17の国・地域におけるCOVID-19パンデミック前後の精神科遠隔診療の動向

アンケート調査を実施した17の国や地域の多くが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミックを受けて遠隔診療における規制を緩和したことが、「Psychological Medicine」に2020年11月27日に公開された論文1で明らかにされた。

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室の木下翔太郎氏らは、国内外の精神科遠隔診療の専門家30人からなるネットワークを用いて、スノーボールサンプリング法により大規模調査を実施した。COVID-19パンデミック前後(2019年末時点と2020年5月時点)における各地域の遠隔診療に関わる規制や保険制度の動向に関して、質問票への回答を求めた。調査対象はオーストラリア、ブラジル、カナダ(オンタリオ)、中国、デンマーク、エジプト、ドイツ、インド、イタリア、日本、南アフリカ、韓国、スペイン(マドリード)、台湾、トルコ、イギリス(イングランド)、アメリカ(ニューヨーク)の計17の国と地域である。なお、遠隔診療は、双方向・同期型のビデオ通話もしくは電話による診療と定義した。

COVID-19パンデミックを機に、17の国・地域のうち13カ所で遠隔診療の規制が緩和または時限的に緩和されていた(時限的緩和は、ブラジル、デンマーク、ドイツ、イタリア、日本、南アフリカ、韓国、台湾の8つ)。精神科遠隔診療での初診を認めているのは、2019年12月以前は17の国・地域のうち8カ所であったが、2020年5月時点ではイタリアを除く16カ所であった。2020年5月時点では、台湾以外の16の国・地域で遠隔診療の地域制限はなかった。そのほか、5カ所(中国、エジプト、インド、南アフリカ、台湾)で遠隔診療を行うための資格が必要とされるほか、4カ所(デンマーク、ドイツ、イタリア、米国)で特定のセキュリティ基準を満たすアプリケーションとソフトウェアの使用が要件となっていることなどが報告された。

一方、精神科遠隔診療で処方される薬剤の種類の規制は、オーストラリア、南アフリカ、韓国、スペイン、イギリスでは2019年末時点で既に対面診療処方の規則と同じ規則が適用されていたが、2020年に台湾が規制を撤廃した以外は慎重な姿勢が維持された。

精神科遠隔診療が公的医療保険の対象外であったインドと韓国でも、2020年5月時点で保険の対象となっており、結局17カ所すべてで精神科遠隔診療は公的医療保険でカバーされていた。さらに、デンマーク、ドイツ、日本、韓国で精神科遠隔診療の保険点数の変更が行われ、2020年5月時点では中国(地域により異なる)と日本を除く15カ所で対面診療の場合と同等もしくはそれ以上の診療報酬となっている。日本では、保険点数の見直しにより対面診療と精神科遠隔診療の報酬差は縮小したが、その報酬は依然低かった。

今回のアンケート調査に協力した専門家からは、パンデミック中は遠隔診療が使いやすいという回答が寄せられた。遠隔診療の利用が増加した要因として、感染拡大リスクを減らす目的があったことに加え、保険制度の変更を含む規制緩和がこれを後押ししたとする声もあった。その一方で、対面診療と比べると遠隔診療の実施には依然として障壁があるとの見解も、9つの国・地域の医師から挙がった。

木下氏らは、「どの医療分野においてであろうと、遠隔診療が広まる可能性を左右するのは、資格や保険制度などに関する規制であろう。今後もこれらの規制緩和の続行・改善が望まれる」と述べている。(編集協力HealthDay)

参考文献
  1. Kinoshita S, et al. Psychological Medicine. Published online November 27, 2020. doi: 10.1017/S0033291720004584
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