日本うつ病学会、「高齢者のうつ病治療ガイドライン」の改訂版を公表
日本うつ病学会の気分障害の治療ガイドライン検討委員会は、「高齢者のうつ病治療ガイドライン」(日本語版)を作成し、2020年7月に公表している1。順天堂大学医学部精神医学講座の馬場元氏らは、このガイドラインに、3人の世界的な専門家の提言、および本ガイドライン公表以降に報告されたエビデンスを追加する形で改訂し、英語版としたものを「Psychiatry and Clinical Neurosciences」に2022年3月11日発表した2。
本ガイドラインでは、まず基本原則が述べられている。その内容は、本ガイドラインは、高齢者のうつ病患者に対する診療をサポートするために作成されたものであって、治療を決めるために用いるものではないこと、したがって、医師は、本ガイドラインに縛られることなく、自分の裁量で治療方針を決めるべきであること、である。これに続き、「総論(A、B)」と「各論(C)」に具体的な指針が示されている。
総論Aのタイトルは「治療導入に際して」で、治療開始前に考慮すべき事項について、3つの項目が挙げられている。「うつ病の診断」という項目では、診断は高齢者においても一般成人と同じであるが、双極性障害、認知症、アパシー、せん妄、身体疾患・脳器質疾患に基づく抑うつ状態、薬剤誘発性の抑うつ状態との鑑別を慎重に行うべきことが記されている。また、「臨床的特徴」では、自殺念慮などの頻度が高く、うつ病の再発率も高いことが挙げられ、「薬物動態」では、有害事象が発現しやすく、併用薬との相互作用に留意すべきとされている。
総論Bのタイトルは「状態の評価と基礎的介入」で、2つの項目に分かれている。「状態の評価」では、自記式評価尺度の例が挙げられ、患者の臨床的特徴、および病因や病状に関係する心理社会的背景を十分に理解すべきだとしている。続く「基礎的な介入」では、本人や家族などに対して、心理教育や環境調整を行うべきことや共感的態度を取るべきことが示されている。
各論(C)のタイトルは「治療」で、11の重要な臨床課題について具体的なクリニカルクエスチョン(CQ)が提示され、システマティックレビューとエビデンスの評価を行った上で、それへの回答としての「推奨」が示されている。例えば、「有用な精神療法はあるか」というCQには、「推奨」として問題解決療法、回想療法/ライフレビュー療法、行動活性化療法、その他の心理療法が有用であると述べられている。また「推奨される抗うつ薬はどれか」というCQに対しては、新規抗うつ薬、ないし非三環系抗うつ薬(non-TCA)を推奨している。さらに、「維持療法における適切な抗うつ薬の投与期間はどの程度か」に対しては、寛解が得られても、少なくとも1年は治療を継続することが推奨されている。「第一選択薬に抵抗性を示す患者に対し、抗うつ薬以外の薬物の追加(増強療法)は有用か」には、有用であるとしている。「電気けいれん療法(ETC)は有用か」「反復経頭蓋磁気刺激療法は有用か」に対しては、どちらも有用であるとし、「その他、有用な治療はあるか」に対しては、運動療法、高照度光療法、食事療法が挙げられている。
最後に著者らは、「高齢者のうつ病は個人差が大きく、また大うつ病性障害(MDD)の高齢者を対象にしたランダム化比較試験(RCT)は、若年者を対象にしたRCTに比べて数が少ないことから、うつ病の高齢患者に対する治療の推奨事項は、若年者に対する推奨事項ほど確証が得られたものとはいえない。そのため、高齢者のうつ病に対しては、さまざまな状態、状況を考慮した上で、個々の患者に応じたオーダーメイドのきめ細やかな治療を提供する必要がある」と結論付けている。(編集協力HealthDay)
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