全般性不安障害における臨床管理の最適化
全般性不安障害(GAD)は、原因とは不釣り合いの制御不能で過剰な不安や心配により、日常生活に影響を及ぼしかねない状態を特徴とします。本稿では、GADの症状、併存因子及び神経学的所見を、最良とされる検査法及び治療方法と合わせて論じます。
概要
GADは、パニック障害や限局性恐怖症といったいくつかの不安障害のうちの1つです1。欧州では、GADの罹患者は約890万人と推定され、男性より女性に約2倍多いとされています2(本邦におけるGADの障害有病率は、2.6%、12カ月有病率は1.3%3)。
欧州でGADに罹患している人は何百万人に上る
精神疾患の診断・統計マニュアル第5版・テキスト改訂版(DSM-5-TR)には、GADの診断基準として、ある出来事や活動に対して原因とは不釣り合いの制御不能で過剰な不安や心配が起こる日の方が、起こらない日よりも多い状態が少なくとも6ヵ月間続く、という項目があります。これらの症状が日常生活に支障を来たしかねない状態であり、また、(1)落ち着きのなさ、緊張感、また神経の高ぶり、(2)疲労しやすいこと、(3)集中困難、または心が空白になること、(4)易怒性、(5)筋肉の緊張、(6)睡眠障害といった症状のうち、少なくとも3つを伴うとされています4。不安が突如押し寄せて起こるパニック発作とは異なり、GADは、一貫した状態が長期間にわたり持続することが通例です5。
GADは、仕事及び社会生活に短期的にも長期的にも影響を及ぼす可能性があります。例えば、旅行や大規模なイベントなど、危険と感じる状況を避けてしまう場合です。GADは本人自身に対する過剰な心配だけでなく、その人にとって大切な他者に対する心配としても現れることがあります5。GADは何年、何十年と長期的に持続する可能性があり、神経症性障害を対象したノッティンガム研究の知見によると、GADと診断された人の60%近くが、12年後及び30年後の評価でもGADを有していたことがわかっています(GADの陽性診断 (%): 12年後 = 57.1%、n=63; 30年後=57.1%、n=26)6。
GADは仕事や社会生活に影響を及ぼす可能性がある
神経学的所見
脳画像研究により、扁桃体(情動処理、特に恐怖に関与)、前頭前皮質(PFC)及び前帯状皮質(実行機能及び情動調整の両方に関与)並びにこれらとその他の脳領域間の結合が、GAD患者において最も影響を受ける領域であることが解明されました。さらに、記憶及び恐怖の消滅に影響を与える海馬体積の減少及び視床下部-下垂体-副腎系の亢進がみられることもわかっています7。
これらを踏まえ、GADにおける「予期憂慮」は扁桃体の過剰活性、自律神経系の活動亢進及びコルチゾールの分泌を引き起こし、GADの症状が自律神経の覚醒のダウンレギュレーションへ向かう予兆となっていることが提言されてきました7。コルチゾールが慢性的に分泌されると、扁桃体及びPFCの機能的結合の低下に繋がり、不安の増大及び情動調整機能の低下を引き起こします7。
GADの評価
プライマリケアにおいてGADの認知度が低い可能性があります。GAD症例(n = 17,739)の系統的文献レビューに基づくデータ分析によると、GADに罹患した人は、プライマリケア医を1年間に4回以上受診している確率が、GADに罹患していない人に比べて1.6倍であることがわかりました。これは、GADと大うつ病性障害(MDD)が併存している場合には2.1倍に上昇します2,*a。また、ドイツ国内のプライマリケア医558名(臨床年数[平均±SD]=12.0±7.4年)のアンケート調査では、MDDの64.3%が正しく診断されたのに対し、GADはわずか34.4%であり、GADとMDDの併存した場合はわずか43.2%であることがわかりました2。
GADの初期評価には2項目質問(GAD-2)による簡易的な検査が有用です
GADの疑いがある人の初期評価には、2項目質問による全般性不安障害の簡易検査(GAD-2)が有用です8。この検査では、過去2週間に緊張感、不安感又は神経過敏に悩まされた頻度、及び心配することを止められなかったり、制御不能になることで悩まされた頻度を尋ねられます9。
GADを評価する尺度には、スクリーニングのためのPenn State Worry Questionnaire(PSWQ)10及び症状の重症度を確認するための7項目全般性不安障害尺度(GAD-7)11のような自己評価尺度があります。臨床的に応用されている不安の評価尺度には、ハミルトン不安評価尺度(HAM-A)12、及び抑うつ症状7項目と不安症状7項目で構成されるHAD尺度(HADS)13があります。
HAM-Aには不安気分(抑うつ、不安症状など)、身体症状(呼吸器、心血管系、自律神経、泌尿器系の変化など)、行動の変化、不眠並びに恐怖、緊張及び知能障害を評価する項目があります。これら各項目を0(なし)~4(重度)の5段階で評価し、不安スコアの合計が8~14点は軽度、24点以上は重度の不安症状であることを示します13,14。
GADの鑑別診断※
GADにおいては、鑑別診断及び併存疾患の評価が重要です。それはGADの症状が他の精神障害の中で発現するだけでなく、褐色細胞腫又は甲状腺機能亢進症などといった他の内科的疾患においても発現する可能性があるためです4,15。併存疾患の生涯有病率は特に高く、Lamersら(オランダ)の報告ではGAD患者494例のうち、86%にMDDが併存し、74%が別の精神障害を有していました。うち49%がパニック障害、48%が社会不安障害でした16。
GADの多くはMDD及び/又は別の不安障害と併存します
MDDはGADにとって特に危険因子であると考えられます。あるメタ分析の知見では オッズ比11.7(95%信頼区間5.2, 26.3)17を示し(試験概要は概要a参照)、地域ベースの調査の分析では、MDDとGADの発症に15年の差があっても、ハザード比は6.6(95%信頼区間5.7, 7.7)を示していました(試験概要は概要b参照)18。
※本セクションでは、国内未承認用量・未承認薬が含まれます。承認情報の詳細および薬剤の使用にあたっては、本邦における各薬剤の添付文書情報を参照ください。
GADの治療 ※
GADの治療ガイドラインでは、精神療法や薬物療法、又は両者の併用を推奨しています19-22。認知行動療法(CBT)により、GADの症状を著しく軽減することができ21、選択的セロトニン再取り込み阻害薬又はセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬が第一選択薬として推奨されています19-22。ある大規模なメタ分析 によると(試験概要は概要c参照)、GAD治療の効果量は、精神療法を単独で用いるよりも薬物療法を単独で用いる方が大きいことがわかっていますが、CBTと薬物療法の併用で最大の効果を発揮することが認められました23。しかしながら、GAD患者の3分の1ほどで病状が適切に管理されていないということです19。治療計画は、疾患の重症度、アクセシビリティ、費用、忍容性及び安全性を考慮して作成する必要があります19。また、重要なこととして、上記のメタ解析の結論の一つとしては、患者が薬物療法と精神療法のどちらを希望しているかが、考慮すべき重要な要素であるということです23,*b。
ガイドラインでは、GADの治療として精神療法(CBT)や薬物療法、又は両者の併用を推奨している
運動もまたGADの重要な治療法となる可能性があります。最近実施された30日間研究で、PSWQで評価した不安症状が運動トレーニングを受けた人において大幅に減少し、さらに、高強度トレーニングを受けた人は低強度トレーニングに比べ、より顕著に減少したことが示されています24,*c。同様に、メタ分析では運動によって不安症状の軽減にわずかながら有意な効果が認められました(n=13、標準平均差 [standard mean difference] (95%CI) =-0.425(-0.67--0.17)、p=0.001; I2=47.9%)。但し、このコホートには様々な不安障害及び関連障害が含まれていました25。
※本セクションでは、国内未承認用量・未承認薬が含まれます。承認情報の詳細および薬剤の使用にあたっては、本邦における各薬剤の添付文書情報を参照ください。
注釈
*a
過去12ヶ月間に4回以上プライマリケア医を受診する患者の割合(%):コントロール=56.2%、n=16,023;GAD=67.8%、n=666、オッズ比 (95% CI) =1.6 (1.4 to 2.0);GAD/MDD併存 = 73.0%、n = 278、オッズ比 (95% CI) = 2.1 (1.6 to 2.8)。
*b
Cohen's d (95% CI): 個人CBT = 1.81 (1.47-2.15), group グループCBT = 1.63 (0.97-2.28), 薬 = 1.56 (0.78-2.33) - 4.17 (3.15-5.19), CBT + 薬の組み合わせ = 6.04 (3.71-8.37)。
*c
ANOVA分析では、PSWQ-Dスコアについて、有意な時間*グループ (time*group interaction) 相互作用(F(1,31) = 5.90, p = .02, ηp2 = .17)が見られ、低強度トレーニンググループに比べ、高強度トレーニンググループではベースラインからトレーニング後までは大きく減少し大きな効果サイズがあることが示された。
各グループのスコア:
ドイツの不安障害患者(n=33);PSWQ-PWスコア(95% CI)、Cohen's d:
高強度トレーニング - ベースライン= 56.94 (49.36-64.92);12日後=44.50 (34.31-55.89)、p<0.05、d = 0.65;30日フォローアップ= 38.70 (29.74-49.74)、p<0.01、d=0.97;低強度トレーニング - ベースライン= 60.69 (51.37-70.00)、12日後=53.15(40.40-65.90)、d=0.36;30日フォローアップ=51.11(39.98-62.23)、d=0.50。
概要a
気分障害と不安障害の併存性に関する論文(n=171;1980-2017)のメタアナリシスで、以下の基準で分類:(a) 広義、または狭義の診断基準、(b) 研究期間、(c)共変量調整あり/なしでの推定値。統計解析:Q-statistic、I2定量法。
概要b
27カ国145,990人の成人回答者を対象としたWHO World Mental Health(WMH、WHO世界精神保健)調査の評価に基づき、一般的な精神障害(DSM-IV精神障害24種)の生涯併存性のペア別(548障害ペア)の調査による包括的分析を実施。HRおよび95%CIは、Cox比例ハザードモデルを用いて算出、絶対リスクは積限界法(product-limit method)を用いて推定。
概要c
パニック障害、全般性不安障害、社会恐怖症の3つの不安障害に対する薬物療法、心理療法、併用療法の有効性のメタ解析。37333人の患者を対象とした、ランダム化比較試験(n=234)において、治療前と治療後の群対対照群の効果量を算出。
Cohen's d (95% CI): 個人CBT = 1.81 (1.47-2.15)、グループCBT = 1.63。
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