
民族的マイノリティである女性の産後うつ病からの回復は、文化的背景に合ったCBTベースのグループ介入によって早まる
産後うつ病を有する英国の南アジア系の女性に対し、文化的背景に合った認知行動療法(CBT)をベースとしたグループ介入を行うと、通常の治療と比べて、産後うつ病からの回復が早まる、とした多施設共同ランダム化比較試験(RCT)の結果が、英マンチェスター大学心理学・メンタルヘルス分野のNusrat Husainらにより、「The Lancet」2024年10月12日号に発表された1。
産後うつ病は、母親や子どもに対し短期的にも長期的にも悪影響を及ぼすため、時機を逸せず効果的に介入すべきである。しかし、英国では民族的マイノリティである南アジア系女性は、偏見・差別や言語・文化の障壁により、適切な治療を受けられないことが多い2-6。
Husainら、英国のイングランド北西部やロンドン、グラスゴーなど、南アジア系住民の比率が高い5つの地域や都市に所在するセンターで、専門家ではない医療従事者が行う文化的背景に合ったCBTベースのグループ介入である「ポジティブヘルスプログラム(Positive Health Programme;PHP)の臨床的有効性を検討するRCTを実施した。対象者は、DSM-5の産後うつ病の診断基準を満たし、0〜12カ月の乳児を持つ16歳以上の南アジア系の女性732人とし、PHPを受ける群(368人、PHP群)と通常の治療を受ける群(364人、対照群)にランダムに割り付けた。対象者の55%はパキスタン系、24%はインド系、18%はバングラデシュ系で、平均年齢は31.4(標準偏差〔SD〕5.2)歳、末子の平均年齢は23.6(SD 14.2)週であった。
PHPは、4カ月間12回のセッション(1セッションは60〜90分)で構成されており、心理学や社会科学の素養は有するがCBTの実施経験はない非専門家により、最初の2カ月は毎週、その後の2カ月は隔週で、対象者が希望する言語を用いて実施された。主要評価項目は、ランダム化から4カ月後および12カ月後にHDRS(ハミルトンうつ病評価尺度)で評価したうつ病からの回復(HDRSスコア7点以下)とし、ランダム効果ロジスティック回帰モデルを用いて評価した。モデルには、ベースライン時のうつ病の重症度(HDRSスコア)、出産歴、教育年数などを固定共変量として含めた。
ランダム化から4カ月後、うつ病からの回復が確認された患者の割合は、PHP群で49%(138人)だったのに対し、対照群では37%(105人)にとどまっており、ベースラインの共変量で調整した場合、PHP群が回復している確率が介入群の約2倍となっていた(調整オッズ比1.97、95%信頼区間1.26〜3.10、P=0.0030)。しかし、ランダム化から12カ月後には両群ともに54%の対象者が回復を達成し、有意差は認められなかった(同1.02、0.62〜1.66、P=0.80)。
著者らは、「文化的背景に合ったCBTベースのグループ介入を行うと、通常の治療と比較して、産後うつ病からの回復が早くなると思われる。この治療効果を長期的に維持するため、またこの方法を普及させるためには、さらなる研究が必要だ」と述べている。(編集協力HealthDay)
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