精神疾患に対する遠隔診療の治療効果は対面診療に劣らない

うつ病、不安症、および強迫症患者に対するビデオ通話を利用した遠隔診療の治療効果は、対面診療の治療効果に劣らないことが、慶應義塾大学医学部ヒルズ未来予防医療・ウェルネス共同研究講座の岸本泰士郎氏らが実施したランダム化比較試験により明らかにされた。研究結果の詳細は、「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に2023年12月15日掲載された1

岸本氏らは、日本の11都道県に所在する19の医療機関のうつ病、不安症、または強迫症患者199人を対象に、スマートフォンやタブレットなどのビデオ通話を用いた「遠隔診療」による治療効果と、「対面診療」による治療効果を比較した。対象者は、24週間にわたって遠隔診療で治療を受ける群(105人;うつ病53人、不安症34人、強迫症18人)と対面診療で治療を受ける群(94人;うつ病45人、不安症32人、強迫症17人)にランダムに割り付けられた。遠隔診療群では、治療期間内に1回以上、対面診療も実施されたが、治療の50%以上は遠隔診療で行われた。

主要評価項目は、複数の疾患を対象としたことから、治療開始から24週目にSF-36 MCS(36-Item Short-Form Health Survey Mental Component Summary)で評価した精神的側面のQOLサマリースコアとした。副次評価項目は、SF-36の身体機能のサマリースコア、あらゆる理由による試験離脱、「治療同盟」の指標となるWorking Alliance Inventory(WAI)スコア、患者満足度評価尺度(CSQ)スコアなど全12項目に及んだ。

主要評価項目の解析はSF-36 MCSによる評価を1回以上完了し、研究プロトコルや倫理的な研究ガイドラインに重大な違反がない患者(full analysis set;FAS)およびper-protocol set(PPS)*aで行い、副次評価項目の解析や探索的解析はFASでのみ行った。主要評価項目の解析では、混合効果モデルを用いて、各時点の点推定値と95%信頼区間(CI)を算出した。非劣性の下限値は事前に−5と設定した。

治療から24週目時点のSF-36 MCSスコアは、遠隔診療群で48.50±9.57、対面診療群で46.68±10.58であった。平均スコアの群間差は1.82(95%CI −1.12〜4.77、P<0.0001)であり、対面診療に対して遠隔診療は非劣性であることが示された。PPSを対象にした分析(感度分析)でも同様の結果であった(遠隔診療群48.50±9.57、対面診療群46.60±10.62、平均スコアの群間差1.90、95%CI −1.06〜4.86、P<0.0001)。

副次評価項目については、あらゆる理由による試験離脱や患者満足度も含め、ほとんどの項目において遠隔診療群と対面診療群の間に有意差は認められなかった。ただし、通院1回当たりの時間〔遠隔診療群42.9±40.8分(95%CI 34.7〜51.1)、対面診療群79.2±61.6分(同66.3〜92.1)、P<0.0001〕と通院1回当たりの費用〔同順で、中央値168.9円(四分位範囲0.0〜793.3)、500.0円(同140〜1266.7)、P=0.0104〕については有意差が認められた。

著書らは、「実臨床の中で実施された今回の研究により、スマートフォンやタブレットなどを用いた精神疾患患者に対する遠隔診療の治療効果は、対面診療による治療効果と同等であることが明らかになった。自宅にいながら容易に治療を受けられる遠隔医療は、ヘルスケアの一形態として活用できる可能性を秘めている」と結論付けている。(編集協力HealthDay)

 

注釈
*a
PPS(per-protocol set)はFASの中から試験実施計画書に重大な違反があった患者、すなわち(1)選択・除外基準違反、(2)中止基準違反、(3)併用が禁止されている治療法に関する違反、(4)追跡データの欠如を除外した集団と定義した。

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参考文献

  1. Kishimoto T, et al. Psychiatry and Clinical Neurosciences. Published online December 15, 2023. doi: 10.1111/pcn.13618