症状が経時的に悪化、または慢性的に軽・中等症のうつ病患者では治療により認知症リスクが低下
うつ病の症状の変化を時間の経過から見た場合、悪化をたどっている者、および慢性的に軽症から中等症である者においては、うつ病の治療を受けると認知症の発症が有意に抑制されるとする研究結果が、「Biological Psychiatry」2023年5月号に掲載された1。
復旦大学附属華山医院抗生素研究所(中国)のLiu Yangらは、2006年1月1日から2010年12月31日の間にUKバイオバンクに登録された50〜70歳の354,313人を対象に、2020年まで追跡し(総計4,212,929人年)、うつ病の症状の時間的経過および治療と、認知症発症リスクとの関連について検討した。登録時に認知症のあった者、追跡期間中にうつ病を発症した者、追跡終了前2年以内に最初のうつ病治療を受けた者は対象から除外した。対象者は、平均年齢60.1(標準偏差5.4)歳、女性189,440人(53.5%)、うつ病のない者308,033人、うつ病患者46,820人であった。中央値11.9年(四分位範囲11.2〜12.6年)にわたる追跡期間中に、4,493人(うち、うつ病患者725人)が認知症の診断を受けた。
まず、症状の時間的変化の観点から、1)うつ病を新規に発症、または症状が経時的に悪化した「症状悪化群」(3,462人)、2)症状が経時的に改善した「症状改善群」(3,578人)、3)慢性的に症状が重症の「慢性重症群」(2,281人)で、4)慢性的に症状が軽症・中等症の「慢性軽症群」(3,159人)、の4つのサブグループを作った。そして、3つのモデルを用いたCox比例ハザード回帰により、うつ病の有無、うつ病の時間的経過、および治療と、認知症発症との関連を検討し、比例ハザード性をSchoenfeldの残差で確認した。モデル1は調整なし、モデル2は性別・年齢・社会経済的状態・有する資格で調整、モデル3には喫煙・飲酒・肥満などの因子を追加した。
その結果、いずれのモデルでも、うつ病である者の認知症発症リスクは、うつ病でない者より有意に高かった〔ハザード比(HR)1.51、95%信頼区間(CI)1.38-1.63、P<0.001〕。次に、4つのサブグループそれぞれを非うつ病群と比べたところ、症状改善群では認知症発症リスクの上昇は認められなかったが(HR 0.84、95%CI 0.56-1.24、P=0.37)、その他の3群では有意なリスク上昇が認められた(症状悪化群:同2.95、2.43-3.58、P<0.001、慢性重症群:同1.79、1.32-2.42、P<0.001、慢性軽症群:同1.98、1.54-2.55、P<0.001)。
次いで、うつ病の治療の影響を調べるために、治療を受けた者と受けなかった者との間で認知症の発症リスクを比較した。うつ病患者の中で治療を受けていたのは22,128人で、14,695人は抗うつ薬のみ、2,151人は心理療法のみ、5,281人は両者併用で治療されていた。未治療の者と比べ、治療を受けた者では認知症発症リスクが低かった(HR 0.69、95%CI 0.62-0.77、P<0.001)。これら治療法ごとに解析した結果もほぼ同様で、HRは、抗うつ薬のみが0.77(95%CI 0.65-0.91、P=0.002)、心理療法のみが0.74(同0.58-0.94、P=0.01)、両者併用が0.62(同0.53-0.73、P<0.001)であった。
こうしたことから、症状の時間的経過から分けたサブグループにおいても治療(方法を問わない)を受けた場合と未治療の場合を比較したところ、症状悪化群において、治療された者では32%の有意なリスク低下が認められた(HR 0.68、95%CI 0.52-0.89、P=0.005)。同様に慢性軽症群でも、治療された者ではリスクが28%有意に低下していた(同0.72、0.53-0.98、P=0.04)。
著者らは、「うつ病の症状が悪化の一途をたどっている患者や慢性的に軽症の患者でも、うつ病の治療を受けている者では認知症発症リスクの低下が認められた。この結果は、うつ病患者に対して時宜に叶った介入を行えば、慢性的な重症化を防ぎ、認知症発症を回避できる可能性を示すものだ」と述べている。(編集協力HealthDay)
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