ルール変更に柔軟に適応するために必要な脳の長距離抑制経路を特定、マウス研究

行動戦略を変更するときに、脳の前頭前野の活動パターンを更新するために働く神経回路が特定された。米カリフォルニア大学のKathleen K. A. Choらによるマウス研究の成果で、本知見は、統合失調症の患者などで見られる行動の柔軟性の障害を理解するために役立つ可能性があるという。詳細は「Nature」2023年5月18日号に掲載1

生物は環境変化に適応するために、脳の活動パターンを変化させて行動戦略を更新する。しかし、統合失調症や双極性障害などの疾患では、もはや不適切となった以前の行動戦略への固執が見られることがある。過去のマウス研究において、ルールの変化に適応して新しい戦略を学習するためには内側前頭前野(mPFC)のパルブアルブミン(PV)陽性神経細胞が重要な役割を担うことが報告されている2-4。しかし、前頭前野のネットワーク動態を更新させる神経回路の作用については、まだ分かっていなかった。

そこで本研究では、PV陽性神経細胞からの情報伝達の様態を新たに特定し、同経路が認知行動の変化にどのように影響するのかを検討した。

まず、オプトジェネティクス(optogenetics:光遺伝学)を用いたマウス実験により、mPFCのPV陽性神経細胞が、対側mPFCで脳梁のGABA作動性シナプスを形成することが明らかになった。こうした脳梁へのPV投射は、錐体細胞が選択的に調節しているようであった(参考文献1 Figure 1d参照)*a

次に、こうした脳梁へのPV投射が認知行動に及ぼす影響を調べた。用いたのは「ルール変更学習 (rule-shift learning )」という認知課題で、マウスに特定の感覚的手がかりと餌が隠された場所の関連性を学習させた後、ルールを変更し、以前から存在していたが無関係であった別の感覚を手がかりに餌を探すように再学習させるものである。光遺伝学的手法を用いて、この認知課題を実行中のマウスにおいて脳梁へのPV投射のみを選択的に阻害すると、ルール変更後も以前の行動戦略に固執し、学習が上手く更新されなくなることが示された(参考文献1 Figure 2e、f参照)*b。一方、全ての脳梁投射を非特異的に阻害しても、ルール変更後の学習には影響しなかった(参考文献1 Figure 2i、j参照)*c

ルール変更に対し、行動戦略の更新が必要だとマウスが自覚したとき、PV陽性神経細胞の大脳半球をまたいだガンマ波の同期が増大することが過去の研究で報告されており4、この現象はルール変更の学習に不可欠と考えられる。このことと今回の結果を合わせると、脳梁へのPV投射は、大脳半球をまたいだ活動を調整する役割を果たしていることが推測された。実際、脳梁へのPV投射を阻害すると、ルール変更時のガンマ波の同期の増大が生じなくなることが確認された(参考文献1 Figure 3f、g参照)。さらに、こうしたガンマ波の同期障害に伴って、ルール変更を学習するときの前頭前野の活動パターンの再構成が抑制され、学習が遅延することも確認された。

こうした現象から総括すると、mPFCのPV陽性神経細胞からのGABA作動性の脳梁への長距離投射は、両半球間のガンマ波の同期を促進すると考えられた。この長距離抑制経路は、その他の脳梁への入力が以前に確立した神経表現を維持する能力を制御し、それによって前頭前野の活動パターンを維持から更新へと切り替えると推定された。

Choらは「PV陽性神経細胞からの脳梁への投射は、統合失調症やその関連疾患で見られる行動の柔軟性の欠如やガンマ波の同期障害を理解し、補正することにつながる可能性のある重要な神経回路だと思われる」と述べている。(編集協力HealthDay)

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注釈
*a
fast-spiking (FS) interneuronsとの比較、two-sided chi-square test、P=0.0008、n=93 cells、14 mice。

 

*b
DIO-eNpHR mice(n=8)対controls(n=7)、two-way ANOVA(task day×virus)、interaction: P<0.0001。
DIO-eYFP controlsでは成績に変化なし(P=0.11)、DIO-eNpHR miceでは成績が低下(P<0.0001)。
Two-way ANOVA with Bonferroni post hoc comparisons。

 

*c
Syn-tdTomato controls(n=4)対Syn-eNpHR mice(n=6)、two-way ANOVA(task day×virus)、interaction: P=0.38
Two-way ANOVA with Bonferroni post hoc comparisons。

参考文献

  1. Kathleen K. A. Cho, et al. Nature. 2023 May;617(7961):548-554
  2. Cho KK, et al. Neuron. 2015 Mar 18;85(6):1332-43.
  3. Canetta S, et al. Mol Psychiatry. 2016 Jul;21(7):956-68.
  4. Cho KKA, et al. Nat Neurosci. 2020 Jul;23(7):892-902.