うつ病との関連性を踏まえた不眠症状への診療アプローチ 精神医学クローズアップ Vol.11

高江洲 義和 先生(琉球大学精神病態医学講座 准教授)

不眠症状はうつ病に高率に併存するほか、うつ病の発症リスク因子にもなるなど、うつ病との密接かつ多様な関係が知られています。うつ病と不眠症状の関連性に関して第一人者のお一人である高江洲義和先生に、最新の知見を振り返っていただきながら、うつ病診療の現場での不眠症状に対する診療アプローチの基本的な考え方について、お話を伺いました。

―うつ病と不眠症状の関連性について、一般にどのようなことが言われていますか。

まず、不眠症状とうつ病発症の関連性を示唆した研究報告は多数あり、不眠症状がうつ病の発症リスク因子であることは、メタ解析の結果からも強く支持されています1,2

また、不眠症状がうつ病に高頻度に併存することも知られています3。このうつ病に伴う不眠症状に対し、2000年代前半頃までは、うつ病に続発する部分症状としてのとらえ方から「二次性不眠」の概念が広く用いられていました。しかし、うつ病寛解後に残遺症状としての不眠症状、すなわち残遺不眠が高頻度にみられること4,5などから、近年はうつ病に併存する不眠症状を、「併存不眠」の概念によってうつ病とは独立した病態ととらえる考え方が一般的となっています。

うつ病寛解後の残遺不眠はうつ病の再発リスクを高めるという報告があります6。ただ、評価尺度を用いてうつ病寛解と評価される状態であったとしても、残遺不眠がある場合はそもそも社会機能の回復が十分ではなく、就労も難しいと思われます。そのため残遺不眠に対しては、不眠症状を十分に改善させる治療をしっかり行う必要があると考えています。

なお、不眠症状は一般的に、症状発現パターンにより「入眠困難」、「中途覚醒」、「早朝覚醒」といったタイプに分類されています。かつては早朝覚醒が、うつ病の発症リスク因子や、うつ病に併存する不眠症状として特異的に現れる症状と考えられていましたが、近年のデータからは、いずれかのタイプが特異的にうつ病と関連するとは言えないと思います3,7,8。日本人を対象とした研究により、入眠障害がうつ病と関連することを示唆した報告7,8もありますが、一般的に不眠症状の中で最も高頻度にみられるのが入眠障害であることを反映しているのではないかと推測しています。

―不眠症状とうつ病の関連性の背景として、両者に共通するなんらかの生物学的な基盤が存在すると考えられるのでしょうか。

うつ病という疾患自体が生物学的な不均一性の大きい疾患とされている一方で、不眠症状の病態生理に基づくタイプとして「過覚醒型」、「リズム障害型」、「恒常性異常型」といった違いが存在すると考えられています。したがって両者の関連性の背景となる生物学的基盤についても一様ではないと言えます。

過覚醒型は、ストレス下での不安や抑うつによる緊張から起きる不眠症状であり、その背景因子として、神経症傾向などの性格特性に起因するストレス脆弱性があると考えられます。このストレス脆弱性が共通してうつ病の発症にもつながるため、過覚醒型不眠症状はうつ病の発症リスクとなったりうつ病と併存したりすると考えられます。共通基盤のストレス脆弱性に対し、過覚醒型不眠症状がしばしばうつ病発症に先行するのは、不眠症状のほうがより若年のタイミングで、もしくはより低いストレスレベルで発症する傾向があるためではないかと推測しています。なお、うつ病と過覚醒型不眠症状に共通した病態仮説として、視床下部-下垂体-副腎(HPA)系亢進の関与が指摘されており9、より詳細な機序解明に向けたさらなる検討が期待されます。

リズム障害型は、夜間の光曝露などにより睡眠・覚醒の概日リズムの後退化が生じて現れる不眠症状であり、若年者に多くみられます。このような概日リズム障害による睡眠障害は、睡眠・覚醒リズムの後退化に伴う入眠時間の延長により、不眠症状のみならず起床困難や過眠症状ももたらす特徴があります。加えて、そうした睡眠・覚醒リズム障害はうつ病患者よりも双極性障害患者や、神経発達症に併存する抑うつ状態の患者に特徴的にみられます。このことから、うつ病と診断した患者が不眠のみならず起床困難や過眠症状を呈している場合には、双極性障害のうつ病相の患者が概日リズム障害をきたしている可能性があると思います。

恒常性異常型は、主に高齢者で、日中の活動性低下や生理的な範囲を超えた長時間の夜間床上時間などに伴い、恒常性維持の生理的な働きが適切に機能せずに不眠症状をきたすものであり、うつ病に直接的に結び付くリスクは高くはないと思います。

他方、うつ病に併存する不眠症状の特徴として、以前はレム睡眠の増加が注目されていました。レム睡眠潜時の短縮、レム睡眠中の急速眼球運動出現率(レム密度)の上昇、深睡眠の減少などがうつ病の特徴的所見とされ10-13、レム睡眠の増加がうつ病発症・増悪をもたらしている可能性が指摘されていました。これに対し近年、うつ病に伴うレム睡眠の増加には防衛反応としての有益な意義があるのではないかという異なる指摘もされており、現在も議論が続いています。

また、残遺不眠に関しては成因が非常に多様であり、過覚醒型不眠症状が生活リズムの乱れによってリズム障害型に変化し難治化するケース、うつ病の薬物療法の副作用として不眠症状が現れるケース、睡眠時無呼吸症候群など他の睡眠障害を併発しているケースなどを含みます。

―ここまで解説いただいてきた不眠症状とうつ病の関連性を踏まえると、不眠症状を治療することにはどのような臨床的意義があると言えますか。

うつ病発症予防の観点からは、不眠症状が主訴である段階での早期介入によって、うつ病への進展を予防できる可能性があると考えています。また、不眠症状自体が倦怠感、意欲低下、集中力低下などさまざまな機能障害を引き起こすため、それらを改善させる目的での治療介入は必要と考えています。

うつ病に併存する不眠症状については、うつ病に伴う各種症状のなかでも患者さんがとりわけ強く苦痛を訴え、治療による改善を希望する症状であると感じています。また、自殺や悪夢との関連も指摘されているので14,15、可能なかぎり急性期の段階から早期介入して症状改善を目指すことが予後向上に結び付くと考えています。

残遺不眠については、前述のとおり社会機能を回復してうつ病からの社会復帰を果たすために、不眠症状を確実に改善させる治療を行うことが重要と言えます。

―不眠症状に対する具体的な治療介入の考え方について教えてください。

基本的には不眠症状の成因を、前述した病態生理の異なる3タイプのいずれに当てはまるかによって見極めたうえで、その要因に合わせて非薬物療法を含めた適切な治療法を選択することが重要です。この考え方は、うつ病との関連性があるかどうかによらず、不眠症状の治療における本質であると考えています。

過覚醒型不眠症状に対する治療では、薬物療法がある程度は必要です。加えて非薬物療法として、認知行動療法を構成する治療技法の一つであるリラクゼーション法や、認知療法などの心理療法に効果が期待できます。リズム障害型不眠症状は薬物治療抵抗性となりやすく、睡眠・覚醒リズムを整えるための非薬物療法として夜間の光曝露制限などの睡眠衛生指導を行うことが重要と考えています。恒常性異常型不眠症状は、生活習慣を整え、臥床時間を短縮して活動量を増やすため、非薬物療法として認知行動療法の治療技法の一つである睡眠制限法が用いられます。

不眠症状の治療では、睡眠衛生指導や認知行動療法を含む非薬物療法をどう活用するかが非常に重要と言えます。薬物療法だけでコントロールしようとしても、基盤としての睡眠衛生・生活習慣改善が不十分であれば期待した症状改善を得るのは難しく、薬剤の多剤化・服用長期化につながりやすいと思います。

一方で、うつ病の急性期に、うつ病の症状に加え併存する不眠症状も重症度が高い場合は、最低限の睡眠衛生指導と並行して迅速に薬物療法を開始し、可能なかぎり早く症状改善を得ることを優先する必要があると考えます。非薬物療法の役割はその後、症状改善が得られて維持期に入ってから重要になると考えています。このように、うつ病に併存する不眠症状に対し薬物療法・非薬物療法による治療戦略を検討する際は、うつ病の急性期・維持期を区別して考える必要があると思います。

うつ病の維持期の不眠症状、すなわち残遺不眠の治療では、薬物療法をいったん実施したうえで症状が残遺していることを踏まえて、まずは不眠症状の成因を慎重に再評価することが重要と考えます。改善されていない睡眠衛生、薬剤の副作用、他の睡眠障害の併発などの可能性を一つ一つ丁寧に検討し成因を見極めたうえで、基本的には薬剤の増量や追加ではなく、非薬物療法を選択することが望ましいと考えています。

―現代社会で生活する人々の睡眠をめぐって懸念される問題について教えてください。

以前から言われてきたことですが、多くの人々が夜間に社会活動を営むようになる社会の夜型化が進むなか、現代人の体質も夜型化し、1日のなかで示す活動の時間的指向性が夜間に寄るようになってきています。それに伴い、社会の夜型化と夜型体質の人の増加がさらに進む悪循環に陥るなか、リズム障害型不眠症状を抱える人が増えていると考えられています。

こうした現代人の不眠症状の問題は、2020~2023年のCOVID-19感染拡大下であらためて浮き彫りになりました。テレワークやステイホームが推進される状況下で、就労世代では日中に太陽光を浴びずに労働時間のメリハリなく夜遅くまでPC作業をするなどして、概日リズムが障害され、不眠症状をまねくケースが見受けられました。高齢者もステイホームによって日中の活動量が低下したことで、恒常性異常型不眠症状をきたすケースが見受けられました。また、COVID-19感染拡大下で不眠症状や抑うつ症状が高頻度にみられたという報告は数多くあります16

夜間に長時間、人工光に曝露することや日中の活動性を極端に下げてしまうことなど、現代人が行いがちな生活習慣の一部は、不眠症状を含む睡眠の問題を悪化させうることが浮き彫りになりました。夜型化やデジタル化といった社会の変化による恩恵を拒む必要はありませんが、不眠症状はうつ病の発症リスク因子になることを考慮すると、うつ病予防の観点からも、そうした不適切な生活習慣を避けることが必要であると思います。そうした生活習慣に起因してリズム障害型不眠症状を発症した場合には、前述のとおり薬物治療抵抗性となるため、睡眠衛生指導などの非薬物療法によって生活習慣を改善することがやはり不可欠になると考えます。

 

取材/撮影:ルンドベック・ジャパン Progress in Mind Japan RC
取材日:2023年8月18日
取材場所:ルンドベック・ジャパン株式会社

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参考文献

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