PTSDの認知行動療法はガイド付きオンライン提供も可能
心的外傷後ストレス障害(PTSD)に対する認知行動療法(CBT)は、ガイド付きのオンラインプログラムにより提供しても、対面での提供に劣らない効果を得られることが分かった。実用的多施設ランダム化非劣性比較試験の結果で、詳細は「The BMJ」2022年6月18日号に掲載1。
米カーディフ大学のJonathan I Bissonらは今回、英国の国民保険サービス(NHS)の一次・二次医療施設で心理療法を受けるよう紹介された18歳以上のPTSD患者を対象に、心的外傷に焦点を当てた認知行動療法(CBT-TF)をガイド付きのオンラインプログラムで提供する場合と、対面で個別提供する場合を比較した。対象者は、オンライン群または対面群に1対1の割合でランダムに割り付けられた。
オンライン群の対象者は、著者らが開発したCBT-TFのオンラインプログラム“Spring”を受けた。Springは心理教育やイメージ・エクスポージャー(想像上で曝露すること)、認知の再構築などを含む8ステップのCBT-TFで構成され、コンテンツの一部をオンラインで提供することで、セラピストが対応する時間を減らすことを意図している。Springの導入と継続を支援するため、セラピストは対面セッションを5回、計3時間行ったほか、短時間の電話またはメール連絡を計4回行った。一方、対面群の対象者は同サービスで通常行われるCBT-TFを受け、セラピストは個別の対面セッションを1回60~90分、最大12回行った。
主要評価項目は、ベースライン時から16週後のPTSD症状の重症度だった。その評価は精神疾患の診断・統計マニュアル第5版(DSM-5)に準拠したPTSD臨床診断面接尺度(CAPS-5)で行い、80点満点中5点を非劣性マージンに設定した。ベースライン時のCAPS-5スコアや主要な患者特性を調整し、セラピストをランダム効果として含めた共分散分析を用いて、ITT解析により両群を比較した。副次評価項目は、52週後のPTSD症状の重症度のほか、16週後と52週後のメンタルヘルスまたは治療関連の自己報告尺度のスコア、有害事象だった。CAPS-5以外の連続変数はプールされた標準偏差の0.5倍を非劣性マージンとした。
軽度~中等度(CAPS-5 50点未満)のPTSD患者196人(女性63.8%、平均36.5歳)が試験に参加し、うち97人はオンラインで、99人は対面でCBT-TFを受けた。オンライン群と対面群において、追跡完了率は16週後で各82%、85%であり、52週後で各74%、71%だった。追跡完了者のCAPS-5スコア平均値は、ベースライン時の各34.6点、35.6点に対し、16週後には各13.1点、13.0点まで低下し、52週後も各12.9点、10.9点と改善が維持されていた。
解析の結果、16週後のPTSD症状の重症度は、オンライン群で対面群に劣らなかった〔CAPS-5の平均差1.009、片側95%信頼区間(CI)-∞~3.934、非劣性のP=0.012〕。一方、52週後には非劣性は維持されず、対面群の改善の方が良好だった(同3.197、-∞~5.997、P=0.145)。その他の副次評価項目については、16週後の時点では、治療満足度を除く全項目でオンライン群の非劣性が認められた。しかし52週後には、知覚ソーシャルサポート多次元尺度(MSPSS)、アルコール使用障害スクリーニングテスト(AUDIT-O)、5項目5段階EuroQOL(EQ-5D-5L)、一般性自己効力感尺度(GSE)では非劣性が維持されたものの、抑うつや不安などの評価項目では非劣性は認められなかった。
本試験に関連して生じた重大な有害事象はなく、CBT-TFのオンライン提供は対象者にとって許容できると考えられた。ただし、介入の脱落率はオンライン群(10.3%)で対面群(4%)より高く、この原因は明確ではなかったが、一部の対象者は対面提供への割り付けを希望していたのではないかと考えられた。医療経済分析の結果、対象者1人当たりの平均費用はオンライン群で277ポンド(約4万6,000円*)と、対面群の729ポンド(約12万円*)より安価だった(P<0.001)。
*2022年6月末時点 1ポンド=165円で換算
著者らは「軽度から中等度のPTSD患者に対するガイド付きのオンライン提供によるCBT-TFは、対面で提供するCBT-TFに非劣性であり、かつ安価であるため、治療の第一選択として考慮されるべきである」と述べている。(編集協力HealthDay)
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