SSRI治療中の大うつ病性障害に対する経頭蓋直流刺激の追加は効果なし、三重盲検無作為化偽刺激対照多施設共同試験

選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を使用している大うつ病性障害(MDD)の成人患者に対し、6週間の経頭蓋直流刺激(tDCS)による治療を追加しても、うつ病重症度は改善しないことが明らかになった。ミュンヘン・ルートヴィヒ・マクシミリアン大学(ドイツ)のGerrit Burkhardtらが実施した三重盲検無作為化偽刺激対照多施設共同試験であるDepressionDC試験の結果が、「The Lancet」に2023年7月3日掲載された1

本研究は、ドイツの8病院で募集された18-65歳のMDD患者のうち、21項目ハミルトン抑うつ評価尺度が15点以上で、現在の抑うつエピソードで1つ以上の抗うつ薬治療に反応せず、SSRIを一定用量で4週以上使用している者を対象に行われた。SSRIの用量は試験終了まで不変とした。2016年1月から2020年6月までに候補となった患者3,601人のうち、諸条件を満たした160人を、tDCS群83人および偽刺激群77人に割り付けた。試験開始後に同意を撤回した者や組み入れの誤りの判明した者がいたため、intention-to-treat(ITT)解析にはtDCS群77人(平均40.2歳、女性62%)および偽刺激群73人(平均40.0歳、女性56%)が含まれた。両群には、両側前頭tDCSの実刺激(2mA)または偽刺激を30分間にわたり行うセッションを6週間で計24回(最初4週間は平日毎日、その後は週2回)施行した。対象者、評価者、施術者は治療割り付けを知らされなかった。

主要評価項目はベースライン時から6週時までのMontgomery-Åsbergうつ病評価尺度(MADRS)の変化量とした。副次評価項目は反応率(6週時までにMADRSが50%以上減)、寛解率(6週時のMADRSが10点以下)などとした。これらの評価項目のITT解析では、MADRS変化量などの連続変数に線形混合効果モデル、反応率と寛解率にロジスティック回帰モデルを使用し、参加病院はランダム切片、ベースライン時のMADRSは固定効果とした。安全性解析は、治療を1回以上受けた全ての患者を対象とした。

ITT解析の結果、主要評価項目である6週時のMADRS変化量の平均値は、tDCS群で-8.2点、偽刺激群で-8.0点であり、有意な群間差は認められなかった〔差0.3点、95%信頼区間(CI)-2.4~2.9、Cohen’s d 0.03、95%CI -0.29~0.35〕。副次評価項目においても、6週時の反応率はtDCS群33%対偽刺激群44%(オッズ比1.5、95%CI 0.8~3.0)、寛解率はtDCS群31%対偽刺激群38%(オッズ比1.2、95%CI 0.6~2.6)などとなり、いずれも有意差は認められなかった。

安全性解析の結果、両群ともにバイタルサインに有意な変化は起きなかったものの、軽度の有害事象が1つ以上あった対象者は、tDCS群で60%に上り、偽刺激群の43%よりも有意に多かった(P=0.028)。 tDCS群では、頭痛、睡眠関連問題、治療部位の局所反応などの発生率が高かった。

著者らは、「tDCSを6週間実施しても、偽刺激より優れた効果は得られなかった」と結論。「SSRI治療中のMDD患者にtDCSを追加した場合、許容範囲を超えた有害性は認められないものの、有効性には疑問が残ることになった。tDCSを用いた治療法の多くには、現段階で多施設共同研究によるエビデンスがないことから、今後の肯定的な結果の必要性が強調されたと言えるだろう。今後は、tDCSの抑うつ症状に対する効果について神経生物学的な面からも解明を進めるべきであり、また、技術開発を促進し、tDCSを画一的に行うのでなく、患者ごとに個別化して適用できるようにすべきである」と述べている。(編集協力HealthDay)

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参考文献

  1. Gerrit Burkhardt, et al: Lancet. 2023 Jul 3;S0140-6736(23)00640-2.