痛みと抑うつ症状の共存は認知機能低下のリスクを高める

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

中~高強度の痛みと抑うつ症状が共存していると、記憶力と全般的な認知機能が低下するリスクが高まるとする研究結果が、「Aging & Mental Health」2025年2月号に掲載された1

セルジペ連邦大学(ブラジル)のPatrícia Silva Tofaniらは、地域社会に暮らす50歳以上の人を対象とした進行中の研究であるEnglish Longitudinal Study of Ageing(ELSA)参加者4,718人のデータを用いて、痛みと抑うつ症状の共存が、50歳以上の人の認知機能低下のリスク因子となるか否かを評価した。これらの対象者は、2004/2005年のELSAへの参加後12年間追跡され、2008/2009年(3,747人)、2012/2013年(2,967人)、および2016/2017年(2,551人)に健康状態や身体的・認知的機能の評価を受けていた。

対象者の認知機能は、記憶力(即時記憶および遅延記憶)および実行機能(言語流暢性)を基に評価された。全般的な認知機能は両分野のテストスコアを合算し、年齢層(50〜59歳、60〜69歳、70〜79歳、80歳以上)および教育歴(0〜11年、12〜13年、14年以上)別にZスコアに換算して算出した。痛みの有無を質問し、痛みがある場合には視覚アナログスケールで重症度を評価し(0〜10点)、軽度(1〜3点)、中強度/高強度(4点以上)に分類した。また、痛みが生じている関節の数についても調べた。抑うつ症状は、8項目からなるCenter for Epidemiologic Studies. Depression Scale(CES-D)8を用いて評価した。その上で、痛みと抑うつ症状の有無に基づき、対象者を、1)痛みも抑うつ症状もない、2)軽度の痛みがあるが抑うつ症状はない、3)中強度/高強度の痛みがあるが抑うつ症状はない、4)痛みはないが抑うつ症状はある、5)軽度の痛みと抑うつ症状がある、6)中強度/強度の痛みと抑うつ症状がある、の6群に分けた。

痛みと抑うつ症状が12年間の追跡期間中における記憶力、実行機能、および全般的な認知機能に与える経時的な影響を、一般化線形混合モデルを用いて評価した。同モデルに、社会人口統計学的因子(性別、年齢、教育年数など)、行動因子(身体活動の程度、飲酒、喫煙など)、臨床的因子(諸疾患の有無)、身体計測(腹囲)、C反応性蛋白(CRP)を組み込んで解析したところ、痛みも抑うつ症状もない群と比べ、中強度/強度の痛みと抑うつ症状がある群では、記憶力の1年当たり0.038標準偏差(SD)の低下(95%信頼区間−0.068〜−0.007)、および全般的な認知機能の1年当たり0.033 SDの低下(同−0.063〜−0.002)が認められた(いずれもP<0.05)。

論文の上席著者であるサンカルロス連邦大学(ブラジル)のTiago da Silva Alexandreは、「抑うつや痛みの症状の出現が単に年のせいとして誤認されたまま片付けられてしまうことは珍しくない。老年医学を専門としない医療職がこのような考えを持っていると、プライマリケアの場において高齢者の訴えを軽視し、その結果、対処すれば良くなるはずの症状の診断や治療ができなくなるおそれがある」と述べている。(HealthDay News 2024年12月2日)

 

Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.

Photo Credit: Adobe Stock

※本コーナーの情報は、AJ Advisers LLCヘルスデージャパン提供の情報を元に掲載しており、著作権法により保護されております。個人的な利用以外の目的に使用すること等は禁止されていますのでご注意ください。

参考文献

  1. Tofani PS, et al. Aging & Mental Health 2025 Feb;29(2):334-342.