新型コロナウイルス感染症がもたらすさまざまな環境の変化がメンタルヘルスに及ぼす影響~COVID-19感染拡大を精神科医の視点で考える Vol.5

中村 純 先生(医療法人社団新光会 不知火クリニック 副院長)

コロナ禍で、自殺者数が昨年の同時期よりも増えている傾向がみられる中、自殺を予防するための対策は急務です。また、新型コロナウイルス感染症自体だけでなく、働き方や生活様式が急変し、それに伴い二次的に生じたストレスがメンタルヘルスに与える影響も小さくはありません。そこで、これらの諸問題について、中村純先生にご意見を伺いました。

―最近、自殺が増加しているとのニュースが流れました。自殺増加について先生が感じていらっしゃることをお聞かせいただけますか。

新型コロナウイルス感染症の拡大は、メンタルヘルスに大きな影響を与えていることを実感しています。私は、「北九州いのちの電話」の理事長を務めていまして、そこには新型コロナウイルス感染症に関連する生活苦や経済苦、漠然とした不安、うつ症状を訴える電話が増えてきて、2020年8月ごろまでに受けた電話の約3割が新型コロナウイルス感染症に関連する相談でした。これまでは、電話をかけてくる方の多くは女性で、男性は電話で悩みを吐露するのは少ない印象がありましたが、最近では男女の割合が半々くらいになっています。
自殺の問題はニュースで報じられているとおり、警察庁が集計した9月の自殺者数は、全国で合わせて1805人(2020年9月末速報値)で、昨年の同時期よりも8.6%増加していました1。2020年は、7月以降、3ヵ月連続して昨年の同時期よりも増加していることになります。また、男女別では、男性1166人、女性639人で、前年と比べると男性は0.4%の増加に対し女性が27.5%の増加と、女性の大幅な増加が特徴的です。また、若い世代の自殺も増えています。若い世代や女性の自殺既遂者の増加理由は定かではありませんが、将来に対する漠然とした不安、新型コロナウイルス感染症に関連する生活苦や経済苦などが影響している可能性は否定できないと思います。
日本で自殺者数が初めて3万人を超えたということが非常に話題となった1998年は、完全失業率が前年の3.4%から4.1%2に急激に上昇した年でした。2020年は、7月まで2%台であった完全失業率が、8月には3.0%に達しました3。今、多くの非正規雇用の方が職を失っていますし、精神疾患を抱える方はなおさら就職するのが難しくなっている現状があります。自殺者が増加した原因は経済面の問題に加え、自分が新型コロナウイルスに感染するリスクや先が見えない現状を不安に感じたり、「自粛生活」や「ソーシャル・ディスタンス」を余儀なくされる中で人々が孤立化したり、感染者が差別されたりといった状況下で、二次的に大きなストレスが生じた影響もあると思います。

―孤立化というお話がありましたが、テレワークや外食機会の減少、働き方や生活様式の変化がメンタルヘルスに与えている影響について、先生のご意見をお聞かせください。

働き方や生活様式の変化をきっかけに、治療中の方で症状悪化する方や、新たに来院されうつ病をはじめとする気分障害の診断を受ける方は確かにいます。
今回のテレワークの拡大は、社会に大きなインパクトを与えた出来事でした。業務の効率化や仕事上の情報共有の上では、便利なことも多いことがわかりました。一方で、テレワークでは人間関係の機微になるような話をなかなか共有しにくく、人間関係が疎になるという意見もあります。第三者からの助けを必要としている場合であっても、周りが顔色や表情の変化など些細なことに気づく機会が減る可能性があります。実際、テレワークで仕事とプライベートの境がなくなり、活動量が減少し、生活に乱れが生じた結果、メンタルヘルスに悪影響が及んだケースを経験しています。
通院中の方ですが、受診時に飲酒量の増加がみられたので注意を促したものの、飲酒量の増加とともに、乱れていた睡眠・覚醒リズムがさらに悪化してしまいました。とりわけ独り暮らしの方の場合は、テレワークで仕事をしていると、飲酒量や時間管理などに変化があっても、自らはもちろん周囲も変化に気づきにくいと言えます。経験則ですが、こうした生活リズムを崩しやすい職種としては、IT系の方などが挙げられます。
テレワーク以外でも、仕事環境の大きな変化でうつ状態に陥る方がいます。幼稚園や小学校などで働く保育士や教員の方も、今回、日常が大きく変わりました。以前の日常には、子供たちとの楽しいグループワークや歌、運動があり、また、昼食では机を向かい合わせてグループを作り、会話を楽しみながら仲良く一緒に食べていました。しかし、コロナ禍で密を避けなければならず、グループワーク禁止、大声で歌うことも禁止、給食は横並び一列で食べ、食事中の会話も禁止、といったように何もかもが禁止、禁止、という状況にとてもストレスを感じた方は多いと思われます。実際、来院されたある患者さんは、朝に職場に行きたくない状態となって夕方には楽になるという日内変動を示し、面談中は仕事を辞めたいと涙を流し続け、自殺念慮もみられました。この方のように他者配慮性が強く、同僚や先輩に相談もできず悩みを抱え込む方などの場合は、特に注意が必要です。
労働者だけでなく、学生の方もうつ症状を発症する可能性があります。コロナ禍で大学が閉鎖され、授業はオンラインとなり、キャンパスライフを楽しむ機会を失い、家に籠もることが容易にできてしまう環境になりました。特に一人暮らしの大学生の場合は、リスクが高いと言えるかもしれません。下宿中の大学生の息子を持つご家族が、単位を落としたという大学からの通知を受け、下宿先へ様子を見に行ってみたところ、ヒゲを生やし、塞ぎ込み、家から出ない生活を送る状態であったことに初めて気付いたというケースがありました。人間関係が希薄になることをきっかけに起こるこうした事態に、社会とのつながりの大切さをあらためて実感しています。

―孤立化は、多くの方に影響を与えたようですね。これから何らかの対策はあるでしょうか。

リモートワークで仕事をしている方がメンタルヘルスの不調を来した場合、仕事量の増加など、時間や業務の管理に問題が生じている可能性もあります。患者さんだけではなく会社の上司・同僚や家族など、第三者と一緒に受診していただくことは、状況把握や環境の改善策を考えるうえで有用だと思います。
また、精神疾患を抱える方は、睡眠・覚醒リズムが壊れている方が多くいます。朝には日の光を浴び、適度な運動をして、夜はきちんと寝る、という生活のリズムをつくることが、治療を行う上で重要です。特に25~30歳くらいの方は、睡眠・覚醒リズムが壊れやすく、注意が必要です。睡眠日誌を書いてもらいながら、睡眠についての教育と睡眠薬の調整によりリズムを戻すことが、症状の軽快につながります。一般に、環境ストレスなどの外的・環境要因によりうつ症状が表面化した患者さんは、問題となる外的要因を排除し、環境を整えることが治療上の有用な手段になり得ます。しかし、コロナ禍の状況が続いて終息が見通せない中、患者さんの不安をなかなか払拭できないでいることを歯がゆく思います。

―社会的なものを含め、二次的に生じたストレスの影響について、どのように考えていけばいいでしょうか。

都市圏と地方で異なるかもしれませんが、地方では差別が問題となっていることがニュースで取り上げられています。新型コロナウイルス感染症の罹患により村八分扱いや、家に落書きされるなどの嫌がらせを受けるという事態も起こってしまっています。実家に帰省した方の話では、他の地域に住むご自身の帰省による接触で、母親が利用するデイサービスから2週間利用を控えるよう要請されたと聞きました。目に見えないウイルスは、人々の不安をかき立てるのだと思います。
また、テレビなどのメディアで新型コロナウイルス感染者数が毎日繰り返し放送され、情報が錯綜しています。特に不安が強い患者さんでは、かなりの影響を受けていると思います。強迫性障害の方では強迫性が増す恐れもあります。実際、手を念入りに洗わないと気が済まない方では、ウイルスの付着への不安が過剰となり、手洗いを止められなくなってしまったりしています。不安を加速させるような情報は減らすよう努めていかなければなりません。世界保健機関(WHO)は、#HealthyAtHomeキャンペーンの一環でメンタルヘルスについての声明を出しており、その中で、信頼できる情報を得ることは重要ではあるものの、不安や困惑をもたらすニュースを見る機会は減らすように、といったことが示されています4。情報の取捨選択や、過剰に新型コロナウイルス感染症関連のニュースを見ないようアドバイスすることも必要かもしれません。
社会とのつながりの悪い影響を述べましたが、一方で、良いつながりは一層大切になってきます。私が診察する際、特に初対面の患者さんに対しては、いったんマスクをはずして顔を見せてから挨拶、自己紹介をし、その後にマスクを着用して患者さんの話を聞くようにしています。やはり、顔がわからないことは患者さんにとっては不安要素の1つになってしまうかもしれませんし、顔をきちんと見せて挨拶することで患者さんが少しでも安心して受診できるようであれば幸いなことです。
精神科では、他の多くの疾患のように検査の数値で判断するというよりも、むしろ、患者さんの話を聞くことを中心にして診断し、治療を行っていくわけですから、患者さんが安心できる環境の中でその表情、会話の流暢性・量、感情の表れ方などを観察していく必要があります。コロナ禍であるからこそ、なおさら安心して潤滑なコミュニケーションを取れるように気を配りたいと考えています。

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2020年10月7日
取材場所:ルンドベック・ジャパン株式会社

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お話の内容は、すべての患者様や医療従事者に当てはまるものではなく、またそれらの内容は弊社の公式見解として保証するものではありません。

参考文献
  1. 警察庁. 令和2年の月別の自殺者数について 9月末の速報値. (令和2年10月7日集計)
  2. 総務省統計局. 労働力調査長期時系列データ
  3. 総務省統計局. 労働力調査(基本集計)2020年(令和2年)8月分
  4. World Health Organization. https://www.who.int/campaigns/connecting-the-world-to-combat-coronavirus/healthyathome/healthyathome---mental-health (2020年10月7日閲覧)
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