AI音声コーチによる行動療法が抑うつや不安を緩和し、脳機能を改善する可能性

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

行動療法の一種である問題解決療法(PST)を、新たに開発されたバーチャル音声コーチを利用して受けた患者は、抑うつや不安が緩和され、脳機能も改善される可能性があるとの研究結果が、「Translational Psychiatry」に2023年5月12日掲載された1

米ワシントン大学医学部のThomas Kannampallilらは、行動療法の一種であるPSTを提供するバーチャル音声コーチ:Lumenを開発した。Lumenは、商用の音声アシスタントを使って、軽度~中等度の抑うつ症状や不安症状を有する患者に対して計8回のPSTセッションを提供するプログラムである。対象者がPSTの段階的アプローチ(問題発見、目標設定、解決策の自由な発案と選択、行動計画の策定・実施・評価)を進めるためのガイド役となる。

パイロット研究として、Lumenの有効性を検討するランダム化比較試験のために、米イリノイ大学の関連施設で対象者を募集。Patient Health Questionnaire-9(PHQ-9)10~19点とGeneralized Anxiety Disorder Scale(GAD-7)10~14点の一方または両方を満たし、重篤な併存疾患がないなどの条件を満たした対象者63人(平均37.8歳、女性68%)を、Lumen介入群(42人)または待機リスト対照群(21人)にランダムに割り付けた。Lumen群の38人(90.5%)がセッションを4回以上受け、34人(81.0%)が全8回を完了した。

両群の対象者は、ベースライン時と16週時にアウトカムの評価を受けた。神経画像アウトカムとして抑うつや不安による神経回路不全はfMRIの確立された指標(表情タスクおよびGo-NoGoタスク実行中の関心領域の活性化)を用いた。Hospital Anxiety and Depression Scale(HADS)により抑うつ症状と不安症状のスコアを評価し、その合計点を心理的苦痛を示す総スコアとした。自己報告アウトカムは既存のさまざまな質問票で評価し、例えば問題解決能力の評価にはSocial Problem-solving Index-Revised(SPSI-R)短縮版を用いた。

Lumen群と対照群におけるベースライン時から16週時までのアウトカムの変化の差は、t検定で検討した。両群の平均差がCohenのdで0.3以上であれば、Lumenには有意な効果があると見なした。神経画像アウトカムと自己報告アウトカムとの相関関係はPearsonの相関検定で評価し、0.4未満であれば臨床的な意義は限られると見なした。

解析の結果、認知制御の指標である右背外側前頭前野(dlPFC)の活性化は、Lumen群では減少したが対照群では増加しており、両群の平均差*aは事前に設定した有意性の閾値を超えていた(Cohenのdは0.3)。これに対し、左dlPFCでは同様の変化はあったものの平均差は有意でなく、負の感情の指標である両側扁桃体でも平均差は有意でなかった(いずれもCohenのdは0.2)。

Lumenによる介入は、HADSの抑うつスコア*b、不安スコア*c、総スコア*dの減少に関連し、対照群と比較して中程度の効果量が認められた(Cohenのdは0.49、0.51、0.55)。こうしたLumen群におけるHADSスコア改善は、女性*e、教育年数の短い者(大学以下の学歴)*fなどで特に大きかった。自己報告アウトカムでは、感情反応の指標には改善が見られたものの有意ではなかったが、認知制御の指標には改善が見られ、特にSPSI-R下位尺度の理性的問題解決スコア*gおよび衝動的・不注意問題解決スコア*hでは有意な平均差が認められた(Cohenのdは0.3、0.4)。Lumen群において、右dlPFCの活性化の変化は、SPSI-Rの総スコアとの間に有意な正の相関(r=0.4、p=0.02)、下位尺度の回避的問題解決スコアとの間に有意な負の相関(r=-0.5、p=0.01)を示した。

著者らは「今回のパイロットランダム化比較試験により、軽度から中等度の抑うつや不安を管理するためのPST実施に対して、バーチャル音声コーチは代替の選択肢になり得るという予備的なエビデンスが得られた。この革新的アプローチは、メンタルヘルスケアへのアクセスに対する障壁を軽減する可能性がある」と述べている。

なお、著者の1人は製薬業界との利益相反(COI)を開示しており、1人は脳機能を追跡する人工知能ソフトウェアを開発する会社の共同設立者である。(HealthDay News 2023年7月12日)

 

注釈
*a
平均差−0.2、95%信頼区間−0.61-0.22

*b
平均差-1.33、95%信頼区間-3.26-0.60

*c
平均差-1.58、95%信頼区間-3.82-0.66

*d
平均差-2.89、95%信頼区間-6.76-0.99

*e
平均差(95%信頼区間)-2.5(−4.8-−0.3)、-2.2(-4.9-0.5)、-4.7(−9.3-−0.2)

*f
平均差(95%信頼区間)-2.9(-5.6--0.2)、-3.1(-6.3-0.1)、-6.0(-11.4--0.6)

*g
平均差(95%信頼区間)1.43

*h
平均差(95%信頼区間)−1.47,

 

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参考文献

  1. Kannampallil T, et. al. Translational Psychiatry. Published online May 12, 2023. doi: 10.1038/s41398-023-02462-x