統合失調症患者での教育年数の不平等は50年間解消されず

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

統合失調症患者では、教育年数が通常の人より短い状態が過去50年にわたって続いており、低中所得国では通常との差が拡大する傾向にあるとする、システマティックレビューとメタアナリシスの結果が、「The Lancet Psychiatry」2022年7月号に報告された1

Pontificia Universidad Católica de Chile(チリ)のNicolás A. Crossleyらは、過去50年の間に統合失調症患者の教育年数がどのように変化したのかを調べるために、PubMedとPsycINFOを用いて、1970年1月1日から2020年11月24日までの間に発表された、平均年齢が18歳以上の統合失調症患者の教育年数について報告している研究を検索。設定した基準を満たした3,321件の研究結果を基にメタアナリシスを実施した。最も多かったのは米国で実施された研究であり(39%、1,290件)、中国(13%、446件)、日本(10%、337件)がそれに続いた。対象者には、318,632人の統合失調症患者(患者群、平均年齢37.1歳、女性35%)と138,675人の健康対照者が含まれていた。対象者の出生年は、論文の出版年と平均年齢から推定した。「教育を受けた年数」を主要評価項目とし、対象者の属する国の所得レベル(高所得国/低中所得国)、出生年、出生年と国の所得レベルの交互作用をランダム効果モデルに投入して調整することなどでメタアナリシスを行い、また効果量(Cohen’s d)を算出した。

教育年数は、高所得国でも低中所得国でも、患者群と対照群の双方で、出生年が下るにつれて延びる傾向にあった。高所得国では、1977年(患者群の出生年の中央値)に生まれた患者の教育年数は対照群よりも1.59年(19カ月)短く〔95%信頼区間(CI)−1.66〜−1.53、P<0.0001〕、Cohen’s dは−0.56(95%CI −0.58〜−0.54)であった。この結果から示唆される、対照群に対して患者群の「12年間の教育(中等教育)を完了しないこと」のオッズ比は2.58であった。患者群と対照群の間の教育年数の差について、数十年にわたる出生年の間における推移を見たところ、出生年が1年下るごとに、教育年数の差は0.0047年短縮(95%CI −0.0005〜0.0099、P=0.078)していたものの、これは有意な変化ではなかった。

一方、低中所得国において1977年に生まれた患者群と対照群との間の教育年数の差を見ると、高所得国における差より0.72年(95%CI 0.85〜0.59、P<0.0001)有意に小さく、不平等の程度が高所得国より小さいことが示された。ところが、低中所得国における患者群と対照群との教育年数の差は増大傾向にあり、出生年が1年下るごとに教育年数の差は0.024年増大しており(95%CI−0.037〜−0.011、P=0.0002)、これは有意であった。この差は、次第に高所得国での差に近づいていき、2000年近くでの出生群においては高所得国における差と低中所得国における差がほとんど同程度となっていた。

著者らは、「この研究から、20世紀以来、教育年数は全対象者で延びていたにもかかわらず、統合失調症患者では教育年数の不平等が相変わらず認められ、改善していないことが明らかにされた。統合失調症患者に特化した教育活動を開発・展開し、その効果を再評価した上でさらに強化していく必要がある」と結論付けている。

なお、数名の著者が、製薬企業との利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている 。(HealthDay News 2022年6月22日)

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参考文献

  1. Crossley NA, et al. The Lancet Psychiatry 2022 July;9(7):565-573.