不眠症の高齢者では炎症が起こると抑うつ状態に陥りやすい
提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン
不眠症の高齢者が炎症に曝露されると、抑うつ気分や抑うつ症状を呈しやすいとする研究結果が、「JAMA Psychiatry」に2025年7月16日掲載された1。
米カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)セメル神経科学・人間行動研究所のMichael R. Irwinらは、ロサンゼルスの単一施設で不眠症の高齢者と非不眠症の高齢者を対象に、炎症への曝露により抑うつ気分や抑うつ症状が増強されるかを、ランダム化比較試験で検討した。対象者は、地域在住で抑うつのない60〜80歳の高齢者160人(平均年齢65.9歳、女性52.5%、不眠症を有する人53人)であり、炎症誘発物質のエンドトキシン(0.8ng/kg)を単回投与する群(79人、不眠症26人、非不眠症53人)と、プラセボ(生理食塩水)を単回投与する群(81人、不眠症27人、非不眠症54人)に無作為に割り付けた。投与後最初の1時間は30分間隔で、それ以降は1時間間隔で最大9時間まで対象者の観察と採血を行った。主要評価項目は、主観的(自己報告)および客観的(観察者による)に評価した抑うつ気分で、いずれもProfiles of Mood States - Depression(POMS-D)によりスコア化した。副次評価項目は、Montgomery-Åsbergうつ病評価尺度(MADRS)およびハミルトンうつ病評価尺度(HAMD)で観察者が評価する臨床的な抑うつ症状、炎症マーカーとしてIL-6とTNF(腫瘍壊死因子)、および体調不良を示す症状(頭痛や筋肉痛など)などであった。
プラセボ投与とエンドトキシン投与を「条件」とし、不眠群と非不眠群を「群」として線形混合モデル(LMM)を用いて解析した。まずエンドトキシン投与は全体としてPOMS-Dにより測定した主観的な抑うつ気分を有意に高め(条件の効果:F10,1470=7.3、P<0.001)、かつ不眠群では抑うつ気分の増加が有意に大きかった(条件と群の交互作用:F10,1478=4.7、P<0.001)。POMS-Dにより測定した客観的な抑うつ気分の評価においても同様の結果が得られた(条件の効果:F3,450=7.5、P<0.001、条件と群の交互作用:F3,450=5.6、P<0.001)。次に、副次評価項目を検討したところ、エンドトキシン投与は不眠群において観察者が評価する抑うつ症状を有意に増加させ、MADRSおよびHAM-Dいずれにおいても臨床的に意味のある抑うつ症状のレベルに達した*a。さらに、炎症マーカーについて見たところ、エンドトキシンは、不眠群でも非不眠群でも炎症マーカーを上昇させていたが、調整効果分析を行った結果、不眠群では炎症の強さが上がるほどPOMS-Dスコアが有意に上昇したのに対し(β=0.33、P<0.001)、非不眠群では有意な関連が認められなかった(β=0.02、P=0.61)。このことから、不眠群では、炎症への曝露に敏感に反応して抑うつ状態へ陥ることが示唆された。
Irwinは、「不眠症は高齢者の休息を奪うだけでなく、免疫系に変化を与えて、特に炎症にさらされた際に抑うつ状態になりやすい状況を作り出すようだ。炎症に関連して生じるうつ病に焦点を絞った治療は、うつ病を予防し、患者の全体的なQOLの向上に寄与すると思われる」とUCLAのニュースリリースの中で述べている2。(HealthDay News 2025年7月21日)
注釈
*a
MADRS
条件効果:F₃,₄₄₈=13.8、P<0.001
条件と群の交互作用:F₃,₄₄₈=2.9、P=0.04
HAM-D
条件効果:F₃,₄₅₀=17.1、P<0.001
条件と群の交互作用:F₃,₄₅₀=3.3、P=0.02
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