うつ病鑑別に定量的な診断情報をもたらす光トポグラフィー検査の役割と展望

うつ病患者における双極性障害および統合失調症との鑑別診断の補助を目的として、光トポグラフィー検査が2014年に保険適用となりました。

光トポグラフィー検査の精神疾患への適用

精神疾患の診断の基本は問診に基づく臨床症状と経過の評価であるため、しばしば客観性の確保が難しいという課題に直面します1。とりわけうつ病、双極性障害および統合失調症は、いずれも初期にうつ状態を呈することが多く、正確な鑑別診断が困難なケースに遭遇することがあります。そうしたなか、近赤外線スペクトロスコピー(near-infrared spectroscopy: NIRS)を原理とした、脳活動状態の変化を定量的・客観的に測定する光トポグラフィー検査が関心を集め、精神疾患鑑別に寄与する可能性が検討されてきました。その結果、光トポグラフィー検査は2009年に「うつ症状の鑑別診断補助」を目的とした先進医療として認められたのち、2014年に「抑うつ状態の鑑別診断の補助」を目的として保険収載され、精神疾患の診断に用いられる定量的な臨床検査として初めて保険適用されました。現在の保険適用の対象は、以下の条件を満たす患者です。

光トポグラフィー検査(保険診療)の対象患者

  • 抑うつ状態を呈してうつ病と臨床診断されていること
  • 抑うつ状態が認知症を含む脳器質疾患に起因するものでないこと
  • 治療抵抗性で、統合失調症・双極性障害が疑われる症状を呈していること

 

光トポグラフィー検査の原理と実際

光トポグラフィー検査では、認知課題遂行中の被検者に対し、波長700~900 nmの近赤外光を頭皮の上から照射することにより、脳の活動状態の指標となる脳内ヘモグロビン濃度変化を非侵襲的に測定します2。測定時の認知課題としては、言語流暢性課題(verbal fluency task: VFT)が頻用されています3。前頭葉や側頭葉における脳活動状態の変化を経時的に解析し、課題に対する脳の賦活化様式について、各精神疾患に特徴的なパターンが認められるかどうかを判別することにより、鑑別の診断補助を行います。

各疾患におけるVFT遂行中の脳の賦活化様式の特徴については、うつ病患者をそれぞれ健常者、双極性障害患者、統合失調症患者と比較した報告があります。健常者と比較したうつ病患者では、うつ状態、寛解状態のいずれの場合も、課題遂行中一貫して賦活反応性の低下を示すことが示唆されました4。双極性障害患者とうつ病患者の比較では、課題前半は両患者とも低い賦活反応性を示すものの、後半、双極性障害患者の賦活反応性が上昇することが示唆されました5。また、 統合失調症患者ではうつ病患者に比べて、課題初期に賦活反応性の低下を示すことに加えて、課題終了後に前頭部領域の賦活反応性が再再上昇することが示唆されました6

光トポグラフィー検査は非侵襲的な方法で、うつ病鑑別に有用な定量的診断情報を提供可能です。さらには、臨床検査という客観的情報の提示が患者の治療意欲に結びつくこともあると期待されています

 

光トポグラフィー検査の有用性と課題

光トポグラフィー検査の鑑別診断能については、国内7施設が参加した多施設共同研究により、DSM-4に基づいて診断確定したうつ病患者74人、双極性障害患者45人、統合失調症患者66人を対象とした検討が行われています7。全例をVFT中の賦活反応性のタイミングを表す指標(重心値)により疾患鑑別した結果、確定診断結果と一致した割合は、うつ病患者の74.6%,双極性障害患者および統合失調症患者の85.5%でした。さらなる精度向上が望まれる結果ではあったものの、うつ症状を有する患者に対する光トポグラフィー検査は、双極性障害もしくは統合失調症とうつ病との鑑別に対し、一定の有用な診断情報を提供しうることが示唆されました。

光トポグラフィー検査の臨床的意義としては、診断補助という役割だけでなく、患者の主体的な治療参加を促すという側面もあると考えられます。高血圧患者や糖尿病患者に対し、血圧や血糖値といった客観的な検査データ提示が診療方針の理解度や治療意欲の向上に結び付く場合があります。うつ病治療の現場でも、光トポグラフィー検査による客観的な定量データを患者に提示すること自体が、治療の助けとなる可能性があると考えられます3

一方で、光トポグラフィー検査の臨床導入に対して、いくつかの課題も指摘されています3。一つは検査の測定原理に関して、NIRSによる脳内ヘモグロビン濃度の測定精度は、筋肉や皮膚の血流の影響で低下する可能性が指摘されています。実際、NIRSの測定データについて、局所脳血流の酸素化の程度に基づく脳活動の一般的な測定指標である、fMRIのBOLD信号との単純な相関は弱かったことが報告されています8,9,10。最近の研究では、近赤外光照射部位の違いが測定精度に影響する可能性を検討するため、課題遂行中にNIRSとfMRIによる同時測定を行い、fMRIのBOLD信号との関連を、機械学習による精緻な解析を用いて前頭・側頭部の広い範囲でのチャンネル間で比較しました11。その結果、前頭部皮質においては、脳活動を高い精度で評価可能であることが検証され、NIRSの使用に際しては近赤外光照射部位を適切に選択することが重要であることが示唆されました。
また、疾患診断に対する光トポグラフィー検査の結果の適正な活用についても、懸念が指摘されています。2016年に日本うつ病学会が「十分な臨床評価が行われないままに、光トポグラフィー検査のみに基づいて、双極性障害あるいはうつ病と診断名を告知されているケースが見られる」という注意喚起の声明を出しました12。うつ病の確定診断の基本は問診と現症と病歴であり、ICD-10やDSM-5等に従って行うことが原則であるとされています。光トポグラフィー検査の位置づけは、診断における判断材料の一つである、という点に留意が必要です。実際、加藤氏らの報告では、他施設で光トポグラフィー検査あるいは臨床診断により双極性障害と診断された患者を加藤氏らが問診により診断したところ、光トポグラフィー検査により診断された患者の方が、診断結果の一致率が低いことが示唆されました13

 

光トポグラフィー検査のさらなる精度向上を目指して

光トポグラフィー検査では従来、測定中の遂行課題としてVFTをはじめとした認知課題が主に用いられてきました。しかし近年、感情刺激課題の1種であるストループ課題を用いた検討のほか、日常生活に近い条件下での脳機能をより正確に抽出することを目的に、face-to-faceの会話課題を用いた検討も行われています。こうした検討によって、より精度の高い診断情報の提供を可能にする光トポグラフィー検査への発展が期待されています10

 

監修者:国立精神・神経医療研究センター 名誉理事長・一般社団法人日本うつ病センター 名誉理事長 樋口輝彦先生

参考文献
  1. 中医協総-2. 21.3.25 先進医療専門家会議における第2項先進医療の科学的評価結果
  2. 杉村有司, 竹内豊, 齊藤友里香. 医学検査 Vol.66 No.J-STAGE-2 認知症予防のための検査特集. 2017
  3. 福田正人. 精神径誌. 2015; 117: 79-93.
  4. Zhang H et al. Psychiatry Clin Neurosci. 2015; 69(1): 22-33.
  5. Kameyama M et al. Neuroimage. 2006; 29(1): 172-84.
  6. Kinou M et al. Schizophr Res. 2013; 150(2-3): 459-67.
  7. Takizawa R et al. Neuroimage. 2014; 85 Pt 1: 498-507.
  8. Cui X et al. NeuroImage. 2011; 54: 2808–2821.
  9. Sasai S et al. NeuroImage. 2012; 63: 179-193.
  10. Sato H et al. NeuroImage. 2013: 83; 158-173.
  11. Moriguchi Y et al. Human Brain Mapping. 2017; 38: 5274-5291.
  12. 日本うつ病学会. 双極性障害およびうつ病の診断における光トポグラフィー検査の意義についての声明https://www.secretariat.ne.jp/jsmd/toppdf/nirs_statement.pdf (2020年6月確認)
  13. Kato T et al. Psychiatry and Clinical Neurosciences. 2017; 71: 843-844.
  14. 里村嘉弘, ほか. 日本生物学的精神医学会誌. 2017; 28: 185-189.
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