パンデミック下での職場いじめと精神的苦痛や希死念慮の実態――全国オンライン調査

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)パンデミック下で実施された、職場いじめと労働者のメンタルヘルスの実態に関する調査の結果が報告された1。労働者の15%が職場いじめに遭っていたこと、在宅勤務の開始は職場いじめに遭う確率を下げるものの、男性では精神的苦痛や希死念慮の増加につながっていたことなどが明らかになった。神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科の津野香奈美氏らの研究によるもので、詳細は「BMJ Open」に2022年11月2日掲載された1

職場でのいじめは労働者のメンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが想定されるが、その実態は明らかになっていない。また、COVID-19パンデミックに伴い人々の生活はそれまでと一変し、特に労働者では雇用環境の悪化や在宅勤務の開始などにより、新たなメンタルヘルスへの負荷が加わったと考えられる。津野氏らはこれらの点について、COVID-19パンデミックの社会・医療への影響を把握するために実施された大規模調査「JACSIS(Japan COVID-19 and Society Internet Survey)研究」2のデータを解析し検討した。

JACSIS研究は、国内でのパンデミック第2波から第3波の合間にあたる2020年8~9月にwebを用い、性別、年齢、居住地を人口構成に一致させた上で無作為に抽出された調査パネルに回答を依頼し実施された。28,000人が回答した時点で受付を締切り。本研究では無職の人や不自然な回答を除外して、有職者16,384人を解析対象とした。その主な特徴は、平均年齢45.7±13.8歳、男性58.6%であり、経営者が5.7%、管理職12.3%、管理職以外の正社員44.0%、契約または派遣社員8.7%、アルバイト18.7%など。業種は製造業が16.8%で最も多く、その他は全て10%未満だった。

「パンデミックに伴い身体的負荷が増えたか?」に「はい」と答えた人が20.7%で、心理的負荷については33.1%が「増えた」と回答した。26.5%の人は在宅勤務を行っており、そのうちの8.4%はパンデミックに伴い在宅勤務を開始し、18.1%はパンデミック前から行っていた。「2020年4月から半年間で職場いじめに遭ったか?」との質問には14.9%が「はい」と回答し、17.9%は「職場いじめを目撃した」と答えた。また、8.8%は精神的苦痛が重度と判定され(K6という評価スコアが24点中13点以上)、11.5%は過去半年間に「死にたいと思ったことがある」と回答した。

職場いじめに遭った人の特徴を、性別、年齢、居住地、婚姻状況、教育歴、世帯収入、職位・業種・企業規模・勤務内容、うつ病の既往歴などの交絡因子を調整して解析。すると、男性が女性よりも、役員、マネージャー、正社員がパートタイムの労働者よりも職場いじめのリスクが高かった。また身体的、精神的な負担なども職場いじめのリスク増加につながった*a

次に、職場いじめに遭遇したことと重度の精神的苦痛および希死念慮との関連を、前記と同様の交絡因子を調整して検討。すると、自分がいじめに遭った場合には、重度の精神的苦痛に該当する割合や希死念慮を有する割合が有意に高く、さらに自分が職場いじめに遭わなくても、それらの該当者率が有意に高いことが示された*b

続いて、重度の精神的苦痛や希死念慮に関連する因子を性別に検討したところ、男性では、パンデミック後に在宅勤務を開始したことが、有意な関連因子の一つとして抽出された*c。女性ではこの関連は非有意だった。

論文の考察の中で著者らは、本研究結果のうち注目すべき点として、女性より男性、非正規雇用者よりも正社員や管理職・経営者の方が、より多くの職場いじめに遭遇していた点を挙げている。これらは以前の研究報告にはあまり見られない結果であり、パンデミックにより状況が変化した可能性があるという。その背景として、「パンデミックに伴う勤務環境の変化への不満が、職位がより高い人に向けられた可能性があること、職位が高い人に女性よりも男性が多いことが影響しているのではないか」と推測している。

結論は、「職場でのいじめやメンタルヘルスの問題を減らすには、以前から明らかになっていたリスク因子を有する労働者だけでなく、ハンデミックに伴う環境の変化の影響を受けている労働者にも焦点を当てる必要がある」とまとめられている。(HealthDay News 2022年12月5日)

 

注釈

*a
職場いじめとの関連因子(修正Poisson回帰分析による):男性vs女性(出現割合比[PR]1.32、95%信頼区間[CI]1.21-1.45)、役員(1.76、1.48-2.09)、マネージャー(1.40、1.20-1.65)、正社員(1.27、1.12-1.45)パートタイムの労働者よりも職場いじめのリスクが高かった。また、身体的(1.40、1.29-1.51)、精神的な負担(1.21、1.12-1.31)。

 

*b
自身が職場いじめに遭遇した場合の精神的苦痛(修正Poisson回帰分析)の出現割合比(PR)2.84(95%信頼区間[CI]2.55-3.15)、希死念慮のPR2.13(1.94-2.34)。職場いじめを目撃した場合の精神的苦痛のPR1.90(1.60-2.25)、希死念慮のPR1.41(1.20-1.64)。

 

*c
パンデミック後に在宅勤務を開始した場合の精神的苦痛(修正Poisson回帰分析)の出現割合比(PR)1.20(95%信頼区間[CI]1.01-1.41)、希死念慮のPR1.23(1.06-1.43)。

 

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参考文献

  1. Kanami T Y, et al. BMJ Open. 2022 Nov 2;12(11):e059860
  2. 日本におけるCOVID-19問題による社会・健康格差評価研究(JACSIS study)https://jacsis-study.jp/(2023年3月14日閲覧)