精神障害の診断や向精神薬の処方を受けることはその後の社会経済的困難と関連

デンマークの人口の8割以上が生涯のうちに精神障害の診断を受けるか向精神薬を処方されており、そのような診断や処方は、その後の低所得や失業などの社会経済的困難と関連することを示したデンマークの大規模コホート研究の結果が、「JAMA Psychiatry」に2023年7月12日掲載された1

Copenhagen Affective Disorder Research Center(CADIC)(デンマーク)のLars Vedel Kessingらは、デンマークの人口ベースの4種類〔Statistics Denmark(社会経済的地位)、Danish Psychiatric Central Research Register(精神障害の診断)、Medicinal Product Statistics(向精神薬の処方)、Danish Medical Register on Vital Statistics(死亡)〕の登録をリンクさせ、1995年1月1日現在のデンマークの人口520万人の中からランダムに150万人(1896〜1994年の間に出生)を抽出。この中で諸条件を満たした1,313,321人を対象として、出生から100歳までの間の精神障害の発生率を推定し、また、社会経済的困難との関連について検討した。1)入院/外来診療での精神障害の診断、2)向精神薬の処方、3)社会経済的困難(最高学歴、雇用状況、収入、居住形態、配偶者の有無)の3つを指標とし、Aalen-Johansen推定量を用いて、出生から100歳までの全人口および性別ごとのこれらの指標の累積発生率(累積有病率)を算出した。全ての解析で、全死亡を競合リスクとして考慮し、向精神薬の処方についての解析では、病院による精神障害の診断も競合リスクに含めた。1996年1月1日に精神障害がなかった人を、その日から、死亡、移住、または追跡終了日(2018年1月1日)を迎える、のいずれかが発生するまで追跡した。

対象中462,864人〔年齢中央値(IQR)36.6(21.0〜53.6)歳、男性50.5%〕が精神障害の診断を受けるか向精神薬の処方を受けており、このうちの112,641人は病院で精神障害と診断され、422,080人は向精神薬を処方されていた。100歳時点での精神障害の診断/向精神薬の処方の累積発生率は、全体で82.6%〔95%信頼区間(CI)82.4-82.6〕、男女別では女性で87.5%(同87.4-87.7)、男性で76.7%(同76.5-76.8)と推定された。精神障害の診断/向精神薬の処方の累積発生率を4種類の感度分析で検討しても同様の結果が得られ、最も低い累積発生率は、単発で精神障害/向精神薬を処方された場合などを除外して分析するために、任意の精神障害/向精神薬処方を「最低2回処方された場合」と定義した際の74.8%(同74.7-75.0)であった。

精神障害の診断/向精神薬の処方と社会経済的困難との関連を、精神障害の診断歴や向精神薬の処方歴がない人との比較で検討したところ、有意な関連を示したのは、低収入(ハザード比1.55、95%CI 1.53-1.56)、失業または障害手当の受給(同2.50、2.47-2.53)、一人暮らし(同1.78、1.76-1.80)、未婚(同2.02、2.01-2.04)であった。

著者らは、「デンマークの一般人口を代表する大集団を対象にしたこの研究により、大半の人が生涯のうちに精神障害の診断や向精神薬の処方を受けており、このことがその後の社会経済的困難と関連していることが明らかになった。この知見は、精神障害の一次予防のみならず、将来の精神保健の臨床の現場における諸資源についても見直しを迫るものと考えられる」と述べている。(編集協力HealthDay)

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参考文献

  1. Kessing LV, et al. JAMA Psychiatry. Published online July 12, 2023. doi: 10.1001/jamapsychiatry.2023.2206