周産期うつ病のスクリーニングと治療に関する新ガイドラインを概括
周産期うつ病の新たなスクリーニングと治療に関する米国産婦人科学会(ACOG)の新ガイドラインの概要を、米マサチューセッツ大学(UMass)チャン医科大学のTiffany A. Moore Simasらが、「Journal of American Medical Association(JAMA)」に2023年11月27日発表した1。
周産期の女性の7人に1人の割合で生じるとされる不安や抑うつなどのメンタルヘルス問題は、「産後うつ病」の名で呼ばれることが多い。しかし、Moore Simasらは、そのようなメンタルヘルス問題の27%は妊娠前に、33%は妊娠中に、40%は出産後に生じることから2、「周産期うつ病」と呼ぶべきであるとしている。
ACOGが2023年6月に公表した新ガイドライン3では、最低でも妊娠中に2回、産後に1回の抑うつスクリーニングの実施に加え、乳幼児および母親を対象にした健診時における抑うつスクリーニングの実施も推奨されている。抑うつスクリーニングで最もよく使われる評価尺度は、Patient Health Questionnaire(PHQ-9)とエジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Screen;EPDS)である。これらはいずれも自記式で、スコア算出も容易な上(通常は総スコアが10点以上を陽性と見なす)、各国語に翻訳されてその有用性も確認されている。PHQ-9もEPDSも、自傷行為の質問が最後に置かれているが、担当医は総スコアの結果にかかわらずこの質問には気を付けるべきで、回答が「全くなし」以外だった場合は、より慎重な対応が求められる。
Moore Simasらは、PHQ-9とEPDSの総スコアは抑うつの重症度と相関するものの、これらはあくまでスクリーニングツールであり、うつ病の診断には、DSM-5(精神障害の診断・統計マニュアル第5版)の診断基準を満たす必要があると述べている。また、患者に現れている症状の種類、頻度、重症度、持続時間に加え、それらが日常生活に及ぼす影響の程度、ストレッサー、サポート、精神障害の家族歴と治療歴、自殺企図などについても調査すべきであるとしている。さらに、似たような精神障害を起こすか、または悪化させるような疾患、例えば貧血や甲状腺機能障害、アルコールやオピオイド使用などを除外するために、過去の状態を問診することや、ヘモグロビン、ビタミンB12、甲状腺刺激ホルモンなどについての検査を実施すべきことも述べられている。さらに、周産期うつ病のスクリーニングで陽性と判定された5人に1人は、実際にはうつ病ではなく双極性障害に罹患している可能性があるため2、特に薬物治療を開始する前には、双極性障害のスクリーニングを実施すべきことが推奨されている。
治療法としては、軽度のうつ病に対しては心理療法が、中等度以上のうつ病、過去にうつ病に対する薬物療法が必要だった場合、心理療法を利用する機会を得にくい場合には薬物療法が推奨される。
Moore Simasらは、妊娠中や授乳中の患者や臨床医の中には、胎児や乳児への影響に対する懸念から薬物治療の継続や開始を躊躇する者もいるだろうが、周産期うつ病を治療しないか、または不適切に治療すると、早産、低出生体重児、妊娠高血圧腎症、神経発達に悪影響を及ぼす愛着障害、パートナーを含めた周囲との関係性の問題、自殺など、種々の好ましくない結果を招く恐れがあることを指摘している。その上で、医師は患者と情報を共有して薬物治療が適切かどうかを評価し、薬物による治療を行わない場合のリスクと治療を行った場合のリスクとベネフィットを勘案した上で治療方針を決めるべきであると述べている。
周産期うつ病に対し、最もよく処方されるのは、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)とセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)で、通常4〜6週で症状に改善が認められる。さらに、周産期の女性のメンタルヘルス問題を扱う臨床医の能力を向上させるため、特別にデザインされた精神医学アクセスプログラム(トレーニング、ツールキット、医師対医師の電話による協議、医師対患者の対面での相談、地域のメンタルヘルス諸資源との連携、技術的なサポートなどを提供)もあり、目下、州レベルで22個、国レベルで2個のプログラムがあるという3,4。
以上を踏まえた上でMoore Simasらは、「早期発見・早期治療のため、妊娠中と出産後に何回もスクリーニングを行うべきである。周産期のメンタルヘルス問題に対する治療の有効性・結果は、周産期の患者一人一人が治療手段をどれほど利用できるかに大きく左右される。州や国のアクセスプログラムは、臨床医が周産期のメンタルヘルスに対処し、患者が治療手段を利用する機会を増やす」と述べている。(編集協力HealthDay)
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