大うつ病性障害の薬剤選択にゲノム薬理学検査が役立つ可能性
大うつ病性障害(MDD)の患者に対し、薬物と遺伝子の相互作用を評価するゲノム薬理学検査を行うことにより、相互作用のリスクが低い抗うつ薬を選べる可能性が高まるという研究報告が「Journal of the American Medical Association」2022年7月12日号に掲載された1。米Corporal Michael J. Crescenz退役軍人医療センターのDavid W. Oslinらによる実用的ランダム化比較試験の結果で、同検査の結果に基づきガイドを受けた患者では24週にわたる寛解の可能性が高まることも示された。
本試験の対象者は、米国の退役軍人医療センター22カ所において、2017~2021年に医師676人が受け持ったMDD患者1944人(平均48歳、女性25%)であった。18~80歳でベースライン時のPHQ-9(Patient Health Questionnaire-9)総スコアが10点以上、1回以上の治療歴があり、薬剤変更または新規治療のために抗うつ薬の単剤療法を始める者を対象とした。物質使用障害や双極性障害など特定の精神疾患を有している者もしくは特定の薬剤を併用している者は除外した。
対象者はゲノム薬理学検査によるガイドを受ける群(966人)または対照群(978人)のいずれかにランダムに割り付けられ、24週にわたり追跡された。ガイド群では、まずゲノム薬理学検査が行われ、その結果が医師から患者に提供された後、両者の対話に基づき治療が開始された。対照群ではランダム化後すぐに通常治療が開始され、検査結果は24週後に提供された。ゲノム薬理学検査は、薬力学的遺伝子変異4つと薬物動態学的遺伝子変異8つを組み合わせて解釈する市販の遺伝子パネル検査であり、検査結果から薬物-遺伝子相互作用のリスクの低い薬剤を検討する方法を学ぶための教育資材も提供された。なお、ランダム化後の治療変更は臨床判断に基づき許容された。対象者のうち1541人(79%)が24週後の評価を完了した。
主要評価項目は、(1)ランダム化から30日以内(治療開始時)に、ゲノム薬理学検査に基づいて薬物-遺伝子相互作用が「既知のリスクなし」「中程度のリスクあり」「大きなリスクあり」と分類される抗うつ薬をそれぞれ処方される可能性、(2)ランダム化から4、8、12、18、24週時に抑うつ症状の寛解を得た者の比率、および24週にわたる寛解への累積効果であった(盲検化された評価者によるPHQ-9 5点以下を寛解とした)。各評価項目について、一般化推定方程式を用いてロジスティック回帰モデルにより両群を比較した。
その結果、治療開始時の抗うつ薬として薬物-遺伝子相互作用のリスクがない薬剤を処方される比率は、ガイド群の59.3%に対し対照群では25.7%に留まった〔推定リスク差33.6%、95%信頼区間(CI)28.9~38.4%、P<0.001〕。同様に、中等度リスクの薬剤の処方率は各30.0%、54.6%(同-24.6%、-29.5~-19.7%、P<0.001)、大きなリスクの薬剤の処方率は各10.7%、19.7%(同-9.0%、-12.7~-5.3%、P<0.001)であった。ガイド群はリスクがない薬剤を、対照群は中等度リスクの薬剤を処方される可能性が高いことが示された(χ2=169.2、P<0.001)。
24週にわたって複数回測定した抑うつ症状の寛解に対する累積効果は、ガイド群の方が対照群よりも高かった(OR 1.28、95%CI 1.05~1.57、P=0.02、絶対リスク差2.8%、95%CI 0.6~5.1%)。ただし、各評価時点で寛解を得た者の比率を見ると、群間の有意差があったのは8、12週時のみであり、24週時に寛解を得た者の比率はガイド群の17.2%(130人)に対し対照群は16.0%(126人)で、有意に高くはなかった(OR 1.11、95%CI 0.84~1.47、P=0.45、推定リスク差1.5%、95%CI -2.4~5.3%)。
Oslinらは今回の結果について、医師と患者のいずれも盲検化されていないためプラセボ効果を排除できない、治療開始後の投薬量や薬剤の変更による影響があるといった限界があるとした。その上で、「MDD患者にゲノム薬理学検査を行うことで、薬物-遺伝子相互作用の予測される抗うつ薬の処方例が減少した。それに伴い、24週にわたる抑うつ症状の累積の寛解の程度は、大きくはないが改善した。ただし、その効果の差は試験開始早期に最も大きく、24週後には有意でなくなった。こうした改善は一般集団レベルで見れば小さいかもしれないが、患者全体および個々の患者にとっては有益な可能性がある」と結論付けている。
なお、数名の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(編集協力HealthDay)
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※本記事の参考文献1の論文において、2人の著者がLundbeckを含む複数の製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。