睡眠制限療法は不眠にもそれ以外の症状の軽減にも有効、費用対効果も良好

プライマリケアの場において、看護師の指導下で行う短期間の睡眠制限療法は、不眠のみならず、抑うつなど他の症状をも軽減し、かつ医療経済学的に見ても良好な結果を得られたことから、今後、不眠症に対する治療の第一選択として広く受け入れられることが期待されるとする研究結果が、「The Lancet」に2023年8月10日掲載された1

英オックスフォード大学ナフィールド臨床神経科学科のSimon D. Kyleらは、イングランドの35カ所の一般診療所から集めた不眠障害を有する成人642人(平均年齢55.4歳、範囲19〜88歳、女性76.2%)を対象にオープンラベルランダム化比較試験を実施し、睡眠制限療法の臨床的効果や医療経済的側面を評価した。対象者は、2018年8月29日から2020年3月23日の間にウェブベースのランダム化プログラムにより、看護師の指導下で睡眠制限療法を受け、かつ睡眠保健に関する冊子を配付される群(321人、介入群)と睡眠保健冊子配付のみの群(321人、対照群)に割り付けられた。睡眠制限療法は4週間連続して実施され、週に1回の短時間のセッションが、対面と電話で2回ずつ行われた。両群とも、通常の治療に関して制限を受けることはなかった。

主要評価項目は自己申告による不眠症の重症度とし、ベースライン時およびランダム化から3、6、12カ月後において、不眠症重症度指数(insomnia severity index;ISI)により評価した(0〜28点、高スコアほど重症)。同時に副次評価項目として、36-Item Short-Form Health Survey(SF-36)で身体的健康QOL・精神的健康QOLを、Glasgow Sleep Impact Index(GSII)で睡眠関連QOLを、Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)で抑うつ症状を、Work Productivity and Activity Impairment questionnaire(WPAI)で仕事の生産性を、Glasgow Sleep Effort Scale(GSES)で睡眠努力を、Pre-Sleep Arousal Scale(PSAS)で就寝前覚醒を、それぞれ評価した。

主要評価項目(ISIスコア)は、実際に受けた治療に関わりなく、割り付けられた群に基づき、3レベル(階層)線形混合効果モデルにより評価した。副次評価項目は、連続アウトカムについては主要評価項目と同様の手法で評価した。二値アウトカムについては一般化線形混合効果モデルを用い、アウトカムがモデルの仮定から外れた場合には、Mann-WhitneyのU検定を用いた。費用効用分析には、NHS(National Health Service、英国国民保健サービス)と個人として利用した社会福祉サービスの2種類のデータを利用し、質調整生存年(QALY)を1年延長するために増加する費用(CSRI)を算出した。

ランダム化から6カ月時点でのISIの平均スコアは、介入群で10.9〔標準偏差(SD)5.51〕点、対照群で13.9(SD 5.23)点であり(調整平均差−3.05、95%信頼区間(CI)−3.83〜−2.28、P<0.0001、Cohen's d −0.74)、介入群の不眠症の重症度は対照群よりも低かった。この効果は、3カ月後にも12カ月後にも、ほぼ同程度に認められた*a。副次評価項目を見ると、SF-36による精神的健康QOL、GSIIによる睡眠関連QOL、PHQ-9による抑うつ症状、WPAIによる仕事の生産性の損失については、全て、3、6、12カ月後の時点で、介入群が対照群より有意に改善していた(P<0.01)。

QALYを1年延長するための費用の増加は平均2,076ポンド(1ポンド183円換算で約38万円)であり、費用効果の閾値を2万ポンド(同366万円)とすると、睡眠制限療法に費用効果が認められる確率は95.3%と計算された。両群ともそれぞれ8人に重篤な有害事象が発生したが、介入と関連があると判断された有害事象はなかった。

著者らは、「プライマリケアの場において、看護師の指導下で行う短期間の睡眠制限療法は、不眠症を改善するだけでなく、精神的健康と機能の改善にも有効である上、費用効果も良好であった。不眠障害の患者に対する治療ガイドラインに依拠すべきと考える臨床医にとっては、実際的な治療手段となり得ると思われる」と述べている。(編集協力HealthDay)

 

注釈
*a
3カ月後:調整平均差-3.89、95%CI -4.66~-3.10、P<0.0001、Cohen's d -0.95。 12カ月後:同−2.96、−3.75〜−2.16、P<0.0001、−0.72。

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参考文献

  1. Kyle SD, et al. The Lancet. Published online August 10, 2023.