通常の治療+ACTは運動ニューロン疾患患者のQOLの維持・改善に有効

運動ニューロン疾患の患者に対する通常の治療に、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(acceptance and commitment therapy[ACT];受容、マインドフルネス、モチベーションおよび行動変容の技法を組み合わせた、認知行動療法の一種)を加えると、患者のQOLの維持や改善がもたらされ、臨床的に有効であるとする多施設共同ランダム化比較試験の結果が、「The Lancet」に2024年5月9日掲載された1

運動ニューロン疾患は、運動皮質および脊髄の運動ニューロンの進行性変性により四肢麻痺、構音障害、嚥下障害、呼吸不全などが生じる致死的な神経疾患で、現時点で治癒に導く治療法は存在せず、QOLの管理が重要な課題となっている。

英ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)精神医学分野のRebecca L. Gouldらは、運動ニューロン疾患患者に対する通常の治療にACTを加えることがQOL改善に有効か否かを、通常の治療のみを行った場合との比較で評価した。対象は、英国の16施設の運動ニューロン疾患センターまたはクリニックで治療を受けている、18歳以上で、運動ニューロン疾患〔家族性または孤発性の筋萎縮性側索硬化症(ALS)、進行性筋萎縮症、原発性側索硬化症〕であることが「確定的(definite)」「検査結果からほぼ確実(probable)」「臨床的にほぼ確実(probable)」または「可能性あり(possible)」と診断された患者191人(女性80人、男性111人、平均年齢63.1歳)。これらの患者を、1対1の割合で、通常の治療+ACTを受ける群(ACT群、97人)と通常の治療のみを受ける群(対照群、94人)にランダムに割り付け、その6カ月後と9カ月後に追跡調査を行った。ACTは、1回1時間の1対1のセッションを、原則として対面またはビデオ電話、やむを得ない場合は電話で計8回(最初の6回は毎週、残る2回は隔週)実施した。

主要評価項目は、ランダム化から6カ月後のMcGill Quality of Life Questionnaire-Revised(MQOL-R)で評価したQOL、副次評価項目は、ランダム化から6カ月後と9カ月後にさまざまな評価尺度を用いて評価した、抑うつや不安、心理的柔軟性、疾患の進行状況など心身の状態や治療の満足度とし、修正ITT解析で多層混合効果モデルを用いて評価した。

必要なデータが得られた81%(155/191人)の対象者のデータを用いて主要評価項目について検討した。その結果、ランダム化から6カ月後のMQOL-R総スコアは、ACT群で6.88〔標準偏差(SD)1.68〕点、対照群で6.34(同1.63)であり、前者では後者に比べてスコアが有意に高かった〔調整平均差0.66(95%CI 0.22-1.10)、効果量(Cohen's d)0.46(95%CI 0.16-0.77)、P=0.0031〕。この結果は、ランダム化から9カ月後の時点でも同様であった〔調整平均差0.76(95%CI 0.30-1.22)、Cohen’s d 0.53(95%CI 0.21-0.85)、P=0.0011)。副次評価項目の中では、MQOL-Rで評価した心理的および存在的サブスケールと修正版HADS(Hospital Anxiety and Depression Scale)で評価したうつ病(いずれも6カ月後と9カ月後)、AAQ-II(Acceptance and Action Questionnaire-II、9カ月後)で評価した心理的柔軟性、EQ-VAS(EuroQol-visual analogue scales、6カ月後)で評価した健康状態において、ACT群での有意な改善が認められた*a

著者らは、「通常の治療に加えてACTを受けた運動ニューロン疾患患者のQOLは、ランダム化から6カ月後にも9カ月後にも、維持または改善されていることが確認された。この疾患が進行性のものであり、また生存期間を大幅に延長する治療法がない現状に鑑みると、QOLの維持や改善に焦点を当てた介入法は極めて重要だ。本試験は、ACTを取り入れた介入法の、確固としたエビデンスとなるだろう」と述べている。(編集協力HealthDay)

 

注釈
*a
MQOL-R心理的サブスケール
6カ月後:調整平均差0.71(95%CI 0.02-1.39)Cohen’s d 0.30(95%CI 0.01-0.60)、 P=0.043
9カ月後:同1.10(0.40-1.80)、0.47(0.17-0.78)、P=0.0020
MQOL~R存在的サブスケール
6カ月後:同0.72(0.23-1.20)、0.43(0.14-0.73)、P=0.0042
9カ月後:同0.65(0.09-1.21)、0.39(0.05-0.73)、P=0.023
AAQ-II
同−2.54(−4.52-−0.55)、−0.28(−0.50-−0.06)、P=0.012
EQ-VAS
同6.49(1.28-11.7)、0.30(0.06-0.54)、P=0.015

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参考文献

  1. Gould RL, et al. The Lancet. Published online May 9, 2024. doi : 10.1016/S0140-6736(24)00533-6