慢性疼痛に新世代の認知行動療法が有効
慢性疼痛には、認知行動療法(CBT)の一種であるアクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)が有用であるとするクリニカルレビューが、「The BMJ」に2022年2月28日掲載された1。ウプサラ大学(スウェーデン)のLance M McCrackenらによる報告。
ACTは、心理的柔軟性の向上を重視する第3世代CBTの一種である。心理的柔軟性とは、受容(アクセプタンス)と認識、行動変容のプロセスから成る能力であり、非生産的な感情や思考に捉われずに、目標や価値観に向けて行動するために役立つ。慢性疼痛に対しては、第3世代CBTの中ではマインドフルネス治療とACTが多く用いられており、従来、両者が一括りに検討されることが多かった。しかし、慢性疼痛に対するACTは2020年以降にRCTが7件報告されるなどエビデンスが増加している。そこで本研究は、ACTのみに焦点を当てた広範なシステマティックレビューを実施した。
その結果、慢性疼痛の成人患者計2,505人に対するACTのランダム化比較試験(RCT)25件が特定された。そのうち15件は筋骨格痛を対象に含めていたほか、線維筋痛症と頭痛に関する研究が各3件、腰痛、有痛性糖尿病性神経障害、むち打ち関連障害に関する研究が各1件あった。ACTの提供形式としては、グループに対する提供が14件、インターネットが6件、個人での対面が3件、電話が2件、ワークブックによる自助が1件であった。
研究23件における効果量(Cohen’s d、偏η2など)95個を検討した結果、慢性疼痛に対するACTは疼痛や不安を有意に軽減することはないが、疼痛による生活の支障、障害、抑うつの軽減およびQOLの向上には有効であると考えられた。特に、疼痛による生活の支障については中程度の効果が示され、そのエビデンスは最も強かった*a。ACTは疼痛のアクセプタンスを向上し、心理的柔軟性を高める可能性があると示された。従来のCBTとACTを比較すると、効果の面では両者は同程度と思われたが、心理的柔軟性に関してはACTの方が強いエビデンスが認められた*b。また、ACTの長期転帰については、多くの研究で3、6、12カ月後などに追跡調査が行われており、その結果でも有益性のエビデンスが示されたことから、概して効果は低下しないことが示唆された。
ACTの作用メカニズムを検討する媒介分析は研究6件で実施されており、主要アウトカムへの効果には心理的柔軟性が影響すると分かった。さらにこれらの分析では、ACTの理論が標的とする心理プロセスである心理的柔軟性と、標的としない心理プロセスである運動恐怖症や自己効用感などを比較しており、ACTの効果はその意図する通り、心理的柔軟性を高めることで生じていると示唆された。
ACTの費用対効果は研究3件で検討されていた。その結果は、ACT実施を概ね支持していたが、地域事情や医療制度などにより大きく異なる可能性がある。ACTの治療効果の交絡因子、予測因子は研究3件で検討されていたが、一貫した結論は得られなかった。ただし、例外として年齢は重要な要因であった。
McCrackenらは、本レビューでは研究の質を考慮しておらず、パイロット研究や脱落率の高い研究も含まれているといった問題があることを認めつつも、「慢性疼痛の患者に対するACTは、疼痛による生活の支障、障害、抑うつ、QOLに対して効果的であることが分かった」と結論。「ACTのエビデンスは従来のCBTに勝るとも劣らない。今後の研究でその有益性が否定される可能性は低いだろう。この新世代のCBTはプロセス重視の治療法の始まりであり、将来的に個人の経験やニーズの理解により適した手法の開発が進めば、プロセス重視と治療の個別化を統合したさらなる治療法につながる可能性がある」と、展望を述べた。(編集協力HealthDay)
注釈
*a
疼痛による生活の支障に対する効果量:偏η2で0.31、以下全てCohen’s dで0.39、治療後0.00および6カ月後0.13、治療後0.56、筆記開示法との比較で治療後0.33および3カ月後0.47、待機リストとの比較で治療後および3カ月後に有意差なし、ガイド有ACTと待機リストの比較で治療後0.58および追跡時0.58、ガイド無ACTと待機リストの比較で治療後および追跡時に有意差なし、3カ月後0.24および9カ月後0.54、ITT解析で3カ月後0.20および9カ月後0.40、−0.78、6カ月後0.79、治療後0.99
*b
疼痛の受容性についてACTとCBTを比較した効果量:治療後0.17、6カ月後0.06(Cohen’s d)
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