第11回「神経疾患における不眠・うつ・不安の診かたと実践マネジメント」

テーマ

第11回 Progress in Mind Japan RC Webinar

「神経疾患における不眠・うつ・不安の診かたと実践マネジメント」

開催日時 2025年12月11日(木)19:00~20:00
座長 髙橋良輔先生
(京都大学総合研究推進本部 参与 特定教授)
演者 鈴木圭輔先生
(獨協医科大学 脳神経内科 主任教授)
稲田健先生
(北里大学 医学部精神科学 主任教授)

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プログラム

講演1.

講演2.

講演終了後/講演に関するディスカッション

髙橋良輔先生から若手研究者へのメッセージ

 

 

講演1.

鈴木先生

「神経疾患におけるうつ・不安・不眠の対応:脳神経内科医の視点から」鈴木圭輔先生

● 神経疾患におけるうつ・不安・不眠の合併頻度

  • 神経疾患患者395例を対象とした調査1では、抑うつ、不安、両者の併存を高率に認め、精神科への紹介率は33.6%、通院率が47.8%に達することが示された。
  • 大うつ病性障害(MDD)は神経疾患、特に、認知症やアルツハイマー病(AD)の新規発症、重症化の有意なリスク因子とされている2
  • 高齢者に生じる睡眠の生理的変化3は、多くの神経疾患にみられる不眠の要因の1つになりうる。

●合併する不眠・うつ・不安が神経疾患に及ぼす影響

  • 不眠の原因は多様である(図1)

    図1 不眠の原因
     
  • 孤発性レム睡眠行動障害(iRBD)の神経変性疾患への移行頻度は高く4、50歳以降の発症はPD、多系統萎縮症やレビー小体型認知症などのαシヌクレイノパチーの有意なリスク因子である5
  1. 脳卒中
    脳卒中患者の半数近くが不眠を訴え、特に、急性期、65歳以上、追跡期間3年以上で有意に高率であったという報告6があり、脳卒中後不眠は機能障害や日常生活動作(ADL)障害とも関連がみられている7 。
    ・脳卒中後うつの合併頻度は急性期から慢性期にかけて上昇する8
    ・虚血性脳卒中後うつは死亡リスクを有意に上昇させる9
    ・急性期脳卒中患者に対する3ヵ月間の抗うつ薬治療により長期生存が改善することが報告されている10
     
  2. 認知症/AD
    うつ病の診断歴は、初回診断時の年齢にかかわらず認知症発症の有意なリスク因子である11が、薬剤や心理療法による早期介入が発症頻度を有意に低減すると報告されている12
    高齢者(65歳以上)における不安は、その後の認知症発症の有意なリスク因子である13,14 。
    表1に認知症の代表疾患であるADにおける不安、うつ、不眠の影響をまとめる。

    表1 ADにおける不安、うつ、不眠の影響
     
  3. パーキンソン病(PD)
    PDにおけるうつの合併頻度は47.2%、不安症は42.9%であり15、前者は睡眠障害を重症化させる16とともに、認知機能障害、疾患進行、身体障害悪化の有意なマーカーとされている17
    PD患者にみられる睡眠覚醒障害は過眠や不眠症状、概日リズム障害、RBD、レストレスレッグス症候群や閉塞性睡眠時無呼吸などの睡眠関連疾患など多彩である18。その原因として睡眠覚醒中枢の変性のほかPD自体による運動・非運度症状、PD治療薬の影響などがある。また、高頻度にみられる早朝オフ現象19は睡眠分断の原因となる20

  4. 一次性頭痛
    一次性頭痛患者にはうつと不安を高頻度に認める21-23。片頭痛を対象にした研究では合併する睡眠障害の数が多いほど患者の頭痛に関連した生活支障度が高かった24。 

● 神経疾患におけるうつ・不安・不眠への対応

  • 神経疾患患者に合併するうつと不安の早期発見には支持的カウンセリングや緩和ケアが有用である25,26
  • 脳神経内科医には系統的スクリーニングによる心理社会的サポートを実践すること、複雑な精神症状あるいは重度の情動的問題がある場合は精神科にコンサルテーションすることを勧める。
  • 神経疾患患者のうつと不安には認知行動療法、運動療法、抗不安薬や抗うつ薬による薬物療法が有効であり、睡眠障害に対してはタイプ分類を行った上で睡眠衛生指導27等の適切な治療法を選択する28 。

 

● まとめ

  • うつ・不安・不眠症状を呈する神経疾患患者には精神科医、脳神経内科医、その他の医療職が連携してQOLを向上させることと、神経疾患と相互に影響し合うこれらの症状に対しトータルケアを実践することが重要となる(図2)。

    図2 Summary
     

Q&A

Q 現状では無症状であっても頭痛の既往はうつ病の発症に繋がるのか。

A 疫学研究では頭痛の既往がうつ病の発症リスクであることが示されています。おそらく、両者には脳幹や視床における共通の病態生理学的脆弱性が存在すると考えられます。(鈴木先生)

 

 

講演2.

稲田先生

「神経疾患におけるうつ・不安・不眠の対応:精神科医の視点から」稲田健先生

● 精神科医による診断、見立て、治療方針の決め方

  • 精神科医はDSMやICDといった国際的な基準を用いて診断を下し、biological 、psychological、socialな側面を加えた見立てを行い、さらに、目前の患者に生じている問題を考慮した上で最良と考える治療法を提案、共同意思決定(shared decision making:SDM)の手法をもって患者とともに治療方針を決定している(図3)。

    図3 治療方針決定における多角的視点 診断と見立て
     

●うつと睡眠障害の関係性

  • かつて、うつ病患者に生じる不眠は二次的なものであり、うつ病の治療に伴って改善すると考えられていたが、完全寛解した後に睡眠障害を訴える患者の割合が44%に上り29、睡眠障害の残存はうつ病再発の有意な危険因子である30ことが明らかにされた。
  • うつ病患者の84.7%にみられる不眠症状は重症度と関連する一方、治療は一部の患者にとどまっていること31、不眠症がうつ病発症の有意な危険因子であること32が報告された。
  • エビデンスが蓄積された今日では、うつ病患者に生じる不眠は二次的な症としてではなく、うつ病への悪影響排除を目的に積極的に介入すべき対象とされている。


●パーキンソン病と不眠・うつ・不安の関係性

  • 講演1において示されたとおり神経疾患患者にみられる睡眠障害は合併症であり、積極的な治療介入が求められる。
  • PDに伴う睡眠障害の病態は多様である33ことから、睡眠の量と質に問題があるのか、あるいは睡眠中の行動異常に起因するのかを判断した上で、症状に基づく分類を行い、適した治療法を選択する必要がある(表2)。
  • 神経疾患に生じるうつや不安が二次的症状か合併症かは明らかにされていない。
  • PD患者にみられるうつ病あるいは不安症の有病率が報告間で大きく異なる34,35原因は診断手法の違いに起因するものであり、正確な診断を下すにはInoueら36が行ったような丁寧な問診が重要となる。

    表2 代表的な睡眠障害の鑑別

 

●精神科領域における多面的アセスメント/SDM/MBC

  • 精神科医は、上述したように診断基準のみならず生物学的、心理学的、社会的な側面から背景因子、誘発/維持因子、保護因子を明確化するアセスメントを行い(表3:PDの事例)、その上でSDM37-39を行う。

    表3 多面的アセスメント

     
  • 精神科領域では、生物学的なマーカーに代替可能な指標として尺度に基づく評価を用いるmeasurement-based care(MBC)が行われている。
  • SDMにMBCを組み合わせることによる寛解率向上、重症度低下、服薬アドヒアランスの改善がうつ病患者を対象に検証されている40
  • うつ病のMBCに有用な尺度の1つとして、簡易抑うつ症状尺度(Quick Inventor of Depressive Symptomatology:QIDS-J)があり、当院では、うつ病と診断された患者は、受診時に待合室で記入していただいた上で診察を受けてもらっている。

 

● まとめ

  • 精神科医は国際的な基準に基づいて診断を下し、さらに、多面的アセスメントを加味して診療ガイドラインに沿った治療法を提案、SDMにMBCを組み合わせる形で治療方針を決定しており、この手法は神経疾患患者にみられるうつ・不安・不眠に対しても有用である。

    髙橋先生
     

Q&A

Qうつ病が完全寛解した後の睡眠障害残存は何を基準に判断するのか。

A 研究により睡眠障害残存の定義は異なっています。睡眠障害の改善を得た上で睡眠薬を中止することは、うつ病再発予防の観点から残存の有無にかかわらず重要です。(稲田先生)

クロージング

髙橋先生: 本日は脳神経内科の鈴木先生、精神科医の稲田先生というお二人のトップエキスパートに神経疾患に伴う不安・うつ・不眠の診断方法とマネジメントについて、異なる立場からお話しいただきました。鈴木先生には精神症状を伴う神経疾患が多様であることを教えていただき、脳神経内科医が遭遇する神経疾患患者の精神症状の診かたを稲田先生にわかりやすく教えていただき、大変勉強になりました。視聴していただいた先生方にお役立ていただける内容であったと確信しております。鈴木先生、稲田先生、本日は誠にありがとうございました。

 

講演終了後/講演に関するディスカッション

稲田先生

 

 

●内因性うつ病と神経疾患に合併するうつ病の違い

鈴木先生:内因性うつ病に比べ、神経疾患に合併するうつ病は希死念慮、無価値感、罪責感が希薄な感触がありますが、この違いはどこから来るのでしょうか。

稲田先生:明確な理由は不明ながら、その1つとして神経疾患患者さんは疾患自体に起因する不安が先行して出現することが考えられます。

 

●神経内科が精神科に相談するタイミング

髙橋先生・鈴木先生:PDを例に挙げると、妄想に対して第二世代抗精神薬を一剤投与し、思うように改善しない場合に相談しているのですがいかがでしょうか。

稲田先生:適切なタイミングと思います。ご相談いただくのは “対応に難渋した段階”と考えていただければよく、例示されたように、症状が妄想なら第二世代抗精神薬、うつ症状であれば抗うつ薬を一剤投与したものの、良い結果に至らなければご紹介いただくのは適切と思います。

 

鈴木先生

●神経疾患患者における精神症状の早期発見

髙橋先生:脳神経内科医が患者さんの精神症状を早期に発見するコツについてご教示ください。

稲田先生:“この患者さんには不安があるのではないか”と考えて確認してはいかがでしょうか。また、いきなり“不安ですか”とは聴きづらいので、睡眠の状況を聴いて、患者さんが眠れていないと答えたら、何か不安を抱えているのではないかと問うのがコツです。医師;眠れていますか→患者;眠れていません→医師;眠れていないのは心配事や不安があるからではないですかという形で問診すれば問題点を明らかにしやすいと思います。

 

●脳神経内科医、精神科医、患者およびステークホルダーによるSDM

鈴木先生:当院では精神科の先生には精神症状のコンサルテーションをすることはよくあり,併診していただく機会は多くあります。しかし精神症状を呈する神経疾患患者さんについて、特に難治例では両診療科による定期的な共同カンファレンスを開催するようにしたいと思います。

稲田先生:実現の可能性は別として、両診療科の医師が参加するSDMを実施することが理想です。当院の場合、現時点では精神症状治療目的に精神科病棟に入院してきた神経疾患患者さんを対象に、両診療科の医師が一緒に治療法を検討し、転院あるいは退院のタイミングで患者さんや家族を交えたSDMを行うというところにとどまっています。この手法を少しずつでも拡げていければいいのですが。

髙橋先生:両診療科のコラボレーションを実現するには、今は別々となっている精神科医と脳神経内科医の教育システムを改編する必要があると思います。Webinarで両先生からお話しいただいたように、精神・神経疾患のクロスオーバー症状を呈する患者さんには日常的に遭遇するわけで、お互いに協力を必要としているのは間違いありません。一緒にトレーニングを受けていれば両診療科のコラボレーションはより円滑に進むと思われますし、専門性が異なりながらも共通する基盤を有する医師たちが育成されるようになれば“脳神経内科医、精神科医、患者さんおよびステークホルダーによるSDM”の実行可能性が確実に高まると思います。

 

 

髙橋先生

髙橋良輔先生から若手研究者へのメッセージ

私は医学生の頃から研究の道に進みたいと考えていました。特に、病気の根本原因を研究する、それも容易には解明できそうもない疾患にチャレンジしたかったので脳神経内科医を目指しました。臨床を身につけた上で研究を開始するという計画を立てていたのですが、あまりにも臨床が面白く、基礎研究に進むのはやめようかと思った時期もありました。しかし臨床現場にいた6年間で基礎研究も交えた病因究明の必要性を実感し、マウスやメダカのモデル動物を作製する研究も行いました。これまでの研究者としての歩みを振り返ると、神経疾患は単純ではなく、挑戦に値する深遠な領域だと改めて感じます。

今、私たち研究者は遺伝子と環境要因によって生じ、そこに老化という避けがたいライフコースの最終経路が関わる病態を対象にしています。この状況は神経疾患に限りませんし、完成された成果は容易には手にできないでしょう。換言すれば、多面的なアプローチが求められる状況にあるわけで、自分の得意とする手法、数学なら数理モデルを使い、人間に興味があるならQOL向上に資する方法を探求するなどの形での貢献が可能です。研究に終わりはありませんから飽きることもありません。自信を持って取り組んでください。

集合写真

 

 

参考文献

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