中高齢期発症の気分障害は認知症の前駆状態である可能性

新たなポジトロン断層撮影(PET)イメージング薬剤を用いて40歳以降にうつ病または双極性障害を発症した患者の脳と健常者の脳を検査して比較した研究により、中高齢期発症の気分障害は認知症の前駆状態である可能性のあることが明らかになった。国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)量子生命・医学部門 量子医科学研究所 脳機能イメージングセンターの黒瀬心氏らによるこの研究の詳細は、「Alzheimer's & Dementia」に2025年6月9日掲載された1

中高齢期に発症するうつ病や双極性障害(双極症)などの気分障害(late-life mood disorders;LLMD)は、アルツハイマー病などの神経変性性認知症の前駆状態である可能性が示唆されている2-4。しかし、LLMDの発症にどのような神経病理学的背景があるのかは、いまだ明らかになっていない。

黒瀬氏らは今回、40歳以降に気分障害(双極症Ⅰ型およびⅡ型、うつ病)を発症し、発症時点で認知機能障害や神経疾患のなかった52人と、年齢・性別をマッチさせた健常者47人を対象に、QSTが開発したPETイメージング薬剤である11C-PiB(11C-Pittsburgh compound B)と18F-florzolotauを用いたPET検査を実施し、それぞれアミロイドβ(Aβ)とタウの蓄積状態を評価して比較した。

PET検査で灰白質においてタウ陽性と判定されたのはLLMD患者で50.0%、健常者で14.8%、Aβ陽性と判定されたのは、それぞれ28.8%と2.1%であった。ロジスティック回帰分析の結果、LLMD患者の灰白質では、健常者に比べてタウPETおよびAβ PETが陽性である確率が有意に高く、オッズ比はタウで4.8(95%信頼区間1.6-15.0、P=0.007)、Aβで11.0(同1.2-97.5、P=0.031)であった。タウ病変の分布を評価したところ、LLMD患者では、Aβ陽性・陰性にかかわりなくタウの蓄積パターンが多様であり、特に前頭葉での分布が優位であることが示された。

さらに、国立精神・神経医療研究センター(NCNP)のブレインバンクに保存されている、神経変性疾患および神経筋疾患の208症例の剖検データを用いて、40歳以降に躁病またはうつ病を発症した21症例を特定し、気分障害を発症しなかった170症例との間で、神経病理学的な所見を比較した。その結果、気分障害発症例においては非発症例と比較して、タウ病変を有する割合が有意に高かった(57.1%対28.2%、χ²=6.0〔自由度1〕、P=0.015)。

著者らは、「今回、うつ病だけでなく双極症においても、アルツハイマー病関連のタウ病変や、それ以外の多様なタウ病変が関与していることが、in vivoでのPET検査を通じて明らかとなった。この結果は、神経変性疾患を中心とする剖検コホートでも確認された。われわれが用いたPETイメージング薬剤により検出されるタウ病変は、タウを標的とした診断・治療のバイオマーカーとして有用である可能性がある」と結論付けている。(編集協力HealthDay)

 

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参考文献

  1. Kurose S, et al. Alzheimer's & Dementia. Publisher online June 09, 2025, 2025. doi: 10.1002/alz.70195
  2. Singh-Manoux A,et al. JAMA Psychiatry. 2022; 79(5): 464-474.
  3. Wen J, et al. JAMA Psychiatry. 2022; 79(5): 464-474.
  4. Mendez MF, et al. J Neuropsychiatry Clin Neurosci. 2020; 32(4): 376-384.