「精神疾患は予想されるよりよくなる」ことを示せれば、世間の理解や興味は深まっていくのでは?

「精神疾患は予想されるよりよくなる」ことを示せれば、世間の理解や興味は深まっていくのでは?

最近ある専門誌を見てみたら、執筆者の欄は精神科医師やカウンセラーでなく、社会心理学や社会福祉に関わる方々で占められていることに気が付きました。このように多くの立場の方々が興味を持つに至ったきっかけは、薬が登場し、精神疾患の患者さんが回復することを世間に示せたからだと思います。精神疾患のお子さんを持つ親御さんへのサポートはまだまだ十分とは言えませんが、少しずつでも症状は改善することを示すことができれば、同調される方が増えて、サポートは一段と充実していくことが期待できます。そのためには、ベースになる薬の進歩が不可欠です。どうか、なかなかよくならない患者さんを嫌がらずに、1人でも多く診てください。先生方の精神科医としての「血肉」になります。お好みの人だけ診ていては実力がつきません。

お忙しい中で、私の小精神療法をご活用いただけるのはありがたいことです。「1回の診察が5分程度でも」という特徴が、日本の現在の外来に適した方法と思われます。

お若い先生の中には、精神医療に携わるにあたってご自身の人生経験が足りないのではないかと悩まれる方もいるかと思います。しかし、人生経験が豊富であることが必ずしも良い精神科医師であるとは限りません。誰にでも「始まり」というものはあります。「フットワークの軽さ」という意味では若い時の方が「有利」です。まずは「ゆっくり」行きましょう。「手っ取り早く」とはいきません。2~3年ごとに振り返るくらいでよいでしょう。雑学も大事ですね。友人や先輩とのdiscussionもお忘れなく。とく生物学的研究論文にも関心を失わないことです。

そのうえで、外来のうつ病患者さんの1~2人をモデルケースとして「病後の生活史」を追っていただけませんか。治った後にもさまざまな問題が起きます。それぞれの問題をどのように乗り越えていくか、どうしたら患者さんを助けられるか、一介の臨床医にはどうすることもできません。しかし、一緒に悩むことは多少できます。「病気」のことを知っているだけ、彼(女)らより多少視野が広いと思っていただいてよいのではないのでしょうか。

私見ではありますが、薬が登場したことで現在では、私が「病後の生活史」を追い始めた当初に予想していたよりも、うつ病の症状を軽くすることができるようになっています。しかし、患者さんが十分に幸せかというと、もう少し助けを必要としているように感じます。それは「治す」というよりも「もう少し生き甲斐のある人生を」を保ちたいということでしょうか。

私は診察室の挨拶として、よく「ご家族は元気ですか。お婆ちゃんはどうしていますか。坊やは学校へ行っていますか。」などと尋ねます。これは人間としての幸福度を聞くためです。

 

次ページ
「精神医学は常に2つのアプローチを持ちます。1つはそのほかの臨床家の医師と同じく「早く元気にすること」です。もう1つは長く診ることであり、そのために「病後の生活史」の形成に関心を持つことがひとつの戦略と思います。」へ

【笠原 嘉 先生による最終講義 補講 一覧 はこちら】

 

 

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2022年7月27日(水)
取材場所:ヒルトン名古屋(愛知県名古屋市)

 

本コンテンツ弊社が事前に用意したテーマに沿ってご意見・ご見解を自由に執筆いただき、可能な限りそのまま掲載しています。お話の内容は、すべての患者様や医療従事者に当てはまるものではなく、またそれらの内容は弊社の公式見解として保証するものではありません。また、記載されている臨床症例は、一部であり、すべての症例が同様な結果を示すわけではありません。