パーキンソン病のうつ・不安を診る 脳神経内科医と精神科医の2つの視点から 精神医学クローズアップVol.30

近年、神経変性疾患におけるうつや不安などの併存頻度の高さが注目され、脳神経内科においても精神科的な知識や精神科との連携が必要とされてきています。

今回は神経変性疾患であるパーキンソン病を取り上げ、脳神経内科医の飯嶋睦先生に、パーキンソン病患者に生じている精神症状(うつ・不安)をどのように診ているのか、ご自身の経験を踏まえてお話を伺いました。

また、脳神経内科と精神科との連携を想定し、飯嶋先生に脳神経内科医として精神科医に尋ねたいポイントを質問として挙げていただき、精神科医である西村勝治先生に回答をいただきました。

飯嶋 睦 先生(東京女子医科大学医学部 脳神経内科 教授)

西村 勝治 先生(浜野ホスピタル 院長/前・東京女子医科大学医学部 神経精神科 教授)<質疑応答>

 

パーキンソン病の精神症状(飯嶋先生)

飯嶋先生

―まず、パーキンソン病で表れる精神症状にはどのようなものがあるかを教えてください。

早期に表れる精神症状として、うつや不安、アパシーがあります。パーキンソン病では中脳黒質で神経変性が生じ、そこで産生されているドパミンが減少することによって振戦(ふるえ)、筋強剛(こわばり)といった特徴的な運動症状が出てきますが、実はそれに先立って、脳内の嗅球や延髄の延髄迷走神経背側核、縫線核といった嗅覚やセロトニン産生に関わる部分にレビー小体(α-シヌクレインの異常凝集)が出現していると報告されています1。そのため、こうした部位に関連する非運動症状が、運動症状が出る以前から表れることは珍しくなく、うつや不安などの精神症状もそのひとつです。

また、進行期になると幻覚、妄想といった精神症状が出現します。病的賭博や性行動亢進、買い物依存、過食などの衝動制御障害が出現することもあります。

 

―運動症状に先立って非運動症状が表れるということは、非運動症状がパーキンソンの早期診断の手掛かりになるということでしょうか。

そのとおりです。特に嗅覚障害は臨床診断にあたっての重要なヒントとなります2。パーキンソン病の前駆期/運動症状発症時における非運動症状の発現率を調べた複数の研究では、レム睡眠行動障害、気分障害(うつ・不安)はそれぞれ20%、便秘は50%、嗅覚障害は70~90%にみられました3-6

また、パーキンソン病の症状を包括的に評価する指標として広く使われているMovement Disorder Society-sponsored revision of the Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(MDS-UPDRS)スケールの項目にも認知障害、幻覚、精神症状、抑うつ、不安、無関心、ドパミン調節異常といった精神症状が入っています。パーキンソン病の疑いで来院された患者さんには、問診でこうした徴候がないかを必ず聞くようにしています。

「病気の進行に対する不安を取り除くことにより、初期の不安やうつはかなり軽減されます」

パーキンソン病の精神症状への対応と薬物療法

―パーキンソン病の精神症状、特にうつや不安に対して、脳神経内科ではどのように対応しているのでしょうか。

まず、診断された直後は病気の進行に対する不安が大きいと思うので、それを取り除くことに注力しています。「命に直接関わる病気ではない」ことを伝えているほか、「実際に予後を左右するのは病気そのものよりも、運動症状などに起因する転倒・誤嚥、認知症などに伴う寝たきり状態であるため、筋力維持や転倒予防などの対策をして、寝たきりになるのを防ぎましょう」としっかり説明します。病気の進行に関する理解を深めていただくことによって初期の不安やうつはかなり軽減されます。

また、パーキンソン病のうつ症状は多面的な要因によって引き起こされますが、その要因のひとつにドパミンの減少があるので、早期であれば原疾患の治療で様子をみます。実際、不安や疲労といった症状がオフ(治療薬の効果が切れて運動症状や非運動症状が現れる時間帯)のときに起こりやすいという報告があります7。つまり、パーキンソン病治療薬を調整してオフの時間を減らすことで、これらの精神症状が改善できる場合があります。

それでも改善が認められない場合には、副作用に十分配慮しながら抗うつ薬などを調整していきます。一口にうつ症状といっても、アパシーが合併する場合や、疲労、集中力低下、睡眠障害など症状はさまざまです。また、その方の生活状況、たとえば車の運転をするかどうかによっても治療戦略が変わってきます。一人ひとりの状況と症状を踏まえて、その人に合った薬物療法を選択しています。

「精神科と脳神経内科、どちらかだけで治療しようとすると片方が悪化してしまうことが多いので、連携・相談しながら調整しています」

パーキンソン病治療における精神科と脳神経内科の連携

―パーキンソン病の治療において、精神科の先生とはどのように連携していますか。

早期に生じる不安やうつは脳神経内科で対応することが多いですが、進行期で幻覚や妄想が出てきた患者さんについては精神科の先生に介入していただきます。パーキンソン病で難しいのは、幻覚や妄想を抑えるために使用した薬剤でパーキンソン病の症状が悪化してしまう場合があることです。精神科と脳神経内科、どちらかだけで治療しようとすると片方が悪化してしまうことも多く、また、症状も薬の効き方も患者さんによって異なりますので、連携・相談しながら調整していきます。時間がかかる場合も珍しくありません。

 

―精神科の先生から患者さんを紹介されることもありますか。

「うつ病患者さんの動作が遅くなったのでパーキンソン病かどうか診てください」という依頼を受けることがよくあります。診察してパーキンソン病が疑われるときには、DATスキャン検査で脳内のドパミントランスポーターの減少があるかどうかを確認して診断につなげます。

もともとうつ病患者さんがパーキンソン病を発症するケースや、薬の副作用としてパーキンソン病に類似した症状が出る「薬剤性パーキンソニズム」と呼ばれるケースもありますが、なかにはパーキンソン病と気づかずに不安やうつの治療を受け、ドパミンをブロックする薬を服用し続けてしまった結果、パーキンソン病が悪化したという患者さんもおられます。
 

「精神科の先生方には、不安やうつの背景にパーキンソン病が隠れている可能性を念頭においていただきたい」

―パーキンソン病を早期に発見するために、精神科でできる問診のポイントを教えていただけますか。

パーキンソン病の平均発症年齢は70歳以上で、65歳以上が85%を占めます8。60歳以上の患者さんが不安やうつを主訴に受診した場合には、嗅覚障害やレム睡眠行動障害があるかどうか、動作が遅くなっていたり左右差が出ていたりしていないか、震えはないかを確認し、そうしたサインが見られた場合にはすぐに脳神経内科に紹介していただきたいと思います。不安やうつの背景にパーキンソン病が隠れている可能性を念頭においていただけると、その後の治療戦略、そして患者さんのQOLや予後も大きく変わると思います。

 

―最後に、読者の先生方に向けてのメッセージをお願いします。

医師だけでなく、看護師、薬剤師、心理士をはじめとした多職種が疾患に対する理解を深めて、連携して治療にあたることが重要です。高齢化に伴ってパーキンソン病の患者さんが増え、今ではcommon diseaseの位置づけになっています。日本パーキンソン病・運動障害疾患学会では、専門職の教育と人材育成に今後もますます力を入れていこうという考えから、医療関係者を対象とした教育研修会とPDナース・メディカルスタッフ研修会を年に数回開催しています。毎回、定員を大きく上回る応募があり、関心の高さを感じているところです。読者の先生、メディカルスタッフの方々も、こうした機会を利用して疾患に対する理解を深めていただければ心強く思います。

 

パーキンソン病におけるうつや不安について、脳神経内科医から精神科医への質問(西村先生)

西村先生

回答:西村 勝治先生(浜野ホスピタル 院長/前・東京女子医科大学医学部 神経精神科 教授)

【質問1】パーキンソン病患者さんの精神症状は、他の疾患の患者さんと異なる特徴的な点はありますか。

最大の特徴は脳のドパミン不全を背景とした「アパシー(意欲消失)」の多さです。現代の精神科診療で主流のDSM(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders:精神疾患の診断・統計マニュアル)にはアパシーの項目がないため、若い精神科医には馴染みが薄いかもしれません。うつとアパシーは全く別の病態です。アパシーとは普通なら感情が動かされる刺激対象に対して関心が湧かない状態を指し、本人の苦痛も乏しく、うつ病に見られる悲哀感や希死念慮を伴わないという決定的な違いがあります。しかし、臨床上、両者を明確に区別することはしばしば困難です。

このため、精神科での診療上の工夫としては、高齢発症のうつや不安の場合はまず「器質性」を疑い、レビー小体型認知症やパーキンソン病の初期症状ではないか、画像診断を含めて精査し、もし明確な所見がなくても年単位で慎重にフォローアップするようにしています。一方、パーキンソン病のうつには、脳のドパミン不全という器質的側面ばかりでなく、闘病のストレスという心理的側面が混在しているため、生活背景や就労状況まで含めて緻密にアセスメントし、心理環境に反応した二次的なストレスに対しても丁寧にアプローチすることを心がけています。

 

【質問2】パーキンソン病患者さんのうつや不安が強くなった場合、どの段階で精神科に相談するのがよいでしょうか。妄想が出るまでは脳神経内科で調整している先生も多い印象ですが、もっと早い段階でコンサルテーションを依頼した方がよいケースもありますか。

まず明確な基準として、自殺のリスクが高まっている場合や、精神症状によって社会生活の維持が困難になった段階では、迷わず精神科へご相談ください。また、脳神経内科での丁寧な病状説明や治療関係の構築だけでは不安が改善しない場合も、一つのタイミングと考えます。

特に注意が必要なのは、薬剤性のうつや不安です。抗うつ薬がアパシーを誘発したり、運動症状を悪化させたりする可能性があります。また、抗うつ薬の内服開始後に急激な不安や焦燥が出現することがあり、賦活症候群(activation syndrome)と呼ばれます。一般に、純粋なアパシーに対しては抗うつ薬の効果は乏しく、むしろドパミン活性を高める原疾患の治療を優先すべきとされています。このように、パーキンソン病の患者さんにおける精神科薬物療法は複雑であり、副作用としての精神症状の見極めにも迷うことがしばしばあります。精神症状のコントロールに困難を感じられたら、早めに専門医にご相談いただければと思います。

 

【質問3】「精神科」という言葉に抵抗を感じる患者さんもいまだに多くおられ、精神科にコンサルテーションを依頼したいと思っても、『私は精神科の病気じゃない』と拒まれることもあります。患者さんの抵抗を和らげるような伝え方の工夫を教えていただけますか。

「心の問題は専門外だから精神科へ」という伝え方は、患者さんに「主治医に見放された」という疎外感を与えてしまう恐れがあります。大切なのは、精神科への紹介を前向きな治療の一つとして伝えることです。例えば、「私も引き続き診ていきます。そのうえで、専門の先生にも一緒に入ってもらい、少しでも良い方向に進めていきたいと考えています」といった伝え方が良いでしょう。また、漠然とした理由で紹介するのではなく、「眠れない」などの具体的な困りごとを取り上げ、「その症状を専門の先生に診てもらいましょう」と説明すると、患者さんも安心し、前向きに受け止めやすくなります。

 

【質問4】脳神経内科と精神科が連携をうまく進めていくためのポイントや精神科の立場からのご要望があれば教えてください。

連携において精神科医が最も留意すべき点は、脳神経内科における主たる治療を妨げないことです。特に、ドパミン遮断作用を有する薬剤など、パーキンソン病の運動症状を悪化させ得る薬剤の使用は、厳に慎む必要があります。こうした基本的知識を共有し、精神症状と運動症状の変化を継続的にモニタリングする姿勢が不可欠です。

当科の精神科専攻医プログラムには、一定期間のリエゾンチームでのトレーニングが含まれますが、そこでは、各病棟からの多様なニーズに応えるリエゾン活動を通じて、他科の医療チームと密に対話し、身体疾患と精神症状が相互に影響し合う複雑な病態を理解する力を養っています。その際には、薬剤の有害事象、相互作用、禁忌の全例確認を徹底し、身体疾患の治療を妨げない精神科的介入を重視しています。

パーキンソン病の患者さんに関するコンサルテーションでも、紹介時に現在使用中のパーキンソン病治療薬の内容や、その他の併用薬の有無について明確に情報共有していただけるとありがたいです。

パーキンソン病における神経症状と精神症状は、共通の病態生理に基づく一連の症状スペクトラムを形成しています。精神科と脳神経内科は、お互いに「脳にかかわる診療科」として、これまで以上に連携を深めていく大きな可能性を秘めていると考えます。

 

西村先生から精神科医へのメッセージ

かつて精神医学と脳神経内科学は、一つの医学分野として位置づけられていました。現在は二つの独立した分野に分かれていますが、脳科学や病態解明が飛躍的に進展している昨今、「神経精神医学(neuropsychiatry)」の重要性はますます高まっていると感じています。パーキンソン病をはじめとする神経変性疾患の患者さんの治療に脳神経内科の先生方とともに携わるなかで、両者の学問的・臨床的な連続性を改めて実感しています。
また、大変興味深いのは、神経変性疾患や脳卒中などの神経疾患において、統合失調症をはじめとする精神疾患と類似した精神症状が出現し得る点です。このような精神症状に向き合う機会を持つことは、精神科医としての臨床の幅を広げるうえで、きわめて貴重な経験となります。ぜひ、脳神経内科の先生方と積極的に連携していただきたいと考えています。

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
■飯嶋 睦 先生
取材日:2025年11月26日
取材場所:ルンドベック・ジャパン株式会社(東京都港区)

■西村 勝治 先生
取材日:2026年1月7日
取材場所:東京女子医科大学病院(東京都新宿区)

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参考文献

  1. Braak H, et.al.: Neurobiol Aging.2003; 24: 197-211.
  2. 飯嶋 睦: におい・かおり環境学会誌. 2018; 49(6): 370-374.
  3. Chaudhuri KR, et al.: Journal of Neurology. 2008; 255: 33-38.
  4. Tolosa E, et al.: Neurology. 2009; 72 (7 Suppl): S12-20.
  5. Antonini A, et al.: Neurological Sciences. 2008; 29(2): 61-65.
  6. Berg D, et al.: Movement Disorders. 2015; 30(12): 1600-1611 .
  7. Witjas T et al.: Neurology. 2002; 59(3): 408-413.
  8. 厚生労働省:令和2年(2020)患者調査の概況
    https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/20/index.html (2025年12月17日閲覧)