
周産期の脳の構造的変化が産後うつ発生解明の重要な手がかりになる可能性
提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン
初産の女性における出産前から出産後にかけての抑うつ症状の増加は右扁桃体の体積の増加と関連し、また、出産体験が困難であるほど両側海馬の体積が増加する傾向のあることが、「Science Advances」2025年3月7日号に掲載された論文で明らかにされた1。
グレゴリオ・マラニョン健康研究所(スペイン)のCristina Ballesterosらは、精神疾患の既往がなく、初めて妊娠・出産を経験する女性88人を母親群、出産経験のない女性30人を対照群として、妊娠後期(平均36.26週)と産後早期(平均21.33日)の2時点で高解像度MRIスキャンを用いて海馬と扁桃体、および両者を構成する下部組織の体積を測定し、これら体積の変化と、周産期の抑うつ症状や出産体験との関連について検討した。
母親群の産前と産後の抑うつ症状は、エジンバラ産後うつ病自己評価票により評価した。これは、母親が過去7日間の気分に基づき10項目(各4段階、0~3点)の質問に回答し、30点満点で評価するもので、10〜20点は軽度から中等度の抑うつ状態と判定される。出産体験は10項目(各7段階、1~7点)から成るBirth Experience Questionnaireにより評価した。これは、母親が出産中に感じたストレス、痛み、恐怖、コントロール感、およびパートナーからのサポートについて評価するもので、点数が高いほど出産体験が困難であったことを意味する。妊娠から産後までの抑うつスコアの縦断的変化はランダム切片線形混合効果モデルにより検討した。さらに、ピアソンの相関分析により、海馬と扁桃体の体積の変化と、抑うつレベルや出産体験スコアの変化との関係を評価し、ピアソン相関係数(R)を算出した。
抑うつ症状の平均スコアは、妊娠中の4.38(標準偏差〔SD〕3.84)点から産後の5.89(SD 4.75)点まで有意に増加していた(F(1, 87)=11.12、P=0.0013、効果量=0.113)。出産体験の平均スコアは3.23(SD 0.94)点だった。出産体験のスコアと両側海馬の体積の変化との間には有意な正の相関が見られた(左側海馬:R=0.296、P=0.005、右側海馬:R=0.216、P=0.043)。また、右扁桃体の体積の増加についても、抑うつ症状の増加と正の相関が見られた(R=0.333、P=0.002)。海馬と扁桃体の下部組織について検討したところ、海馬の右CA1(R=0.2124、P=0.047)、右歯状回(R=0.214、P=0.045)、右海馬扁桃体移行領域(HATA、R=0.2465、P=0.021)、左CA4(R=0.2669、P=0.012)の体積増加が出産体験の困難さと関連しており、右扁桃体の基底外側核の体積増加は抑うつ症状の増加と関連していた(R=0.3802、P=0.00026)。
著者らは、「母親になる過程で生じる神経解剖学的変化が、適応過程を捉えるだけでなく、潜在的な脆弱性についても情報を提供する可能性があり、機械的、免疫内分泌的、心理的、社会文化的要因だけでなく、神経的要因も包含する分娩の多面的な理解が必要である。このため母親の脳への理解を深め、出産前、出産中、出産後の女性の健康を改善するために、周産期体験に関するデータを収集することが極めて重要である」と述べている。(HealthDay News 2025年3月6日)
Copyright © 2025 HealthDay. All rights reserved.
Photo Credit: Adobe Stock
※本コーナーの情報は、AJ Advisers LLCヘルスデージャパン提供の情報を元に掲載しており、著作権法により保護されております。個人的な利用以外の目的に使用すること等は禁止されていますのでご注意ください。