うつ病を評価する
うつ病には継続的な評価が不可欠である
うつ病において真の持続的な機能回復(functional recovery)を達成するためには、診断時から治療中、治療後にわたり、一連の症状をすべてモニタリングすることが重要です1, 2。うつ病の症状の評価と定量に役立つ、利用可能なツールが多数存在します。医療従事者が実施するものは「医師評価型」として知られる一方、患者自身が記入するものは「患者評価型」と呼ばれます。
名称は? | 何を評価するのか? |
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モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度 (MADRS)[3,4,5] | 10項目のツールとして抗うつ薬の有効性を評価 |
ハミルトンうつ病評価尺度 (HAM-D または HRSD)[5,6] | 17項目のツールとして症状の重症度を評価 |
名称は? | 何を評価するのか? |
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Patient health questionnaire 9 (PHQ-9)[7,8] | DSM-5の9項目それぞれにおけるうつ病の重症度 |
ツァンうつ性自己評価尺度 (ZUNG SDS)[5,9,10] | うつ病の心理、感情、認知、行動及び身体の側面 |
自己記入式簡易抑うつ症状尺度 (QIDS-SR)[5,10,11] | うつ病の主要な9症状の重症度 |
ベックうつ病尺度(BDI)[5] | 21項目のツールとしてうつ病の症状の重症度を評価 |
シーハン障害尺度 (SDS)[12,13] | 過去1ヵ月間の機能障害及び機能の向上 |
医師評価型のうつ病の評価
うつ病を定量的に評価するために開発された初期の尺度のうちの2つが、モンゴメリー・アスベルグうつ病評価尺度(MADRS)とハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D又はHRSD)です3,6。これらの評価法は、それぞれ35年以上および50年以上使用されていて、うつ病患者の完全な症状プロファイルを評価することを目的としており、疾患ドメインに特化した検査とも併用されます3,6。
MADRSとHAM-Dは共にうつ病の臨床試験において、症状の重症度の、治療に伴う変化を評価するための基準として用いられています5。
MADRS:抗うつ薬の有効性に感受性のある10項目の尺度3,5。構成要素である10の質問により、外見に表れる悲しみ、言葉で表現される悲しみ、緊張感、睡眠減少、食欲低下、集中の困難、倦怠感、無感動、悲観的な思考及び自殺念慮がそれぞれ評価されます3。各要素は患者により0(全くなし)~6(極めて重度)の尺度により評価され、最高スコアは60となります。患者の総スコアによって示される疾患の重症度は以下の通りです5。
- 0~10:寛解
- 11~29:軽度~中等度のうつ病
- 30~60:重度のうつ病
HAM-D又はHRSD:この17項目の尺度は、うつ病のために開発された最も初期の尺度の1つです5。HAM-Dでは、抑うつ気分、不適切な罪責感、自殺、不眠、仕事と余暇、精神遅滞、激越、不安、心気症、病識、体重減少及び身体症状のそれぞれの症状の重症度について、患者が評点を付けたスコアに従って評価します6。
質問17項目中9項目は0(なし)~4(重度)の5ポイントの尺度、8項目は0(なし)~2(明らかにあり)の3ポイントの尺度により評点を付けます6。最高スコアは54で、以下の通り高スコアほど症状の重症度が高度であることを示します14。
- 0~7:正常
- 8~16:軽度のうつ病
- 17~23:中等度のうつ病
- 24以上:重度のうつ病
患者評価型のうつ病の評価
患者評価型のうつ病の評価も数多く使用されています。これらの評価によってうつ病の状態に関する主観的な報告が可能となり、患者のうつ病エピソードの体験について理解を深めることができます。以下に概説する尺度は、最も高頻度に使用される患者評価型の評価法です。ただし、これは完全なリストではなく、世界中でその他の多くの尺度が使用されていることに注意することが重要です。
PHQ-9:DSM-5のうつ病の基準の9項目それぞれに、0(全くなし)~3(ほぼ毎日)の評点が付けられます。この質問票は、この基準に基づいてうつ病を診断する際に役立つ可能性があり、うつ病の重症度を評価するために使用されます7。PHQ-9の最高スコアは27であり、以下のように解釈されます8。
- 4以下:軽微なうつ病
- 5~9:軽度のうつ病
- 10~14:中等度のうつ病
- 15~19:重度に近いうつ病
- 20~27:重度のうつ病
ZUNG SDS:うつ病の心理、感情、認知、行動及び身体的側面を含む一連の症状を網羅する、20項目の自記式指標5。患者は個々の項目を、症状の発生頻度に従って1(めったにない/まれ)から4(ほとんどの時間/いつも)の尺度で評価します9。この評価の最高スコアは80であり、解釈の区分は以下の通りです10,11。
- 49以下:正常
- 50~59:軽微~軽度のうつ病
- 60~69:中等度~重度のうつ病
- 70以上:重度のうつ病
QIDS-SR:HAM-Dの限界に対処するために開発されました。特に注目すべき限界は、DSMガイドラインで定義されている症状のドメイン全てが評価されないこと、異なる症状ドメインの重みづけが同等でないこと、尺度の各項目の症状の基準が明確にわかりやすく定義されていないことです11。
これはうつ病の症状の重症度に関する16項目から成る自記式尺度であり、うつ病の主要な9症状である不眠/過眠、気分の落ち込み、食欲/体重の変化、自己認識の障害、集中の困難、興味/喜びの喪失、自殺念慮、精神運動性激越及び疲労が評価されます11。QIDS-SRは認知機能専用の評価ではありませんが、このツールにより、患者が経験している可能性のあるあらゆる認知機能の困難について理解を深めることができます。総スコアの最高点は27であり、スコア判定の解釈は以下の通りです10,11。
- 5以下:うつ病ではない
- 6~10:軽度のうつ病
- 11~15:中等度のうつ病
- 16~20:重度のうつ病
- 21~27:極めて重度のうつ病
BDI:評価時点におけるうつ病の症状の重症度を評価します5。BDIには21項目が含まれ、それぞれが、DSM基準により定義される、大うつ病に伴う異なる症状ドメインに焦点を当てています。各項目は0~3の番号が振られた4つの記述から成り、患者は自分の経験と最も密接な関連のある記述を選択します。BDIでは、悲しみ、罪責感、自殺傾向、易刺激性、食欲障害及び疲労といったうつ病の古典的な情動症状や身体症状のみならず、決定、注意力及び動機づけのドメインの認知症状も評価されます5,15。BDIの最高スコアは63であり、スコア判定の解釈のカテゴリーは以下の通りです10,15。
- 9以下:軽微なうつ病
- 10~16:軽度のうつ病
- 17~29:中等度のうつ病
- 30以上:重度のうつ病
機能の評価
症状の重症度や治療成功の直接的な指標ではありませんが、うつ病が社会機能に及ぼす影響の評価によって、患者の現在の状態や状態推移への新たな洞察が得られる可能性があります。機能障害が、情動症状や認知症状の存在や重症度を示唆し、それを評価することにつながる可能性があるため、機能障害の評価は最初の診断の段階では特に有用であると考えられます12。
シーハン障害尺度(SDS):過去1ヵ月間の機能障害と機能の向上を評価するための3つの質問から成る自記式ツール。それぞれの質問は0から10のスケールで評価され、スコアは以下のように解釈されます13。
- 0:障害なし
- 1~3:軽度の障害
- 4~6:中等度の障害
- 7~9:高度の障害
- 10:著しい障害