トランスジェンダーに対するケアの標準を定めたガイドラインを改訂

トランスジェンダーやジェンダーの多様性を持つ人々に対するケアの標準を定めた最新ガイドラインの概説が、「Journal of the American Medical Association(JAMA)」に2023年5月18日掲載された1。世界トランスジェンダー・ヘルス専門家協会(World Professional Association for Transgender Health;WPATH)が10年ぶりに改訂したもので、米ノースカロライナ大学チャペルヒル校のTonia Poteatらが解説した。

WPATHは2022年9月、「トランスジェンダーおよびジェンダー多様性を持つ人々の健康に対するケア標準」を10年ぶりに更新し、最新版となる第8版2を発行した。このガイドラインでは、トランスジェンダーおよびジェンダー多様性を持つ人々に対するプライマリケア、アセスメント、メンタルヘルス、薬物治療、外科治療についてまとめている。

Poteatらによると、このガイドラインは、成人患者がジェンダー肯定のための内科的・外科的医療(gender-affirming medical and/or surgical treatments;GAMST)を希望する場合、提供するために必要な条件として以下を挙げている。(1)出生時に割り当てられた性と現在の性との間に顕著かつ持続的な違いがある、(2)インフォームドコンセントの能力がある、(3)GAMSTによって影響を受けるかもしれない身体と精神の健康状態が評価されている、(4)生殖への影響と選択肢が議論されている、の4つである。一方、小児期・思春期の患者には、発達段階や神経認知機能、言語能力を考慮した多方面からの対応が必要であり、メンタルヘルス支援を提供し、社会的移行のリスクとベネフィットについて議論するよう推奨しているという。また、小児期・思春期の患者のほぼ全例において、GAMSTには親または保護者の関与が必要になるとしている。

心理療法やカウンセリングについては、トランスジェンダーおよびジェンダー多様性を持つ患者にとって有用なこともあるが、GAMST施行前の要件にはならないとした。性自認や性表現を変更する治療については、自殺リスク上昇に関連しており、トランスジェンダーおよびジェンダー多様性を持つ患者に提供すべきではないとした。

同ガイドラインは根拠となるエビデンスとして、2021年の厳密なシステマティックレビューを挙げ3、ジェンダー肯定ホルモン療法は生活の質の向上、抑うつの軽減、不安の軽減に関連することが認められているとした。逆に、性自認を変更する、いわゆる「転向療法」は有害であり、トランスジェンダーおよびジェンダー多様性を持つ人々がこうした治療と関わった場合、そうでない場合と比較して自殺企図のオッズが2倍となり(調整OR  2.27、95%CI 1.60-3.24、P<0.001)、特に10歳前に関わった成人ではオッズが4倍となることも説明した(調整OR 4.15、95%CI 2.44-7.69、P< 0.001)。

Poteatらは「同ガイドラインの第8版は深度も視野も拡大しており、これは過去10年間におけるトランスジェンダーおよびジェンダー多様性の健康にまつわる研究が増えていることを反映したものだ。ホルモンと手術という単一の視点ではなく、プライマリ ケア、性と生殖の健康、メンタルヘルス、声、コミュニケーション療法、さらには文化的認識や人権に関する推奨事項にも言及している」とまとめている。(編集協力HealthDay)

参考文献

  1. Poteat T, et al. JAMA. 2023 May 18. doi: 10.1001/jama.2023.8121.
  2. Coleman E, et al. Int J Transgend Health. 2022 Sep 6;23(Suppl 1):S1-S259. doi: 10.1080/26895269.2022.2100644.
  3. Baker KE, et al. J Endocr Soc. 2021 Feb 2;5(4):bvab011. doi: 10.1210/jendso/bvab011.