認知症リスクの高い高齢者では聴覚介入が認知機能を保護する可能性
提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン
補聴器などによる聴覚介入は、対象を認知症リスクの高い高齢者のみに限れば、3年間の認知機能低下を抑制する効果があったとの研究結果が、「The Lancet」に2023年7月17日掲載された1。米ジョンズ・ホプキンス大学Cochlear Center for Hearing and Public HealthのFrank R. Linらが実施した多施設並行群間非盲検ランダム化比較試験であるACHIEVE試験の結果で、2023年7月16~20日にオランダ・アムステルダムで開催された国際アルツハイマー病学会(AAIC 2023)でも同時に発表された。
ACHIEVE試験は、聴覚介入によって認知機能低下を抑制できるのかを検討することを目的として、米国内4地域にある研究施設において実施された。対象者は、未治療の難聴を有し、かつ明らかな認知機能障害のない70~84歳の高齢者とし、進行中の縦断コホート研究であるARIC研究(Atherosclerosis Risk in Communities study;地域の動脈硬化症リスク研究)2の対象者、および同一地域で新たに募集された健康ボランティアから採用した。2017年11月~2019年10月にかけて3,004人が候補となったが、そのうち適格条件を満たしたのは977人(平均76.8歳、女性54%)であり、238人がARICコホート、739人が新規コホートに由来した。これらの対象者を聴覚介入群490人および対照群487人に1対1の割合でランダムに割り付けた。ベースライン時、ARICコホートに由来した対象者は新規コホートの対象者に比べて、認知機能低下のリスク因子(高齢、低学歴・低所得、糖尿病など)が多く、認知機能スコアがやや低かった。
聴覚介入群には聴覚カウンセリングと補聴器を提供し、対照群には健康教育を実施した。追跡調査は6カ月ごとに行い、主要評価項目は、包括的神経認知機能評価バッテリーで評価した3年間の認知機能の変化量とした。非構造共分散行列を用いた3段階の線形混合効果モデルによって治療効果を推定し、Kenward-Roger補正を用いて推定値とその95%信頼区間、P値を算出した。
ARICコホートと新規コホートを統合して3年間の認知機能の変化を確認したところ、聴覚介入群では-0.200、対照群では-0.202であり、両群間で有意差は認められなかった*a。次に、それぞれのコホートにおける介入効果を比べるために、事前に定めた感度解析を行ったところ、ARICコホートと新規コホートとの間で、3年間の認知機能の変化量に有意な交互作用が認められた*b。ARICコホートでは、聴覚介入により3年間の認知機能低下が48%低減していた*c。これに対し新規コホートでは、聴覚介入による有意な低減は認められなかった*d。
著者らは「今回の研究結果から、難聴は認知症予防策として、世界的に特に重要な公衆衛生の課題となる可能性が示唆された。難聴は70歳以上の人に極めて多く認められ、補聴器や関連する支援サービスといった確立された介入により治療可能である。こうした介入は十分に使用されておらず、医学的リスクは基本的にないと考えられる」と述べている。
なお、複数人の著者が製薬業界との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(HealthDay News 2023年7月20日)
注釈
*a
差0.002、-0.077-0.081、p=0.96
*b
交互作用のp=0.010
*c
介入群-0.211対対照群-0.402、差0.191、p=0.027
*d
介入群-0.213対対照群-0.151、差-0.061、p=0.18
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