脳や腸に埋め込める神経伝達物質センサーを開発
脳や腸に埋め込み、ドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質の動態を測定できるバイオセンサーを開発したという研究報告が、「Nature」2022年6月9日号に掲載された1。
神経伝達物質の動態をリアルタイムに観察できれば、神経機能の研究や疾患診断に役立つと考えられるが、そうしたツールの開発は、特に腸管や神経系では進んでいない。従来のバイオセンサーは硬くて脆く2、炎症を招くこともあり、特に腸管は柔らかく複雑で、活発に動く3からである。
そこで今回、米スタンフォード大学のJinxing Liらは、組織を模したバイオセンシングインターフェースNeuroStringを開発した。同センサーは長い紐状で、薄く柔らかく、柔軟性がある。電極には、モノアミン神経伝達物質の酸化の触媒であるグラフェンを採用。レーザー炭化という技術で装飾してナノファイバーを作成し、柔らかなエラストマーに埋め込んだ。神経伝達物質との結合性や電子伝達を工夫しているため、センサーとして高感度かつ選択的に反応することが特徴で、ドーパミンやノルエピネフリン、セロトニンなどのモノアミン神経伝達物質を検出できることが示された。また、多方向に引っ張っても、電極のインピーダンスにはほとんど影響しなかった。
マウスの脳や腸にこのNeuroStringを留置し、各領域でリアルタイムにモノアミンを検出できた。例えば、報酬学習としてマウスにチョコレートを与えたところ、数秒で線条体からカテコールアミンが放出され、30~60分後には腸でセロトニンの増加が確認できた。
なお、マウスの脳内に留置したNeuroStringでは、16週にわたる長期においてドーパミンを検出できた(参考文献1Extended Data Fig. 5e-g参照)。また、マウスの腸内に留置した場合も、悪影響を認めず、蠕動運動に変化は見られなかった(参考文献1Extended Data Fig. 6参照)。さらにミニブタでも、選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を投与すると、実験的刺激によるセロトニン上昇の半減期が延長することが、腸内に留置したNeuroStringで確認できた(参考文献1Extended Data Fig. 6参照)。
著者らは「NeuroStringは柔らかで伸縮性があり、中枢神経系と消化管組織においてモノアミン神経伝達物質の動態を同時にモニタリングできるバイオセンシングインターフェースとして機能することが示された。この結果は、神経伝達物質が腸内微生物や脳腸軸コミュニケーションにどのように関与しているかを研究するにあたり、幅広い可能性をもたらすものだ」と述べている。(編集協力HealthDay)
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