小児思春期の身体的・性的虐待は早期死亡に関連

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

小児思春期に身体的・性的虐待を経験すると、早期死亡(70歳未満での死亡)のリスクが上昇する可能性のあることが、「The BMJ」に2023年5月3日掲載された研究で明らかになった。米ハーバード大学T.H.チャン公衆衛生大学院のYi-Xin Wangらによる報告1

本研究では、小児思春期に受けた身体的・性的虐待が、早期死亡リスクに及ぼす影響について調査した。解析には、米国の女性看護師を対象とした大規模コホートであるNurses’ Health Study IIの参加者のうち、2001年の質問票調査に回答した女性看護師67,726人(当時37~54歳)のデータを用いた。

2001年の調査では、対象者が小児期(12歳未満)または思春期(12~17歳)に経験した身体的・性的虐待について評価した。身体的虐待の評価はRevised Conflict Tactics Scaleを用いて、親などによる蹴る・殴るといった行為について、それぞれの頻度(なし、1回、数回、それ以上)を尋ねた。性的虐待の評価はSexual Experiences Surveyの改変質問項目を用いて、親などによる性的接触や性的行為の強要について、それぞれの頻度(なし、1回、2回以上)を尋ねた。対象者の回答を因子分析した結果から、身体的虐待を「なし」「軽度」「中等度」「重度」の4群に、性的虐待を「なし」「小児期または思春期の性的接触」「小児期または思春期の性的行為の強要」「小児期および思春期の性的行為の強要」の4群にそれぞれ分類した。対象者の早期死亡は、州の人口動態統計と全国死亡指数から確認し、死因は医療記録や死亡診断書から確認した。

2001年の調査によると、対象者のうち46.5%(31,460人)は身体的虐待を経験しておらず、66.5%(45,008人)は性的虐待を経験していなかった。調査後18年間にわたる追跡期間中に確認された早期死亡は2,410件であった。

解析の結果、身体的虐待および性的虐待が最も重度であった群の対象者は、虐待を経験していない対象者と比較して、早期死亡の粗率が高かった(1000人年当たりの粗率は身体的虐待で3.15人対1.83人、性的虐待で4.00人対1.90人)。最も重度の身体的虐待および性的虐待による早期死亡の年齢調整ハザード比(HR)は、それぞれ1.65(95%信頼区間[CI] 1.45-1.87)および2.04(95%CI:1.71-2.44)であった(多変量Cox比例ハザードモデル)。小児期の個人要因(初潮年齢や5歳時の体型など)や社会経済的地位で調整して解析しても結果は同様であった*a

さらに死因別の死亡リスクを分析したところ、最も重度の身体的虐待は外傷・中毒、自殺、消化器疾患による死亡リスク上昇と有意に関連し*b、最も重度の性的虐待は心血管疾患、外傷・中毒、自殺、呼吸器疾患、消化器疾患による死亡リスク上昇と有意に関連していた*c。媒介分析(mediation analysis developed by Lin and colleagues)2,3の結果、身体的虐待および性的虐待による早期死亡リスクの上昇のうち、それぞれ12.9(95%CI:9.1-18.0)%および16.2(10.8-23.5)%は喫煙によるものであり、3.9(2.7-5.7)%および7.3(4.9-10.9)%は身体活動量の低さ、4.7(2.8-7.7)%および5.9(3.5-9.9)%は不安、20.7(14.4-28.9)%および22.4(14.7-32.7)%はうつ病によるものであった。

著者らは、「児童虐待を防止すると早期死亡は減少すると考えられ、国民の健康と寿命の延長に対する長期的な利益をもたらすだろう」と述べている。(HealthDay News 2023年5月8日)

 

注釈
*a
多変量Cox比例ハザードモデル。身体的虐待:調整HR 1.53、95%CI 1.35-1.74。性的虐待:調整HR 1.80、95%CI 1.50-2.15。

 

*b
多変量Cox比例ハザードモデル。外傷・中毒:調整HR 2.81、95%CI 1.62-4.89。自殺:調整HR 3.05、95%CI 1.41~6.60。消化管疾患:調整HR 2.40、95%CI 1.01~5.68。

 

*c
多変量Cox比例ハザードモデル。心血管疾患:調整HR 2.48、95%CI 1.37~4.46。外傷・中毒:調整HR 3.25、95%CI 1.53~6.91。自殺:調整HR 4.30、95%CI 1.74~10.61。呼吸器疾患:調整HR 3.74、95%CI 1.40~9.99。消化器疾患:調整HR 4.83、95%CI 1.77~13.21。

 

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参考文献

  1. Wang YX, et al. BMJ. 2023 May 3;381:e073613.
  2. Lin DY, et al. Stat Med 1997;16:1515-27.
  3. Wang YX, et al. Eur Heart J 2022;43:190-9.