.03と、非寛解児の―2.07より大きく、OR0.64、95%CI 0.51–0.80 (P<0.0001)と有意差を認めた。また、治療後に外在化障害のうちのODDがある率は寛解児では5.0%と、非寛解児の29.6%より有意に低かった(同0.16、0.04–0.62、P=0.0083)。外在化障害スコアの平均をみると、治療前では寛解児で62.62と、非寛解児の68.07より有意に低く(同0.95、0.91–0.99、P=0.0152)、治療後でも寛解児では49.38と、非寛解児の58.18より有意に低かった(同0.93、0.89–0.97、P=0.0014)。治療後の親の情動焦点対応の平均スコアも寛解児で5.72と、非寛解児の5.13より有意に高かった(同2.02、1.27–3.20、P=0.0029)。なお、治療前後の親のうつ病や親子の対立と、思春期前の時点における児の寛解との間に有意な関連は見られなかった。さらに、寛解児では、α作動薬(同0.23、0.07-0.72、P=0.0114)、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(同0.26、0.09-0.71、P=0.0085)、非定型抗精神病薬(同0.09、0.02-0.50、P=0.0063)の現在までの使用経験が有意に低く、α作動薬(同0.08、0.01-0.42、P=0.0032)と非定型抗精神病薬(同0.12、0.02-0.67、P=0.0158)については現時点での使用率も有意に低かった。また強力な精神医療介入(入院治療など)の利用率も有意に低かった(同0.21、0.06-0.75、P=0.0166)。ただし、外来治療の受療率に有意差は見られなかった。
Elansaryは、「今回の結果は、PO-MDDの児に対してPCIT-EDを実施すると、思春期前の時期にメンタルヘルスの問題が生じるリスクが減ることを示す有望なエビデンスだ。特に、寛解を達成した児では、向精神薬の使用や集中的な精神科医療介入が大幅に減少したことは注目に値する。これは、児の長期的な経過がさらに良い方向へ向かっていることを示すものと思われる」と述べている2。(HealthDay News 2025年7月10日)
Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.
Photo Credit: Adobe Stock
※本コーナーの情報は、AJ Advisers LLCヘルスデージャパン提供の情報を元に掲載しており、著作権法により保護されております。個人的な利用以外の目的に使用すること等は禁止されていますのでご注意ください。


