うつ病寛解後、薬剤継続か中止かの方針決定に役立つ意思決定支援ツールの開発に成功

大うつ病性障害(MDD)の症状の寛解後に、抗うつ薬による治療を中止すべきかどうかを判断するための意思決定支援ツール(decision aids;DA)の開発に成功したとする研究報告を、聖路加国際大学大学院看護学研究科の青木裕見氏らが、「Neuropsychopharmacology Reports」に7月1日発表した1。医師と患者が治療に関する情報を共有して意思決定を行う(shared decision making;SDM)過程で役立つと考えられるという。

青木氏らはMDDの症状の寛解後、薬剤を継続するか中止するか、という治療方針を決める際に役に立つ意思決定支援ツールを、以下の手順で作成した。1)抗うつ薬による治療で寛解を達成したMDD患者を特定し、治療方針決定の際のニーズを把握する、2)MDDとDAの専門家から成る運営委員会を立ち上げる、3)文献レビューを実施して治療の継続/中止した場合の長所と短所を把握するとともに、治療を継続/中止した場合の再発率を調べる、4)DAのプロトタイプを作成する、5)プロトタイプの作成過程に関わっていない患者と医師を対象に、DAの受容性を調べるアルファテストを実施する、6)その結果に基づいてDAを改良して最終版とする、7)臨床現場でその有効性を検証する(ベータテスト)。ただし、本研究は、DAを開発するまでのプロセスを述べることを目的にしているため、7)については内容に含められていない。

DAのプロトタイプは、A5版・28ページの冊子としてまとめられた。内容は、導入部で冊子の使用対象者とその使い方が述べられ、その後に、「うつ病とは」「治療と経過について」「この先の治療の選択肢」の項目が続くという構成である。「この先の治療の選択肢」のサブ項目である「各選択肢を選んだ結果」では、治療を継続した場合と中止した場合の再発率や副作用の出現頻度(治療中断に至る副作用が出現する割合)に関するメタアナリシスの結果を、それぞれ100個の顔のイラストでわかりやすく表してある。例えば、抗うつ薬を1年半投与された場合は1年半の時点で100人中83人が安定した状態にあり、半年で投与を中止した場合は1年半の時点で100人中63人が安定した状態にあることが示されている。

DAのプロトタイプに関するアルファテストでは、MDD患者(平均年齢47.3歳、女性50%)に、DAについて4段階のリッカートスケールで回答してもらった。結果は、91%(20/22人)が「情報量がちょうどよい」、95%(20/21人)が「情報がバランスよく提示されている」、90%(19/20人)が「治療を継続するか中止するかを決める上で役に立った」、80%(16/20人)が「治療の継続/中止いずれかを選んだ場合の転帰について予測しやすくなった」、90%(18/20人)が「今後の治療に関する決断が容易になった」、95%(18/19人)が「抗うつ薬による治療を継続するか、中止するかを決める上で十分な情報が掲載されている」と評価した。医師20人(平均年齢40.4歳、女性15%)にも評価を行ってもらったが、概ね好意的な評価内容であった。

委員会のメンバーで調査結果を検討して改良した最終版のDAは、意思決定ガイドの国際基準であるInternational Patient Decision Aid Standards(IPDAS)の6つの資格基準全てと、品質基準の大半(23項目中18項目)を満たすものとなった。

著者らは、「今回作成した意思決定支援ツールは、医師と患者が協議して今後の治療方針を決める際、有益なものとなろう。SDMの過程でこのDAを使うことがどの程度役立つのかを検証するために、さらなる研究が必要だ」と結論付けている。(編集協力HealthDay )

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※なお、本研究に対する利益相反はない。数名の著者が、Lundbeckから講演料を受けている。

参考文献

  1. Aoki Y, et al. Neuropsychopharmacology Reports. Published online July 1, 2022. doi:  10.1002/npr2.12269