
閾値下うつに対する心理学的介入は大うつ病性障害リスクの低下に有効
提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン
抑うつ症状を呈するが大うつ病性障害(MDD)の診断基準を満たさない「閾値下うつ」の成人に対する予防的な心理学的介入は、MDD発症リスクの低下に12カ月間は有効であることが、「The Lancet Psychiatry」2024年12月号に掲載された論文で明らかにされた1。
オットー・フォン・ゲーリケ大学マグデブルク(ドイツ)のClaudia Buntrockらは、閾値下うつの成人におけるMDDの発症に対する心理学的介入の予防効果を検討するため、システマティックレビューとメタアナリシスを実施した。対象文献として、心理療法に関する臨床試験のデータベースであるMetapsyから、英語、ドイツ語、スペイン語、オランダ語のいずれかの言語で2023年1月までに発表された、18歳以上で、閾値下うつ、すなわちベースライン時点で軽度の抑うつ症状を有している者(PHQ-9〔Patient Health Questionnaire-9〕のスコア≧5)を対象に、MDD発症に対する心理学的介入の効果を介入待機群や通常ケア群などの対照群との比較で検討したランダム化比較試験を42件抽出した。このうち、個別被験者データ(individual participant data;IPD)を入手できた30件の研究データを用いて、一段階IPDメタアナリシスを実施した。解析には一般化線形混合モデルを用いて、MDDの発症、抑うつ症状の重症度、症状のベースラインから50%改善、症状のほぼ寛解(PHQ-9<5)、信頼できる改善および悪化(信頼性変動指数〔reliable change index;RCI〕に基づく)に対する効果を評価した。対象者の総計は7,201人(介入群3,697人、対照群3,504人)で、平均年齢は49.9歳、男性2,227人(30.9%)、女性4,957人(68.9%)で、17人(0.2%)は性別を明かさなかった。
その結果、心理学的介入は、介入終了後(発症率比〔IRR〕0.57、95%信頼区間〔CI〕0.35-0.93、P=0.010、18件の研究)、追跡期間6カ月まで(同0.58、0.39-0.88、P=0.020、18件の研究)、および12カ月まで(同0.67、0.51-0.88、P=0.003、19件の研究)のMDD発症の有意な低下と関連していることが示された。しかし、24カ月まででは有意な効果は見られなかった(同1.16、0.66-2.03、P=0.691、6件の研究)。また、心理学的介入歴のない人(同0.39、0.25-0.62)では、介入歴があった人(同0.92、0.61-1.36)に比べ、介入の予防効果が大きかった(P=0.029)。
その他のアウトカムについても、介入終了後(28件の研究)、追跡期間6カ月まで(23件の研究)、および12カ月まで(23件の研究)では、抑うつ症状の重症度の軽減、抑うつ症状がベースラインから50%改善した患者の増加、症状のほぼ寛解、信頼できる改善が認められる患者の増加、および信頼できる悪化が認められる患者の減少に対する介入効果が確認されたが (p≦0.003、データの詳細は参考文献1参照))、24か月までの追跡調査(11件の研究)では、いずれについても有意でなかった(p≧0.100)。
全体としては、ベースライン時点の抑うつ症状の重症度の高さと心理学的介入の効果との関係は線形ではなかったものの、PHQ-9スコアおよびGAD-7に基づく不安の症状が強いと、MDD発症リスクの低下に対する介入効果は大きくなる傾向は認められた*a。
著者らは、「うつ病の負担は大きいものがある。臨床医や、予防・治療法の策定に当たる者は、閾値下うつの人に対して予防的な心理学的介入を行うことが、実行可能な選択肢であることを念頭に置くべきだ」と述べている。
なお、1人の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(HealthDay News 2025年1月15日)
注釈
*a
【PHQ-9スコア】
5点(軽度の抑うつ症状):発生率比(IRR) 0.72、95%CI 0.53-0.99)
10点(中等度の抑うつ症状):同0.56、0.41-0.76
15点(中等度に重症の抑うつ症状):同0.59、0.45-0.78
【GAD-7スコア】
5点:IRR 0.71、95%CI 0.42-1.21
10点:同0.59、0.36-0.98
15点:同0.52、0.30-0.91
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