遺伝データとレジストリデータから深層学習モデルにより精神疾患を予測可能

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

遺伝データと既往歴・家族歴などを含むレジストリデータを組み合わせた深層学習モデルを使い、実臨床で行われているのと同様に、診断時に複数の精神疾患を考慮に入れる方法を用いれば、臨床の場で診断が下されるよりも早く精神疾患発症を予見でき、また重症化の予測も可能であるとする研究結果を、コペンハーゲン大学病院(デンマーク)のRosa Lundbye Allesøeらが、「JAMA Psychiatry」に2022年12月7日発表した1

iPSYCH(Initiative for Integrative Psychiatric Research)2012のデータベースは、1981年5月1日から2005年12月31日の間に出生し、2016年12月31日まで追跡された個人のデータで構成されている。Allesøeらは今回、この中から、研究期間(1981年5月1日〜2016年12月31日)中に1回以上、病院を受診し、注意欠如・多動症(ADHD、15,969人)、自閉症スペクトラム障害(ASD、12,878人)、大うつ病性障害(MDD、19,159人)、双極性障害(BD、1,719人)、統合失調症スペクトラム障害(SCZ、5,120人)の診断を受けた症例とこれらの精神疾患に関して医療機関を受診したことのない対照(20,681人)の総計63,535人(平均年齢23歳、男性55%)を対象に、遺伝データと既往歴や家族歴などを含む医療健康データを抽出。これらを基に、精神疾患発症の予見およびその重症化を予測するための深層学習モデルを開発した。

精神疾患発症予見および重症化(外来受診、入院、自殺企図などからスコア化し、軽度から重度まで5群に分類)予測の能力を、これら5種類の疾患を含む3個のモデル〔対照と5種類の精神疾患全体を区別(モデル1)、対照を含め、5種類の精神疾患を区別(モデル2)、対照を含めず、5種類の疾患を区別(モデル3)〕、および1種類の疾患を対象にしたモデル作成を、5種類の疾患にそれぞれあてはめて5個のモデルを作成した上で、モデルの疾患分類能を評価するROC曲線下面積(AUC)に加え、モデルの正確度、およびマシューズ相関係数(MCC;値が大きいほど、分類が良好であることを意味する)を算出して、最も予測能の高いモデルはどれなのかを評価した。なお、最初に5種類のいずれかの精神疾患の診断を受けた際の臨床の条件に近付けるため、その後に受けた別の診断に関するデータは全て使用しなかった。

モデル2の対照とこれら精神疾患とを判別する能力は、AUC 0.81、正確度44%、MCC 0.28であった。1種類のみの精神疾患についてのモデルにおけるAUCとMCCは、高い順に、SCZで0.84/0.54、BDで0.79/0.41、ASDで0.77/0.39、ADHDで0.74/0.38、MDDで0.74/0.38であった。5種類の疾患を含むモデルの予測能に特に強い影響を及ぼすデータセットは、精神疾患の既往歴(これを含めない場合には正確度が5〜23%低下)と年齢(同0〜12%低下)だった。遺伝データ(多遺伝子リスクスコア、個人の遺伝子型、HLA)がモデルの正確度に及ぼす影響は2〜5%で、最も強い影響を受けたのはモデル3だった(同5%低下)。重症化の予測については、スコアが最重度の群に対する予測能が最も高く、AUCは0.72であった。

著者らは、「今回の結果は、診察を受ける以前において、実際の臨床の条件に近い複数の精神疾患を扱うモデルが、レジストリデータと遺伝情報のみに基づいて精神疾患発症を高精度に予測可能であることを示すものだ」と述べている。(HealthDay News 2022年12月21日)

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※著者の一人が、Lundbeckにおいて講師およびscientific counselorを務めていたことを表明している。

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参考文献

  1. Allesøe RL et. al. JAMA Psychiatry. Published online December 7, 2022. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2022.4076