その後、外来への傾斜度が増すにつれ、「軽症系」に関心が移った。すなわち「双極型うつ病」「外来分裂病」「境界例」というように。これはすべて「小精神療法」下での産物です。

その後、外来への傾斜度が増すにつれ、「軽症系」に関心が移った。すなわち「双極型うつ病」「外来分裂病」「境界例」というように。これはすべて「小精神療法」下での産物です。

「軽症うつ病」を数多く診ていると、ときどき「躁うつ病」が混じりました。これに対して、薬を用いて治療するわけですが、それでも再発がないわけではありません。性格的に執着性格(下田光造)*aのことが多いので、普通は通院を怠りません。そこで、最小限の薬を用いながら、長く治療を続けることにしました。私の経験の範囲ではこの方法でおおむねno problemでした。

「外来分裂病」*bという私が名付けたこの病名は(誰も正式には使ってくれませんでしたがが)私は気に入っていました。純粋に治療用にのみ作られた概念で、それだけに「曖味さ」を持ち、決して国際用語になる心配(?)はなかったので、折からのDSM-III*cの下でこれを使うのは少し恥ずかしさがありました。

しかし、今から振り返ってみると、長く診ること、少なくとも10年はフォローできること、小精神療法を追求できることにおいてこの一群は秀でていました。私の患者さんの中で10年通うのはこのタイプがいちばん多いのです。この概念をペーパーにしたのは1981年でしたが*d、そこに「例」として記載した2例は今でも診察室での交流があります。私との「きずな」なのでしょうか。

また、若い女性の患者さんが境界例と診断される状態に陥り、その治療にずいぶん苦労しました。長い経過でした。何人かの精神療法家のお世話にもなりました。30歳代に入り、「小精神療法」的に応接するしかありませんでした。その間に両親が死去し、本人も思い切ってスマホで良縁を求め、幸い有能な男性と結ばれました。その後、生まれた土地とは遠く離れた場所で還暦を迎えました。ちなみにこの女性の治療には私の勤務するクリニックのオーナーである女性精神科医の助けを求め、成功しました。境界例の治療には同性の治療者が必要不可欠な場合もあるのではないでしょうか。

 

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注釈
*a
下田光造(1885-1978、精神科医。鳥取大学・九州大学名誉教授)は、躁うつ病に特有な病前性格を見いだし、これを「執着気質」と名付け、この気質が躁うつ病の発症に関係すると考えた。
参考:下田光造賞 | 日本うつ病学会 Japanese Society of Mood Disorders (secretariat.ne.jp)

*b
入院せず外来で治療する分裂病(現在の統合失調症)。参考:笠原嘉. 精神病と神経症 第 1巻.みすず書房; 1984: P295− 311.

*c
精神障害の診断と統計マニュアル(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders)第3版。最新版は2022年に出版されたDSM-5-TR(第5版テキスト改訂版)。

*d
笠原嘉. 外来分裂病(仮称)について. 分裂病の精神病理(10); 1981: 23-42.

 

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2022年7月27日(水)
取材場所:ヒルトン名古屋(愛知県名古屋市)

 

本コンテンツ弊社が事前に用意したテーマに沿ってご意見・ご見解を自由に執筆いただき、可能な限りそのまま掲載しています。お話の内容は、すべての患者様や医療従事者に当てはまるものではなく、またそれらの内容は弊社の公式見解として保証するものではありません。また、記載されている臨床症例は、一部であり、すべての症例が同様な結果を示すわけではありません。