ストレスから回復するための睡眠をもたらす中脳の神経回路を特定

マウスの中脳には、精神的ストレスを受けたときにそれを感知し、心身を回復するための睡眠を誘発する神経細胞および回路があるという研究報告が、「Science」2022年6月30日号に掲載された1。英インペリアル・カレッジ・ロンドンのXiao Yuらの報告。

本研究では、まずマウスに精神的ストレスを与えると睡眠が誘発されることが確認された。モデルマウスを攻撃的マウスと同じケージに1時間入れて社会的敗北ストレス(SDS)を与えると、モデルマウスのコルチコステロイド(CORT)値は上昇した*a 。さらにSDS曝露後はノンレム睡眠に入るまでの時間(入眠潜時)が短くなり*b、5時間にわたってノンレム睡眠*cとレム睡眠*dに費やす時間(睡眠時間)が長くなった。なお、マウスのこうした反応は、単に若い雄マウスと同じケージに入れた場合*eや、回し車*f やトレッドミル*gによる運動をさせた場合には生じなかったため、社会的交流や身体活動によって誘発されたわけではなく、SDSが原因と考えられた。

SDSに曝露された直後、モデルマウスは不安を示すような行動*hを呈したが、その後十分な睡眠を取った場合、不安症状は消失*iし、CORT値は1時間で元に戻った*j。しかし、曝露後4時間にわたって睡眠を阻害された場合、不安症状は持続*kし、CORT値も上昇したまま*lだった。

次に、こうしたSDS誘発睡眠を生じさせる脳の神経回路を特定するため、神経細胞の活性化の指標であるcFOS発現のマッピングをマウスの脳全体で行った。その結果、SDS曝露時には中脳にある腹側被蓋野(VTA)を始めとする脳領域が反応しており、VTAではGABA作動性マーカーであるVgatが主に発現していた。このVTAVgat細胞の一部では、SDS曝露後約5時間にわたりシグナル増強が持続していた*m。VTAVgat細胞の活性化をアデノウイルスベクターでタグ付けして分析した結果、SDS曝露時には、VTAVgat細胞全体のうち15%のみが活性化されていることが分かった*n。このサブセットを実験的に再活性化させると、マウスの入眠潜時は短く*o、睡眠時間は長く*pなったことから、SDS誘発睡眠を再現できたと考えられた。さらに、このサブセットを実験的に阻害したマウスを2回目のSDSに曝露したところ、その後のSDS誘発睡眠は減少した*q。これらの結果から、SDS誘発睡眠にはVTAVgat細胞の特定のサブセットが関与していることが明らかになった。

さらにVTAVgat細胞の入力と出力を調べたところ、SDSによる活性化は、外側視索前野(LPO)、視床下部室傍核(PVH)、中脳水道周囲灰白質(PAG)からVTAVgat細胞へと入力された後、視床下部外側野(LH)へと投射されるという経路で睡眠を生じさせると考えられた*r

SDS誘発睡眠に関与するVTAVgat細胞について、その他の分子的特性も調べた結果、そのうち42%がソマトスタチン(Sst)を発現していた*s。VTASst細胞は、VTAVgat細胞と同様に検討した結果、SDS誘発睡眠に関与することが明らかになった。VTASst細胞は、PVHにおけるコルチコトロピン放出因子(CRF)を阻害することで、SDS誘発睡眠後のCORT値を低下させると考えられた*t

著者らは、「VTAVgat-Sst細胞が中心となる回路モデルは、ストレス曝露後の数時間にわたり活性化され、睡眠を誘発し、不安の軽減をもたらすことが分かった」とまとめ、「今回見つかった神経細胞と回路により、動物はストレスから心身を回復させるための睡眠を取っているようだ。この神経細胞と回路は、不安障害の新たな治療を開発する際の鍵となるかもしれない」と述べている。(編集協力HealthDay)

 

注釈

*a
Unpaired t-test、p<0.0001

*b
Unpaired t-test、p<0.01

*c
Unpaired t-test、p<0.0001

*d
Unpaired t-test、p<0.05

*e
Unpaired t-test、p>0.05

*f
Unpaired t-test、p>0.05

*g
Unpaired t-test、p>0.05

*h
Two-way ANOVA with bonferroni post hoc test、Elevated plus-maze:p<0.01、Open-field test:p<0.001

*i
Two-way ANOVA with bonferroni post hoc test、p>0.05

*j
Two-way ANOVA with bonferroni post hoc test、p>0.05
※図1Gの60分値に*が付いていないので非有意ということでp>0.05と記載しましたが、この図内のどの要素間で検定をかけているのか、サプリメント含め探してみたのですが見当たりませんでした。本文中で「60分で戻った」と書いてありますし、多重検定をしているようなので、おそらくベースライン時と比較検定していると思いますが、確証はありません。

*k
Two-way ANOVA with bonferroni post hoc test、p<0.01

*l
Two-way ANOVA with bonferroni post hoc test、p<0.05

*m
Paired t-test、p<0.01

*n
参考文献1 Figure 2B参照

*o
Unpaired t-test、p<0.05

*p
Unpaired t-test、NREM:p<0.01、REM:p<0.05

*q
Two-way ANOVA with bonferroni post hoc test、p>0.05

*r
参考文献1 Figure3参照

*s
参考文献1 FigureS15A参照

*t
VTAsst細胞の活性化は、SDS誘発睡眠後のCRFおよびCORT値の低下に関連した(Unpaired t-testで各p<0.01、p<0.001)。一方、VTAsst細胞の阻害は、SDS誘発睡眠後のCRFおよびCORT値の上昇に関連した(同、各p<0.05)。

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参考文献
  1. Yu X, et al. Science. 2022 July;377(6601):63-72.
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