世界人口の約半数は75歳までに何らかの精神障害を経験、29カ国の横断分析

世界人口の約3割は、何らかの精神障害を調査時点までに経験しており、また約半数は一生のうちいつかは経験することが、29カ国の最新の横断分析により示された。クイーンズランド精神衛生研究センター(オーストラリア)のJohn J McGrathらによる研究結果で、「The Lancet Psychiatry」2023年9月号に掲載された1

世界人口の約3割は、何らかの精神障害を調査時点までに経験しており、また約半数は一生のうちいつかは経験することが、29カ国の最新の横断分析により示された。クイーンズランド精神衛生研究センター(オーストラリア)のJohn J McGrathらによる研究結果で、「The Lancet Psychiatry」2023年9月号に掲載された1

一般集団における精神障害の発症年齢や生涯有病率(lifetime prevalence;調査時点までの生涯に罹患した割合)、累積罹患率(lifetime morbid risk;一生のうちに罹患した割合)は、公衆衛生対策のために重要である。しかし、国をまたいだ推定値は2007年以降更新されていなかった。そこで本研究では最新の推定値を提供するために、2001~2022年に29カ国で32回実施された世界精神保健調査(World Mental Health Survey;WMH調査)のデータを分析した。

WMH調査は18歳以上を対象とした横断的な対面式地域疫学調査であり、完全構造化された精神科診断面接であるWHO統合国際診断面接(CIDI)を用いて、13種類の精神障害の診断歴と発症年齢を評価したものであった。対象とした精神障害は、パニック障害または広場恐怖症、全般性不安障害、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、社交不安障害、特定恐怖症、大うつ病性障害、双極性障害、アルコール乱用障害、アルコール依存症、薬物乱用障害、薬物依存症、注意欠如多動性障害(ADHD)、間歇性爆発性障害で、DSM-IVまたはDSM-5に基づいて判定された。

各調査データは地理的な観点からクラスターサンプリングされ、また選択確率の調整のために重み付けされていた。これらを考慮した上で、罹患率の標準誤差を算出し、累積罹患率曲線を描くために、ジャックナイフ反復複製シミュレーション法を使用した。

低・中所得国12カ国および高所得国17カ国で実施された計32回のWMH調査を統合した結果、回答者156,331人(女性54.5%、男性45.4%)が解析対象に含まれた。何らかの精神障害の生涯有病率(95%信頼区間)は、男性では28.6(27.9-29.2)%、女性では29.8(29.2-30.3)%であった。何らかの不安障害の生涯有病率(同)は男性11.3(10.9-11.7)%、女性18.8(18.3-19.2)%であり、何らかの気分障害については男性9.5(9.2-9.7)%、女性15.4(15.1-15.7)%であった。

75歳時点における何らかの精神障害の累積罹患率(同)は、男性で46.4(44.9-47.8)%、女性で53.1(51.9-54.3)%に達すると推定された。男性では、累積罹患率(同)が特に高かったのはアルコール乱用障害21.6(20.6-22.7)%、大うつ病性障害20.1(19.2-20.9)%、薬物乱用障害7.9(7.2-8.7)%であり、女性では、大うつ病性障害34.0(33.2-34.9)%、PTSD 12.6(11.7-13.5)%、全般性不安障害12.5(11.8-13.2)%であった。

何らかの精神障害を初回発症する可能性は、15歳でピークに達していた。15歳時点において、男性の回答者1万人当たりの初回発症率(同)は288.0(263.7-312.3)人であり、女性の228.2(211.8-244.6)人よりも高かった。一方、累積罹患率曲線は一生を通じて女性の方が高く、発症年齢の中央値(四分位範囲)は男性で19(14-32)歳、女性で20(12-36)歳であった。さらに、生涯有病率に対する累積罹患率の比も算出した。この比は若年で発症するほど低値になると考えられ、分析の結果、多くの精神障害は若年で発症しやすいことが示された。男性では、ADHD、社交不安障害、特定恐怖症が特に若年で発症しやすく、大うつ病性障害は最も幅広い年齢で発症していた。女性では、ADHD、社会不安障害、特定恐怖症が若年で発症しやすく、双極性障害は最も幅広い年齢で発症していた。

著者らは、「75歳までに約半数の人が、今回対象とした13種類の精神障害のうち1つ以上を発症すると推定された。これらの精神障害が現れるのは、典型的には小児期・思春期・若年成人期である。これらの精神障害は普遍的であり、迅速に発見・治療すべきであり、同時にこのような人生の重要な時期にある患者に適したケアも提供すべきである」と結論付けている。(編集協力HealthDay)

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参考文献

  1. McGrath JJ, et al. Lancet Psychiatry 2023 Sep;10(9): 668-681