アストロサイトとニューロンのタンパク質、強迫性障害の症状に異なる経路で影響か

強迫性障害(OCD)には脳のアストロサイトとニューロンがともに関与しているが、両細胞で発現しているタンパク質SAPAP3は、OCDの不安様症状と反復行動に対してそれぞれ異なる影響を及ぼしているというマウス研究の結果が、「Nature」2023年4月28日号に掲載された1。米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のJoselyn S. Sotoらによる報告。

アストロサイトは、中枢神経系のグリア細胞の中でも最も多い細胞であり、ニューロンと広く相互作用している。Sotoらは今回、マウスの脳の線条体を用いて、アストロサイトとニューロンの細胞膜と細胞質をそれぞれ区別した上で、タンパク質を網羅的に分析するプロテオーム解析の手法を確立した。

この手法により、アストロサイトとニューロンの細胞質と細胞膜にそれぞれ存在するタンパク質が特定された。アストロサイトにおける主要なシグナル伝達経路は脂質代謝、細胞間シグナル伝達、アクチン線維に基づく経路であり、ニューロンにおけるそれはイオン結合、受容体、シナプスシグナル伝達だと考えられた。さらにこの手法により、アストロサイトの5つの下位部位を識別できることが示され、それぞれの下位部位の生物学的機能に関わる分子学的機序も明らかになった。

アストロサイトに存在することが初めて確認されたタンパク質もあった。その一つであるSAPAP3は、過去の研究において、中型有棘ニューロンに存在し、ヒトのOCDおよび反復行動に関連することが報告されていた2-9。今回の解析において、SAPAP3は線条体の中型有棘ニューロンとアストロサイトに豊富に存在することが判明した(n=4、FDR<0.05)。アストロサイトのSAPAP3は、大部分が細胞質と微細突起の細胞膜付近に存在し、アクチン細胞骨格と相互作用を持つことが示された。

マウスにおいてSAPAP3をノックアウト(KO)させると、OCDに似た不安様症状と反復的毛づくろい行動を呈することが知られている4。このSAPAP3 KOマウスに対し、生後28日にSAPAP3をアストロサイトとニューロンにそれぞれ発現させたところ、いずれの細胞への介入も、毛づくろい行動を大きく改善させた(参考文献1のFigure 5h参照)。一方、不安様症状はニューロンに介入した場合にのみ改善が認められた(参考文献1のFigure 5i参照)。

Sotoらは、「われわれは細胞質と細胞膜を区別したプロテオーム解析を実現し、アストロサイトとニューロンにおいて、それぞれの細胞に固有のタンパク質およびシグナル伝達を明らかにした。アストロサイトとニューロンのSAPAP3はマウスのOCD表現型に関連することが示唆された」と述べ、「アストロサイトとニューロンの両方を標的とする治療戦略は、OCDやその他の脳障害の研究に役立つだろう」とコメントしている。(編集協力HealthDay)

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参考文献

  1. Joselyn S. Soto, et al. Nature. 2023 April;616(7958):764-773
  2. Stein DJ, et al. Nat Rev Dis Primers. 2019 Aug 1;5(1):52.
  3. Bienvenu OJ, et al. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2009 Jul 5;150B(5):710-20.
  4. Welch JM, et al Nature. 2007 Aug 23;448(7156):894-900.
  5. Züchner S, et al. Mol Psychiatry. 2009 Jan;14(1):6-9.
  6. Boardman L, et al. Compr Psychiatry. 2011 Mar-Apr;52(2):181-7.
  7. Crane J, et al. Am J Med Genet B Neuropsychiatr Genet. 2011 Jan;156B(1):108-14.
  8. Jenike MA. et al. N Engl J Med. 2004 Jan 15;350(3):259-65.
  9. Welch JM, et al. J Comp Neurol. 2004 Apr 19;472(1):24-39.