パーソナルリカバリー リレーインタビューVol.1 当事者(後編)

うつ病当事者を経験し、現在はうつ病の方々の支援活動を行っているお二人に、うつ病当事者の立場から感じるパーソナルリカバリーに対する思い、今後の医療者と当事者との関わり方などについて語っていただきました。

小林 宣文 さん
(メンタルヘルス支援団体Re 代表)

ゆま さん
(自助グループReOPA 代表)

(50音順)

―ご自身の経験から、パーソナルリカバリーについて、どのようにお感じになりますか?

ゆま リカバリーというと“回復”と訳されて、”うつ病になる前に戻る”というイメージがあると思うのですが、私は、リカバリーとは新しい生き方を見つける“再構築”だと思っています。無理していた自分をなかなか認められなかったのが、あるとき、「やはり、この自分で生きるしかないのだ」と思うのでしょうね。使い古された言葉ですが「生きているだけで価値がある」に近いことを自分に言い聞かせていた感じです。

小林 元に戻るというよりも“新しい道を見つける”という感じですね。私はうつ病により会社の代表を辞め、何もかも失ったと絶望しました。ところが、ありがたいことに、励ましのメッセージをいただいたり、わがままを聞いてくれる友人がいたりして、全部無くしたわけではないと気が付きました。うつ病で社会とのつながりがなくなったと思い込んでいましたが、「ああ、私は、今の私のままでいいんだ」と受け入れることができたように思います。

リカバリーという点で、私の経験で一番印象的だったのは、メンタルスキルを学んでいたときのリワークの先生の言葉でした。「これまで、小林さんは自分の回復について質問することが多かった。しかし今は”メンタルスキルなどを学んで他の人が良くなる方法を考えている”と興味が外に向いているとわかる質問を多く投げ掛けるようになってきて、“この人は回復してきたな”と思った」という一言が、自分が変わったきっかけ、すなわちトリガーだったのではないかと思っています。

「当事者が自分の弱さを口に出せたときが、回復への第一歩になるのではと感じています」(ゆまさん)

 

ゆま 私の場合は当事者会への参加も大きなきっかけとなりました。それまでは自分の悩みを口に出してはいけないものだと思い込んでいましたが、当事者会で皆さんが自分の弱さを話しているのを見て「弱くてもいいんだ」と思えたことが、自己受容への大きな足掛かりになりました。とはいえ、自己受容できるまでにはかなり時間が必要でしたが、「ああ、今までは無理していたんだ。私の力では、そういう生き方は無理だった」と認められるようになったとき、「じゃあ、これからはどう生きようか」と考えられるようになりました。

このような経験から、うつ病のパーソナルリカバリーに関しては、自己受容とアウトプットが治療のターニングポイントではないかと思っています。うまく言語化できなくてもよいので、とにかく当事者が「自分は苦しい、しんどいんだ」という気持ちを言葉にして表に出す(アウトプットする)と「自分は何が苦しいのか」が実体化し、自分で気づきやすいという利点もあります。アウトプットができたことは本人の中で大きな変化があった証拠で、回復への第一歩を踏み出したと言え、治療のスピードが乗ってくるイメージがあります。

小林 自分のダメな部分を見つめることは大きなダメージにつながります。自己受容をするには、そこそこHP(Hit Point)やLP(Life Point)が必要で、症状がひどい急性期には見つめ直している余裕はありません。まず先に回復があり、元気になってから自分の振り返り(自己受容)を行う方がよいでしょう。その点は医師からも助言があるとよいと思います。“先が見えない不安”にもつながりますが、「まだ早い」と言うだけでなく、「5分だけ考えてみて、まだつらいようであれば、今はその時期ではない」といった、具体的な基準値を示してもらえると、当事者本人も納得して”その時期”を待つことができるのではないでしょうか。

―うつ病当事者のパーソナルリカバリーを実現させるために、どのようなことを望まれますか。

ゆま 今申し上げたように、多くの当事者は、すでに自分の苦しみの中からトライ&エラーを繰り返しながらリカバリーのプロセスを歩んでいます。それは医療者などから教えられたものではなく、自らが自然に見出したものです。その点を理解した上で、医療者は「パーソナルリカバリー」という言葉を用いていただきたいです。

「パーソナルリカバリーの実現には、医療者と当事者との信頼関係が必要不可欠です」(小林 宣文 さん)

 

小林  言葉がひとり歩きして、トレンドワードのような扱いにならないでほしいと思います。うつ病治療におけるパーソナルリカバリーとは医療者と当事者との信頼関係によって成り立つプロセスと考えられるので、信頼関係がない中で、いきなりパーソナルリカバリーを持ち出されても、当事者は戸惑ってしまうのではないでしょうか。治療過程で医療者と当事者が非常に密に関わってきて、 “こんなふうになりたい”“こういう生き方をしたい”といった会話を重ねてきた。そういう関係性ができている中で、リカバリープランを両者で構築していくというのは非常に意義のあることだと思います。

ゆま さまざまな機会に、先生方と「精神科疾患の治療におけるゴールとは何か」ということを議論させていただくことがあります。治療的なゴールとしては症状をなくすことが最適解なのかもしれませんが、当事者が求めているものから考えると、その治療的なゴールが当事者の人生を良くするものとは限りません。治療を行うにあたって、ぜひ当事者がどう生きたいかという視点に立ってほしいと思います。当事者にはそれぞれの人生があるので、完全に症状をなくしたい、薬を飲みながらでも社会生活を何とか送りたい、家事ができるようになりたい、多少の副作用が出てもこの症状を抑えたいなど、その人によって希望は異なります。一方、当事者側も、自身が人生をつくっていくのだという意識が希薄な場合があるので、自分の希望を医師に伝えてもよいということをもっと知っていただきたいですね。

小林  とはいえ、当事者が治療で焦っているときなど、治療について冷静に話し合いをすることが難しい場面もあるので、そういった場合は客観的な視点を持った支援者がいるとよいですね。私も当事者支援を行うときは、当事者と医療者を取り持つ役割を意識しています。

ゆま そのようなサポートは絶対に必要ですし、支援体制はまだまだ足りないと感じています。パーソナルリカバリーを考慮すると、どんなことでもリカバリーにつながりうるため、さまざまな職種の方が関わっていただきたいと思います。医師だけではなく看護師や臨床心理士、精神保健福祉士など、他の専門家との連携を強めていただくことを期待します

最近では、学会やガイドライン作成において当事者の意見を取り入れていただく機会も増えてきました。今後も当事者とともに医療者とどのように付き合っていくかを一緒に考えていきたいと思います。

小林 パーソナルリカバリーを深化させていくためにも、お互いに対等な人と人としてのコミュニケーションを構築できる関係を築きたいですね。

(了)

<プロフィール>

小林 宣文 さん  メンタルヘルス支援団体Re 代表
メンタルヘルスのバイオベンチャー、株式会社RESVO/元CEO。在任中にうつ病を発症し、2020年2月に退任。学生時代から14年間ほど精神疾患の患者支援に携わり、このとき初めて当事者を経験する。2021年12月に挑戦する人のメンタルヘルスを支援するReを創業、事業を開始した。

ゆま さん 自助グループReOPA 代表
社会人2年目のころにうつ病を発症。回復への途上で自助グループと出会い、助けられたことから、2012年にReOPAの前身団体「東京うつ病友の会」を立ち上げる。2018年には、新たにReOPAを設立。ReOPAでは「こころトーク」という当事者の集まりを開催している。

 

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2023年9月5日
取材場所:ルンドベック・ジャパン(東京都港区)

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