自殺未遂者の約20%に明らかな精神障害なし

提供元:AJ Advisers LLCヘルスデージャパン

自殺未遂者の5人に1人近く(19.6%)は、精神障害の基準を満たしていなかったことが、「JAMA Psychiatry」に2024年2月21日掲載された論文で明らかにされた1

米ペンシルベニア大学のMaria A. Oquendoらは、全米を代表する集団ベースの調査であるUS National Epidemiologic Study of Addictions and Related Conditions III(NESARC-III)のデータ(2012年4月〜2013年6月実施分)を用いて、自殺未遂歴のある者の中における、精神障害の既往のない「健常者」の割合、および「精神障害発症者」が精神障害を発症する前に初回の自殺未遂を試みた割合を調べた。NESARC-IIIでは、20〜65歳の成人を対象に、DSM-5の第1軸(統合失調症、気分障害、物質使用障害など)および第2軸(人格障害など)の28の診断項目について評価されており、自殺未遂の有無や自殺未遂時の年齢についても調査されていた。

生涯における自殺未遂を有する者の割合歴(すなわち「自殺未遂者」の割合)と95%信頼区間(CI)を、対象者全体、男女別、年齢層別(20歳〜35歳未満、35歳〜50歳、50歳超〜65歳)などで計算した。また、自殺未遂歴があると答えた者の中に健常者と精神障害発症者が占める割合を算出し、後者については、自殺未遂の発生時期を、精神障害の発症前、発症と同年、発症後に分類した。これらも男女別、年齢層別の数字を算出した。比較にはχ2検定を用いた。最後に、NESARC第二次調査(2004年8月~2005年9月)のデータを用いて、得られた結果が再現されるかを確認した。

対象者36,309人のうち1,948人(5.2%、95%CI 4.8-5.6%)に自殺未遂歴があった〔女性:1,348人(66.8%、同64.1-69.4%)、男性600人(33.3%、同30.6-35.9%)〕。1,948人のうち128人(6.2%、同4.9-7.4%)は健常者で、261人(13.4%、11.6-15.2%)は精神障害発症前の自殺未遂であったため、精神障害がない状態での自殺未遂は合計19.6%であった。

健常者では男女間で自殺未遂者の割合、および精神障害発症前に自殺未遂を試みた者の割合に有意な差は認められなかった。精神障害発症者でも、発症前に自殺未遂を試みた割合については男女間で有意な差は認められなかった。ところが、女性の精神障害発症者では、発症と同年に初回の自殺未遂を試みた割合は男性の精神障害発症より有意に多かった〔女性:195人(14.9%、同12.5-17.3%)、男性:52人(8.6%、同6.0-11.2%)、P<0.001〕。対象者全体を年齢層別に見ると、50歳超〜65歳では、その他の年齢層に比べて自殺未遂者の割合が有意に低かった〔20歳〜35歳未満:655人(6.2%、同5.6-6.9%)、35歳〜50歳:668人(6.1%、同5.4-6.8%)、50歳超〜65歳:625人(3.9%、同3.5-4.4%)、P<0.001〕。一方、健常者では、3つの年齢層において、自殺未遂者の割合に有意な差は見られなかった。また精神障害発症者でも、3つの年齢層間で有意な差は見られなかった。NESARC第二次調査のデータでも、大部分の結果が同様であることが確認された。

著者らは、「自殺未遂者の5人に1人近くには明らかな精神障害が認められなかった。この結果は、どのような状態を臨床的に自殺行動リスクがあるとみなすかについての従来の概念を覆すとともに、自殺リスクのスクリーニングを精神障害のある者に限定することに対して疑義を呈するものだ」と述べている。

なお、1人の著者が、複数の製薬会社と利益相反(COI)に関する情報を明らかにしている。(HealthDay News 2024年2月22日)

 

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参考文献

  1. Oquendo MA, et al. JAMA Psychiatry. Published online February 21, 2024. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2023.5672