気分障害患者では言語記憶障害が精神科入院リスクを高める

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

気分障害患者における言語記憶障害は、将来的な精神科入院のリスクを高めるという研究結果が、「eClinicalMedicine」2023年3月24日号に掲載された1

コペンハーゲン大学病院Rigshospitale(デンマーク)のAnjali Sankarらは、神経認知機能が精神科入院と社会人口統計学的な状態(雇用や結婚など)に及ぼす影響について、これまでで最大規模の縦断的研究を実施した。対象者は、2009年から2020年の間に、7つの臨床研究(うち6つは介入研究)のいずれかへの参加者から集めた気分障害患者518人(17~65歳、平均年齢±SD 35.0±10.6歳、女性65%)で、内訳は、双極性障害(BP)患者が438人(年齢17~65歳、平均年齢±SD 34.1±10.0歳、女性65%)、大うつ病性障害(MDD)患者が80人(年齢19~65歳、平均年齢±SD 40.1±12.3歳、女性67.5%)であった。言語記憶と実行機能は、それぞれ、研究へ登録された日に数種類の神経認知機能試験を行い、その試験ごとに、性・年齢を一致させた正常者の平均値と標準偏差に基づいてZスコアを算出した。各対象者における各試験のZスコアを平均したものを、各対象者の言語記憶と実行機能それぞれのZスコアとし、Zスコアが−1以下の場合を障害ありとした。気分障害の症状の重症度は、研究へ登録された日にハミルトンうつ病評価尺度17項目版(HDMR-17)で評価し、BP患者はヤング躁病評価尺度(YMRS)でも評価した。主要評価項目は追跡期間中の精神科入院、副次評価項目は社会人口統計学的な状態(雇用/非雇用、同棲/独居、結婚/独身、最終学歴)の悪化で、それぞれ言語記憶および実行機能との関連を、原因別にCox回帰モデルを用いて解析した。

主要評価項目については、入院データは2019年までのものしか得られなかったため、追跡期間の中央値は58.40カ月であり、解析対象は398人であった。年齢、性別、研究登録前1年間の入院歴、HDRS-17スコア、うつ病の重症度、MDDまたはBPの診断、および参加した臨床研究の種類で調整した結果、言語記憶障害は将来的な入院リスクの上昇と有意に関連していた〔ハザード比(HR)1.84、95%信頼区間(CI)1.05-3.25、P=0.034)。罹病期間を含めて調整しても同様に有意な関連が認められた(同3.52、1.57-7.92、P=0.002、n=273、)。一方、実行機能障害と将来的な入院リスクとの間に関連は認められなかった(同0.89、0.51-1.55、P=0.68)。

次に、全対象者について、社会人口統計学的な状態に関し、年齢、性別、BPまたはMDDの診断の因子を調整して解析したが、言語記憶障害も実行機能障害も、雇用状況、同棲状況、結婚状況いずれとも有意な関連はなかった(P≧0.17)。

共著者の一人は、「これまでの研究で、MDDやBPによる入院歴のある患者において記憶障害が認められることが知られていたが、記憶力の低下には疾患の重症度が関係していると考えられてきた。今回の結果により、言語記憶障害自体が将来的な精神科入院のリスクを高めるという、これまでとは逆の関連があることが明らかになった。これは、入院歴、病気の重症度、うつ病の重症度、その他の重要な因子で調整した後でも、やはり明らかに示されていた」と述べている。

なお、2人の著者が、Lundbeck社を含む複数の製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(HealthDay News 2023年5月19日)

 

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参考文献

  1. Sankar A, et. al. EClinicalMedicine 2023 March 24;58:101927