Psychiatry and Clinical Neurosciences(PCN)チーフエディターの視点で見るCOVID-19感染拡大下におけるメンタルヘルス~COVID-19感染拡大を精神科医の視点で考える Vol.3

加藤 忠史 先生(順天堂大学医学部・大学院医学研究科 精神医学講座 主任教授 / PCN Editors-in-Chief)

Psychiatry and Clinical Neurosciences(PCN)はCOVID-19感染拡大下におけるメンタルヘルスについての特集を組んでおり、9月24日現在までに48件の報告が掲載されています。PCNのEditors-in-Chiefである加藤忠史先生に、特集を組まれた契機と寄せられた論文の意義、査読を通じての所感などを伺いました。

―PCNでCOVID-19におけるメンタルヘルスについての特集を組むに至った背景を教えてください。

ダイヤモンド・プリンセス号での感染拡大が問題となっていた2月にPCNに投稿された防衛医科大学校の重村淳先生らのレター“Public responses to the novel 2019 coronavirus (2019‐nCoV) in Japan: Mental health consequences and target populations”(COVID-19への社会的対応 メンタルヘルスへの影響と注意すべき対象)1がすべての契機と言えるでしょう。
重村先生らは、COVID-19の蔓延した際には、精神疾患を有する人のみならず、精神疾患を有さない人も含めて、先行きが分からないことからくる不安に恐怖を覚える可能性があることを注意喚起しています。レターは「日本はこれまでにも、原爆投下、サリンガス攻撃、東北大震災と福島原発事故などで、目に見えないものへの恐怖から社会的混乱に陥り、情報が錯綜するなかで一部の人々が差別に遭った」と振り返ったうえで、「COVID-19感染拡大下では恐怖感から心的外傷後ストレス障害(PTSD)、不安障害、うつ病などの精神疾患が増えることが危惧される、メンタルヘルス専門医は必要な支援を提供することが不可欠」と述べておられます。
また、社会的弱者となり得る、感染者、その家族や同僚、中国人や中国人コミュニティ、精神疾患を有する患者さんや身体症状を有する患者さん、医療従事者のなかでも特に新型コロナウイルス感染者と直接コンタクトのある医療従事者のケアが重要となる旨も記述されています。
2月の段階では、4月以降の国内で全国的な感染拡大は予期しておらず、重村先生は先を見越しこれを書かれ、COVID-19に関連するメンタルヘルスの重要さについて注意喚起されたのだと思います。
これを読んだときに、当時の段階でこれから起こるであろう事が見えてきたような気がしました。重村先生ご自身が東日本大震災をはじめとする災害時のメンタルヘルスについて活動されてこられたご経験から、これから起こり得る問題について警鐘を鳴らしたのでしょう。先生が危惧したことが、後に実際に起こっています。

―これを契機として、感染拡大下におけるメンタルヘルスについて特集を組もうと考えられたわけですね。

当時、1週間後のことすら予想が困難でしたが、情報を共有する重要性については認識していました。メーリングリストを介した情報の共有はありましたが、登録された特定の人たちの間でしか情報が共有されないことを危惧し、幅広く情報や問題意識を共有して対策を効率的に進めたほうがよいのではないかとの考えに至りました。
PCNは、日本精神神経学会のオフィシャルジャーナルであり、査読も速く、受理後はすぐにオンラインで掲載するという、スピーディに対応できるジャーナルです。その速報性を活かし、未曽有の状況に皆で対処していくために、皆で情報共有することの有用性を期待し、4月24日に特集への投稿を呼びかけるに至りました。
5月末までの約1ヵ月間で255件の投稿がありました。査読に追われる日々が続きましたが、9月までに40報以上を掲載することができました。週刊誌である“Nature”や“Science”は、学術的な要素とともに速報性・時事性というジャーナリズムも要求されるものです。PCNの今回の特集でも、学術的な要素とジャーナリズムの両方を兼ね備えているものを採用し、掲載していきました。
特定の精神疾患を有する患者さんがコロナ禍でどのような反応をみせたか、症状がどのように悪化したか、どのような問題が生じたかなど、さまざまな情報を共有できたと思います。4~5月にかけて入院患者さんも外来患者さんも減少する傾向がみられたのですが、激しい精神運動興奮を有する患者さんは減少していないといったように、入院・受診した患者さんの内訳についての情報も寄せられました。コロナ禍でのメンタルヘルスの問題は、精神疾患を有する患者さんだけに限定されるものではなく、精神疾患の既往がなかった人でも精神症状を訴えて精神科を受診した人もいるという報告も寄せられました。
ウイルスは目に見えないものであり、いつ感染するか分からないといった不安や、家族が感染した場合に社会の目が気になってしまうことへの不安などから、精神症状が生じた事例もありました。また、COVID-19の診療に携わる医療従事者のメンタルヘルスも非常に注目されました。順天堂大学でも、4月に「心のケアチーム」を発足させ、活動をはじめました。この活動にあたっても、重村先生のご意見を参考にさせていただいています。
レターを日本語に訳して公開し、2020年9月に行われた日本精神神経学会学術総会では重村先生に講演していただきました。メンタルヘルスに関わる専門家は先を読んで準備しないといけないことを再認識させられたと思います。

―このほかにも興味深い論文のいくつかをご紹介ください。

例えば、上田路子先生らにより、コロナ禍での日本人のメンタルヘルスについて、4月と5月に、2回にわたって、オンラインでの全国調査を実施した結果が報告されています2。PHQ-9日本語版により抑うつ症状を、GAD-7(Generalized Anxiety Disorder -7)日本語版により不安症状を評価しています。その結果、若年齢~中年、前年度よりも収入が低下している、失業中、解雇、離職が、抑うつ症状と不安症状に関連していること、非正規雇用であることが不安症状に関連していることが示されています。
8~9月と、前年同時期より自殺者数が増えたことがニュースで取り上げられており、特記すべきは女性の自殺者数が増えているということがありました。それ以前は、数値上は目立たなかったかもしれませんが、感染者数が著しく増加した4~5月にかけては、外出や受診で感染するかもしれないといった不安から、本来は積極的なケアが必要とされる人が受診を控えてしまい、必要なケアを受けられず自殺に至ってしまったケースがあったと思います。
夏には失業率が増加しましたので、職を失ったことによる将来への不安から自殺に至るケースも増えるのではないかと危惧しています。
COVID-19の影響は社会のいたるところに出てきていると思います。感染して重篤な状態に陥っても家族は面会できず、息を引き取る際にも側にいられず、さらに亡くなられてから葬儀もできず、最終的にお骨になって帰ってきてようやく会える、といった状況下で、ご遺族の心の中で「喪」の作業が進められない状況になってしまっているものと推測します。また、在宅勤務により、急に生活リズムが変わったり、ドメスティックバイオレンスが増えたりといったことも問題になっています。このように、直接的・間接的にメンタルヘルスに与える影響は様々であり、今後もより一層の注意が必要であると考えています。
また、「COVID-19が直接的に脳に侵襲を与え、精神症状を引き起こす」ことを示唆する症例報告もあり3、引き続き注視していくつもりです。

―COVID-19の影響で先生ご自身が実感されていることをお聞かせください。

医学部での教育にもCOVID-19の影響は出ています。授業もオンラインで行われていて、実習では患者さんとの接触が禁じられていたために、いわゆるbed-sideでの学びが不足していることを危惧しています。オンライン学習を否定的に捉えているわけではありませんが、やはり患者さんと接して実習するということには深い意義があり、コロナ禍での医学教育のありかたを考えさせられています。
順天堂大学は比較的早くから実習を再開しましたが、状況の変化とともに中断せざるを得ない場合もありました。オンライン診療を実習に取り入れていこうとの考えもありましたが、セキュリティ面など課題が多く、実施できなかったのが実情です。
検討の結果、少人数での実習など、工夫しながら病院での実習を行うに至りました。しかし、COVID-19への心配から、病院で実習を行うことに対しての不安の声もありました。実社会に目を向けると、クラスターを恐れてか、病院やクリニックでも診療を止めてしまうところもありました。コロナ禍で、病気で治療が必要な患者さんが、受診したくても受診できないという状況が生じてしまっている世の中を歯がゆくも思っています。
まだまだCOVID-19の収束は見えてきません。今後も問題点や有意義な情報を共有しあい、皆で協力しながら対処していくことを切望しています。

* PCNに寄せられたCOVID-19関連の論文/レターは以下に掲載されています。

Psychiatry and Clinical Neurosciences(PCN) Mental health issues associated with COVID-19 outbreak
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/toc/10.1111/(ISSN)1440-1819.mental-health-issues-associated-with-COVID-19-outbreak (2020年10月14日閲覧)

 

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2020年10月14日
取材場所:順天堂大学医学部・大学院医学研究科 精神医学講座 教授室

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本コンテンツに登場する先生方には、Progress in Mind Japan Resource CenterのWebコンテンツ用の取材であることを事前にご承諾いただいたうえで、弊社が事前に用意したテーマに沿ってご意見・ご見解を自由にお話しいただき、可能な限りそのまま掲載しています。
お話の内容は、すべての患者様や医療従事者に当てはまるものではなく、またそれらの内容は弊社の公式見解として保証するものではありません。

参考文献
  1. Shigemura J, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2020;74:281-82.
  2. Ueda M, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2020;74:505-06.
  3. Majadas S, et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2020;74:551-2.
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