THINC-it®について

Q1.いつ完成されたアプリですか。

Q2.何を知ることができるアプリですか。

Q3.テストは既存のどのような神経心理学テストに基づきますか。

Q4.検証試験は行われていますか。

Q5.うつ病の患者さんと健康成人でのTHINC-it®の測定値の違いはみられましたか。

Q6.測定時間はどのくらいですか。

Q7.日本語版はありますか。また、他国の言語でも実施できますか。

Q8.THINC-it®の安定性、信頼性および妥当性について検討していますか。

 

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本ツールは、

  • 医療機器として認可された「診断用」ツールではありません。
    あくまで診断の参考になるようなデータを提供する「研究用」としての使用に留めて下さい。 
  • 医師の指示の下、医療従事者が患者さんに使用するためのものです(For Clinical Use)。 
  • 商用利用はできません。

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Q1.

いつ完成されたアプリですか。

 

A1.

2016年から提供を開始しています。

 

 

Q2.

何を知ることができるアプリですか。

 

A2.

THINC-it®は、テスト実施者の現在の認知機能・遂行機能の状態を確認できるツールです。各4種の神経心理学テストと自己評価尺度の5つの内容を10~15分で実施できます1
結果は、健康成人のスコアと比べた状態を確認できます。

 

  1. PDQ-5D:
    注意力/集中力、計画/組織化、および、遡及的および将来的な記憶を幅広く評価する5項目の自己評価尺度です。過去7日間の状態を5段階で答えていただきます。
     
  2. Spotter(スポッター):
    主に注意力を評価し、実行機能の要素も評価します。
     
  3. Symbolcheck(シンボルチェック):
    作業記憶、実行機能、注意/集中力を評価します。
     
  4. Codebreaker(コードブレーカー):
    実行機能、処理速度、注意/集中力など複数の認知スキルを評価します。 
     
  5. Trails(トレイル):
    実行機能を評価します。 

 

 

Q3.

テストは既存のどのような神経心理学テストに基づきますか。

 

A3.

THINC-it®は、認知機能に関連する既存の紙面で行われている以下の検査バッテリーにそれぞれ基づいています1,2

 

  • PDQ-5D:Perceived Deficits Questionnaire for Depression 5項目版
    – 思考力、記憶力や集中力などの認知についての自己記入式の(主観的な)質問
  • Spotter:Identification Task;Choice Reaciton Time paradigm
    – 選択反応時間課題に着想(集中力・注意力測定)
  • Symbol Check:One back test (N-back test) に着想(作業記憶テスト)
  • Codebreaker:Digit Symbol Substitution Test(DSST): 数字符号置換検査に着想(複数の認知スキル測定のためのコーディングテスト)
  • Trails:Trail making test part B(TMT)
    – 実行機能テストに着想

 

 

Q4.

検証試験は行われていますか。

A4.

うつ病患者を対象にアプリ、筆記テストとの間で併存的妥当性と内的一貫性について検討が行われています1
併存的妥当性はCodebreakerーDSST間で最も高くSpotterーCogState IDN間で最も低いものでした(以下、peason r、N、P値)。

 

  • SpotterーCogState IDN:(r83 = ―0.083、P = 0.454)
  • Symbol Check-OBK :(r87=ー0.146、P=0.176)
  • CodebreakerーDSST:(r90 = 0.692、P <.001)
  • Trails -TMT-B:(r90 =-0.132、P=0.215)
  • PDQ-5D(THINC-it®)-(Paper and pen):(r90 = 0.929、P<0.001)


内的一貫性の推定値(Cronbach α)は、THINC-it®におけるPDQ-5-D:0.769(N=90) 、THINC-it複合:0.370(N=90)、THINC-it客観的テスト4種:0.551(N=81)であり、それぞれの筆記で回答した場合は、PDQ-5-D:0.785(N=90)、全5テスト:0.130(N=81)、客観的4テスト:0.350(N=81)でした。
 

こちらも併せてご参照ください:THINC-it医師向けガイド

 

 

Q5.

うつ病の患者さんと健康成人でのTHINC-it®の測定値の違いはみられましたか。

A5.

18₋65歳のうつ病患者(N=90)と健康成人(N=92)を対象に行ったVallidation試験1において、客観的認知機能を測定したTHINC-it®複合スコア(MD [SE] = -0.23 [0.09]、P = 0.013、95% CI: -0.40~-0.05、t-test)、PDQ-5-Dのzスコアにおいて両群間に有意差を認めました(MD [SE] = -3.95 [0.23]、P < 0.001、95% CI: -4.40~-3.50、t-test)。

うつ病の32.2%が 健康成人 の平均値から 0.5~1SD (標準偏差)低く、44.4%が 1SD 以上低い状態でした。うつ病の方の平均値と比べてTHINC-itの結果が高かった健康成人は97.8%でした。 

 

こちらも併せてご参照ください:THINC-it医師向けガイド

 

 

Q6.

測定時間はどのくらいですか。

A6.

テストはそれぞれ2分間で行います。4テストと1つの質問票(PDQ-D5)を行う場合、全て終了するには約10分です。
使用方法の説明、終了後の内容の確認を含めると15分程度となります1
 

こちらも併せてご参照ください:THINC-it医師向けガイド


 

Q7.

日本語版はありますか。また、他国の言語でも実施できますか。

A7.

日本語のほか、合計15か国語で使用できます。
アプリを起動させると、言語選択ボタンで使用言語を選ぶことができます。

 

  • サポート言語:
    15言語(2021年7月現在)
  • 使用可能言語:
    英語、ドイツ語、フランス語、イタリア語、スペイン語(スペイン語)、スペイン語(メキシコ)、ポルトガル語(ブラジル)、韓国語、中国語(簡体中文)、オランダ語、デンマーク語、ポーランド語、日本語、ハンガリー語、アラビア語 

 

 

Q8.

THINC-it®の安定性、信頼性および妥当性について検討していますか。

A8.

健康成人100名を対象として、THINC-it®の各テストの時間的信頼性、被験者内パフォーマンスの安定性、対応する記述式検査との相関性および被験者内測定値の信頼性について検討されています(表)。被験者はiPadにて、THINC-it®、Cog-state、記述式One back課題、DSST、Trail Making Test Part Bを初回実施日に3回、1週後に1回実施して検討されました。
解析の結果、信頼性と安定性が得られ、収束的妥当性では、Symbol Checkが低かったものの、許容範囲内であったとされています。

 

表:THINC-it®各5テストの信頼性と安定性 (ピアソンr値 [95%CI] )

※表をクリックすると拡大表示されます。


 

V:visit(訪問)、A:attempt(試行)、CI:confidence interval(信頼区間)
WSD:within-subject standard deviation(被験者内標準偏差)

a:Within-subjects standard deviation 標準偏差内に含まれる
b:Perceived Deficits Questionnaire-Depression 5 item version for depression
c:(P&P)/0.752(PDQ-20)
d:PDQの「内的整合性」

             

対象・方法:

健康成人(Social media募集)100名(男58、女42、平均39.98歳)にiPadにてTHINC-it®、Cog-state、紙と鉛筆で行う記述式One back(OBK)課題、DSST、Trail Making Test Part Bを実施した(各50名で記述式とi-Padの順番を変え実施)。初回実施日(Visit1; V1)には3回 (Attempt; A1-A3) 、1週間後(Visit2; V2)に1回実施した。

 

検討内容:

  • 時間的信頼性:THINC-it®とPDQ-5Dの経時的な試験成績の安定度を示す評価基準である。V1/A1とV2、V1/A1とV1/A2、V1/A3とV2間のスコアの相関で算出。V1/A1とV1/A2の相関は、超短時間での成績の安定度である。許容値は0.7以上とした。
  • WSD安定性:被験者内の分散によるパフォーマンスの安定性を示す。V1/A1-A3で行ったTHINC-it®の4テストすべての各測定値のwithin‐subject standard deviation (WSD) 値を算出し、第一回目の測定(V1/A1)での被験者間CIと比べて小さいかどうかを判断した。
  • 収束的妥当性:THINC-it®と対応する記述式検査との相関性。
  • 被験者内信頼性(intra-rater reliability):テストへの暴露効果は、最初の2回の評価間に生じる傾向がある (Falleti, Maruff, Collie, & Darby, J Clin Exp Neuropsychol, 2006;28(7):1095-1112) という報告から、テスト慣れや練習に起因する変動の多くは、2回目の評価で消滅すると仮定し、ピアソンのr値をV1/A2とV1/A3の間で算出し、評価者内の測定値の信頼性を評価。 許容値は0.7以上とした。
  • 内的一貫性:PDQ-5Dに関して、Cronbachのαスコアを算出。許容値は0.7以上とした。

 

結果・考察:

  • 時間的信頼性:

①V1/A1-V2:4項目で得られたr値は、幅0.74~0.81の間にあり、PDQ-D5では0.72で、許容値の範囲内であった。

②V1/A1-V1/A2:4項目で得られたr値は、幅0.54~0.90の間にあり、PDQ-D5では0.72で、一部を除き許容値の範囲内であった。

③V1/A3-V2: 4項目で得られたr値は、幅0.80~0.88の間にあり、PDQ-D5では0.78で、許容値の範囲内であった。

  • WSD安定性: 正答を求めるテストでは5.9、11.23、時間測定では17.3秒~73.5秒であり、V1/A1での被験者間CIと比較し低く安定性が示された。
  • 収束的妥当性:TrailsとTMT-B間の相関は0.74, CodebreakerとDSST間の相関は0.63で、代用指標になりうることが示された。Symbol CheckとOBKテスト間の相関は0.19と低く、代表指標とはならないことが示された。これは、OBKよりSymbol Checkの方が注意力と実行力などがより多く要求される課題であることが原因と考えられた。 
  • 被験者内信頼性:V1/A2とV1/A3間の相関は 0.7~0.93で許容値の0.7以上であった。
  • 内的一貫性:PDQ-5-DにおけるCronbachのαスコアは0.76で、許容値の0.7以上であり、かつ「過度の」アイテム間の一貫性を示すレベルより低かった。

 

Limitation:被験者が高学歴であったこと、TMT-Aを実施していないことによる影響、デジタル操作が慣れている可能性などが考えられる。

 

引用)Harrison JE et al, Int J Methods Psychiatr Res ,2018;27:e1736

 

本試験は H. Lundbeck A/S 社の資金提供を受け実施された。著者に Lundbeck 社より講演料、コンサルタント料等を受領している者が含まれる。


 

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参考文献

  1. McIntyre RS et al, J Clin Psychiatry. 2017 Jul;78(7):873-881.
  2. Harrison JE et al, Int J Methods Psychiatr Res. 2018 Sep;27(3):e1736.