大学生の帰属意識を高める介入は学業継続に役立つが、所属集団や状況により効果に差

大学生に対して社会的帰属意識を高めるための短時間介入を行うと、学業の継続率が向上するが、この効果は学生の所属集団や学生を取り巻く状況によって異なることが分かった。米スタンフォード大学のGregory M Waltonらによる研究報告で、「Science」2023年5月5日号に掲載された1

大学における学位取得率には、人種・民族や社会経済的出自により格差が見られる。大学への帰属意識を高める、つまり大学生活に馴染めるようにするための介入は、このような格差を緩和し、学業成績を向上することが知られている。しかし、近年の厳密な検討では、介入の効果は学生の特性によって異なる可能性も指摘されている2。そこでWaltonらは、米国の多様性の高い大学22校の新入生26,911人を対象とした二重盲検ランダム化比較対照試験において、帰属意識を高める介入はどのような学生に効果的なのかを検討した。

同試験で行われた介入は、オンライン上で学生自身が10~30分かけて行うものであった。この介入では最初に、上級生を対象とした調査結果から、「大学入学の時期にはホームシック、勉強が進まない、教員と上手く交流できないといった帰属についての問題に悩み不安を感じることは当たり前であり、それらは時間とともに軽減する」ということを学生に説明し、それについて上級生がまとめた話を提示した。学生はこの話を吟味し、将来入学する学生のためにこうした話を書くよう依頼された。主要アウトカムは大学の初年度修了率であり、学生を通う大学や人種・民族などに基づいたアイデンティティ集団に細かく分類した上で、介入による効果を評価した。

その結果、介入群では対照群と比較して、帰属意識が次第に大きくなることが確認された*a。介入群の学生は初年度修了率が高く、この効果には学生のアイデンティティ集団により有意な差が認められた*b(標準偏差は2.4%)。

主解析の結果、この介入が初年度修了率に及ぼす効果は、学生が所属するアイデンティティ集団における従来の初年度修了率および帰属アフォーダンスの高さによって異なることが示された*c。帰属アフォーダンスの高さとは、例えばサークル入会によって自身のアイデンティティに自信を持つなど、帰属を促進する機会の多さのことである。機械学習を用いたフレキシブルベイズ多層モデルという手法で解析したところ、帰属アフォーダンスが中等度~高度に高いアイデンティティ集団では、従来の初年度修了率が低い集団ほど、大きな介入効果を得ることができた*d。一方、帰属アフォーダンスが低い集団では、従来の初年度修了率にかかわらず、介入効果は得られなかった。

Waltonらは「われわれは、学生の所属集団や状況が、帰属意識に対する介入といかなる交互作用を有するかを明らかにする方法を開発した。また、この介入は低コストで多人数に実施可能であり、そのため米国の4年制大学749校に広げることもできるだろう。学生の帰属に関する悩みに対処することは、不平等を緩和するための対策としても有望である」と述べている。(編集協力HealthDay)

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注釈
*a
b=0.289、95%信頼区間(CI) 0.261-0.318、SE=0.014、t=20.13、P<0.001。

 

*b
b=0.024、95%CI 0.014-0.042、SE=0.007、t=3.60、P<0.001、Q=215.87、df=49、P<0.001。

 

*c
線形混合効果モデル、三者交互作用、b=0.013、95%CI 0.004-0.023、SE=0.005、t=2.81、P=0.005。

 

*d
条件付き処置効果(CATE)1.1 %pt、b=0.011、0.0005-0.002、SE=0.005、t=2.06、P=0.040。「条件x歴史的な達成」の交互作用で定性化した場合、b=0.013、0.002-0.024、SE=0.006、t=2.34、P=0.020。

参考文献

  1. Gregory M Walton, et al. Science. 2023 May 5;380(6644):499-505.
  2. Murphy MC, et al. Sci Adv. 2020 Jul 15;6(29):eaba4677.