うつ症状に対するマインドフルネス研究の今、発展に向けたこれからの課題

マインドフルネスとは、心身の各種症状の軽減を目的として行う体系化された瞑想法です。もとは仏教の瞑想に由来しますが、その概念と方法論は心理学の「注意の焦点化理論」に基づいて体系化されており、宗教色は払拭されています1

マインドフルネスの効果に関する報告は多数存在し、弊害に関する研究は少ない。

マインドフルネスの活用状況と研究報告の現況

マインドフルネスとは、心身の各種症状の軽減を目的として行う体系化された瞑想法です。もとは仏教の瞑想に由来しますが、その概念と方法論は心理学の「注意の焦点化理論」に基づいて体系化されており、宗教色は払拭されています1

マインドフルネスの研究の端緒は、1979年にJon Kabat-Zinn博士が開始した、慢性疼痛患者に対するストレス軽減・リラクゼーションプログラムであり、以降マスメディアからの注目もあって社会の関心が高まり、研究が活発化しました2。その結果、これまでにマインドフルネスストレス低減法(mindfulness-based stress reduction:MBSR)や、MBSRをうつ病の再発予防に活用したマインドフルネス認知療法(mindfulness-based cognitive therapy:MBCT)といった、複数のマインドフルネス・プログラム(mindfulness-based programs:MBPs)が提唱され、精神疾患を中心とした各種疾患の治療法として医療現場で活用されています。
Gotinkらは、MBSRおよびMBCTは成人、小児を問わず、がん、心血管疾患、慢性疼痛といった疾患や身体症状に伴ううつ、不安、ストレスなどを改善すると述べています3。他にも、うつ症状の再発抑制に対し、認知行動療法および抗うつ薬と遜色のない効果が期待できるなど4、その臨床的有用性について、複数の臨床試験やメタ解析で報告されています。
一方で、マインドフルネスの安全性に関するエビデンスレベルの高い報告は非常に少なく、そのほとんどが症例報告や症例集積研究にとどまっています5。しかし、報告されている副作用および有害事象には、幻覚妄想状態、躁状態、抑うつ状態、解離状態など、重篤な症状を呈するものが含まれること、座禅やヨガなどの伝統的な瞑想でも幻覚症状などが出現する場合があることから、MBSRやMBCTといったマインドフルネス・プログラムに伴う副作用の可能性を軽視すべきではありません5

うつ症状に対するマインドフルネスの効果

うつ症状に対するマインドフルネスの有効性は、多数のランダム化比較試験(RCT)およびその結果を受けたメタ解析で検討されています。
Jingらは、抑うつ症状を有する成人に対する四無量心瞑想(Four Immeasurables Meditations:FIM)の効果を検討したRCT23件(n=1,468)を対象にメタ解析を行った結果、FIM介入の抑うつ症状に対する有意な改善効果が示されました(dppc=0.38、95%CI: 0.24~0.51、p<0.01)6。ただし、本メタ解析対象のRCTの中にはFIM介入による抑うつ症状改善を主要評価項目としていない試験も含まれています。
慢性の治療抵抗性うつ病患者106名を対象としたRCT7では、標準的な薬物治療(treatment-as-usual:TAU)にMBCTを併用する群と、TAUのみを施行する群におけるうつ症状の変化を、自記式のうつ病症候学評価尺度(Inventory of Depressive Symptomatology-Self-Report:IDS-SR)を用いて比較しました。per-protocol解析(MBCT併用群n=34、TAU群 n=52)の結果、MBCT完了後3ヵ月および6ヵ月時点において、MBCT併用群にはうつ症状の有意な上乗せの低減効果が認められました(IDS-SRの群間差[95%CI]:-4.24 [-8.38~-0.11]、d=0.45、p=0.04)。
残存うつ症状を有する患者を対象に、抑うつの標準的なケアにオンラインによるMBCTを併用した場合の上乗せ効果を検討したRCT8も報告されています。同試験では、残存うつ症状を有する患者460名を標準的ケア単独施行群とオンラインによる12週間のMBCT併用群に割り付け、試験期間中における残存うつ症状の重症度、寛解達成率、再発率を評価し群間比較しました。その結果、残存うつ症状の重症度評価に用いたPHQ-9スコアは、試験開始時から15ヵ月時点までの平均変化量(SE)が併用群-2.65(0.29)、単独群-1.70(0.27)となり、併用群で残存うつ症状が有意に改善していました(t=2.43、p<0.02)。また、PHQ-9<5で定義した寛解達成率は、15ヵ月間を通じて併用群で有意に高率となりました(寛解達成率[SE]:併用群59.4%[2.7%]vs単独群47.0%[2.6%]、t = 3.25; p<0.001)。また PHQ≧15で定義した再発率は試験開始から12ヵ月間において併用群13.5%、単独群23.0%であり、再発リスクは併用群で有意に低いことが確認されました(ハザード比: 0.61、95%CI: 0.39-0.95、p<0.03)。
うつ病以外にも肥満、脳卒中や外傷性脳損傷、多発性硬化症による疲労、がんなどの疾患や慢性疼痛といった身体症状に伴ううつ、不安症状に対するマインドフルネスの治療効果の検証も行われ始めています

マインドフルネスがもたらす有効性と弊害、指導者の認定制度や養成のあり方などに関しては十分な議論が必要と考えられます。

「マインドフルネス」の介入方法と国内での実施状況

以下に、MBSRの一例を示します10

  • 呼吸法:呼吸に集中しながら腹式呼吸を行い、空気の出入りと腹部の感覚の変化に注意を向ける。
  • ボディスキャン:呼吸しながら身体の各部位へ順番に注意を向けていき、ありのままの身体の状態に注意を向ける。
  • 日常瞑想訓練:歯磨きや皿洗いといった日常的に行う動作に注意を向け、その動作を行っている瞬間の思考や感覚に気づくようにする

介入方法としてのマインドフルネスでは、専門的なトレーニングを受けた指導者が、複数人を対象としたセッションを、数週間かけて行います1。指導者には理論的かつ、自らがマインドフルネスの状態に達した経験に基づいたプログラムの理解が求められますが1、日本国内において指導者認定制度は統一されていません。現時点では、2016年に日本マインドフルネス学会がオックスフォード大学マインドフルネスセンター(Oxford Mindfulness Centre :OMC)と連携して開始したMBCT指導者養成課程のほか、NPO法人や一般社団法人が独自に設けた認定制度などが複数存在している状態です11

マインドフルネスの発展に向けた課題

マインドフルネスは医療現場以外にも、教育や企業の研修等に広く用いられるようになっていますが11、安全性を裏付けるための研究は不足していて、適応症や禁忌も明確ではありません。有効性のエビデンスに関しても、個々の試験の対象人数が比較的少ない、盲検下での検証が困難であるといった問題点に加え、出版バイアスの存在が否定できないものも含まれます5。そのため、うつ病治療にマインドフルネスを導入する場合、医師はプログラムへの参加希望者に対し、有効性に関する情報の提供だけでなく、副作用の可能性についても十分に説明する必要があります。
加えて、現状では国内において、必ずしも精神医学・精神保健的な専門知識と経験を十分に持つ指導者によってプログラムが実施されているとは言えません5。MBPsを実施する指導者の質・能力の問題として、プログラム参加者に対する共感性を欠いている、プログラム参加者の問題を過小評価している、MBPsの治療内容やそのプロセスの説明が明瞭でない、アドヒアランスを引き出すスキルが十分でない、標準的な薬物治療の知識が不足している、医師との関係性が築けていない、といった場合には、MBPsの安全性が担保できないおそれがあると指摘されています12。しかし、指導者の指導能力や自己覚知に対する態度を対象とした研究はほとんど行われていません11
今後のマインドフルネスの普及にあたり、指導者の育成・認定プログラム自体の質向上や、指導者の評価システムの構築も不可欠と考えられます11

監修者:国立精神・神経医療研究センター 名誉理事長・一般社団法人日本うつ病センター 名誉理事長 樋口輝彦先生

参考文献

  1. 北川嘉野, 他. 心理臨床科学. 2013 ; 3(1): 41-51.
  2. Van Dam NT, et al. Perspect Psychol Sci. 2018; 13; 36-61.
  3. Gotink R, et al. PLoS One. 2015; 10(4): e0124344.
  4. Kuyken W, et al. JAMA Psychiatry. 2016; 73(6): 565-74.
  5. 齊尾武郎. 臨床評価. 2018; 46(1): 51-69.
  6. Lv J et al. Clin Psychol Rev. 2020; 76:101814.
  7. Cladder-Micus MB, et al. Depress Anxiety. 2018; 35(10): 914-24.
  8. Segal ZV, et al. JAMA Psychiatry. 2020: e194693.
  9. 林紀行. 精神科治療学. 2017 ; 32(5) : 585-90
  10. 伊藤靖. 精神科治療学. 2017 ; 32(5): 591-8.
  11. 池埜聡, 他. Human Welfare. 2019; 11(1): 55-69.
  12. Baer R, et al. Clinical Psychology Review. 2019; 71: 101-14.